第13話 特訓3・残酷な夢
やっと試験が終わった。
俺はつかれて地面に座り込んで息を整えた。
判定はエデンの独断と偏見らしいが、かなり判定の正確さには自信を持っているという。本当かなぁ?と俺はいまだ疑っている。
ドキドキしながらその結果を待っている間、気を紛らわすようにさっきまで使っていたボールを殴って蹴っていた。不思議なことに、思いっきり蹴ったのにその傷跡は細かいキズが付いているだけでほとんど無傷と変わらなかった。
不思議だなと思いながらそのボールを無意識的に蹴っていると、
「……よし、大体は決まったよ。」
「おっ、早いな」
エデンは俺の顔を見ると、不満げな顔をした。
やはり何か問題点でもあったのだろうか?など考えて心臓の鼓動が速くなる。
テストの合格発表はいつもこんな感じだが、やはりいつでも緊張する。とくにデメリットもメリットもないが、テストと聞くと自然とそうなる。原理は知らない。
エデンは俺のことを手で指した。
「ニグは、100点中78点だ!」
「78点……」
「そう。技能点30点満点、工夫点30点満点に自己理解力40点満点。んで技能が-1、工夫は満点、自己理解力は低めで17点だ。」
「自己理解力?なんでそんな低いんだよ?というかなんで急に点数形式?」
これまでは合格化不合格だったはずなのに、なぜ今回から点数形式なのだろう。
質問はしたが、どうやら答えてくれることはないようだ。
エデンは説明する前に一呼吸置いた。
「自己理解力っていうのは、自分がこうだからこうやれば最善の行為ができるのを考える力だ。ニグはまだ自分の力を理解しきってなくて、最短での戦い方を自分でわからないんだ。」
「最短って……時間かかっても勝てばいいじゃないか」
「いやいや、もし敵が私より強くて、ソイツと勝負してあと少し魔力があれば勝てそうな状況になったら……どうする?」
「……突っ込んだら負けるから、逃げたふりをして回復してから奇襲をかける。」
「違う。私より強かったら気配感知の力も強い。だから到底奇襲なんて当たらない。むしろカウンターを食らって死ににいくようなもんだ。」
「そうか……」
エデンの説明は、事実のように一言一言がはっきりとしていた。少し言い方が鼻高々で癖があるが、どれも確証は聞かずとも説得力が強く、理由や実際にあったことを聞かずとも不思議とそれが事実だと納得した。
これも魔法の力か、はたまたエデンの才能か。
「なんとなく、わかったか?他に説明はいるか?」
「う、うん。ホントになんとなくだけど……」
「ならいい。そのなんとなく、がこれから大事になってくると思う。」
「……?」
急に意味不明なことを自慢げに言ってきて、意味がわからず俺は首をかしげた。
エデンは言葉を続ける。
「敵には、なんとなくしかわからない敵がいる。例えば、見えない敵や正体不明な敵。その敵をすぐ理解するにはなんとなくを頼りにするしかないんだ。一から色々とじっくり探ると、時間がかかり体力がなくなっちまう」
「はぇ〜」
エデンの言葉にやはり有無も出ない。深く頷いた。
その時、またパタリと意識を失いそうになった。卵の殻が割れたときと同じくらいの衝撃が体の中に響いてきた。
体の力が抜けて座り込み、地面に座り手のひらで体を支える。体に力をいれようとも、痛みが走ったり急激に吊ったりして痛い。エデンはその様子にすぐ気づき、俺をゆっくりとすくいあげた。
目が合うと、エデンは安心してため息を吐いた。
「ぶっ通しで体動かしたんだし、もう疲れたんでしょ。もう休みな。」
「ああ……ありがとう。もう限界……」
そう言うと俺はすぐに目を瞑った。
――――――――――――
また夢を見た。
また声が聞こえてきてうじうじと何か言ってくるのかと思いきや、今度は前世のことだ。
なぜ急に?と俺は考えた。
視界には校舎裏らしきところに俺ら4人が先生から隠れて授業をサボっている様子が見える。会話している内容は聞こえないが、とても楽しそうにヒソヒソと話していた。
確か俺は小学校の頃は鼻に絆創膏をつけた悪ガキだった気がする。記憶はないものの、由来不明の確証があった。
懐かしい。
その景色を見ているだけで、あの頃に戻りたい気持ちが出てきて、泣きそうになった。
だが、その俺と楽しく遊んでいる他の子たちは、俺のいじめっこでもあった。
急にその後のいじめっ子である彼らに、ナイフを持った俺が見つめては切りようと振り上げる場面に変わった。
突拍子もないことだが、そのおかげでここは空想の世界、夢だ。とそこで気づいた。
リアルの俺だったら、ナイフなんか持たない。いじめっこに挑んだとしてもナイフを奪われて切られる可能性があるからだ。
おい!といじめっこが俺に声をかけたようだ。
また校舎裏にこいと言われるのかと思ったら、次の瞬間、彼がこちらを向いた。
俯瞰してる俺と、目があったのだ。
…………気づいてしまった。思い出してしまった。
この目は、光を失っている。と。
「俺のことを殺してくれ。」と言っているようだった。
そういえば、いじめは悲惨なものだったが、親からの教育云々でそのときはいじめっ子を殺そうと考える自分がとても憎い、と思ったこともあったような気がする。
――これがお前の本性
そうあのときの声で語りかけてきた。
違う。と答えると、目の前のいじめっこたちが殺されていた。その動きは風のように俊敏で、切られて間もなくいじめっ子たちは倒れ、血しぶきだけが残っていた。
辺りに悲鳴が響くだろうが、音は不思議とまったくないように思った。
叫ぶ間もなく舌と喉を切りつけたのだろう、と思ったからである。
この夢が何を示しているのかは全くわからないが、あの声が出てきたことで、何か意味はありそうだ。
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