第12話 特訓2

 エデンと俺は見合い、お互いの体を観察し状態を確認し合う。


 どこが隙でどこが得意なところ、そしてどこが状態異常になっているかとかは最初のポーズに結構はっきりと出るらしい。

 

 例えば、体の右が前に出てるなら右利きで右手を使う攻撃が多い。体の左が前に出てるなら左利きで以下同文。

 それで、しゃがんでれば速さ重視、はっきりとこっちを向いていたらスタミナ重視、じっくりと相手を見て周りも見て観察しているようだったら攻撃重視、後ろにいるのが回復重視の戦い方だ、と教わった。


 今回はエデンはこちらをはっきりと向いてどちら側も前に出していない、のでスタミナ重視かつ速さ重視の構えだろう。

 俺はちょっとだけ右を前に出して足を広げて周りを見渡しどこがどう利用できるか観察をする。攻撃重視である。

 スタミナには自信があるため、確実にダメージを入れられる攻撃の方が自分の性にあっている。


 「始めるよー!」

 「大丈夫ー!」


 さっきと同じで、離れて向き合う方式の戦いでテストをする。


 エデンはそういうと、手を上げて、その手を下に振り下ろした。

 開始の合図だ。


「条件は、体の上に乗ること!じゃ、始め!」

「おう!」


 俺は足に力を入れ、ふくらはぎの筋肉をバネのようにして走り出す。力をうまく込められ、幸先の良いスタートを切ることができた。

 目の前を見ると、何回も戦ってきたエデンの大きな体がある。未だ慣れずに体が日和りそうだが、なんとか恐怖に打ち勝ち走る。


 そして大きな体の下に来ると、エデンはその大きな足で俺を追い払おうと足払いをする。

 その足払いの位置を考え、俺は乗るように俺の足を向けて、その力に耐えながら体をバネのように上手く利用し、斜め上に大きく飛び立つ事ができた。


 だがその角度が浅すぎた。

 どうにか壁についたはいいものの、その壁からエデンは遠すぎる。もう少し上だったりしたらいいのだが……うーんどうしようか。

 風魔法で体を浮かす事もできるが、体術試験に攻撃系の魔法はだめと言われているので、さてどうしようか、とその一瞬の間で俺は考える。


 時間が遅く感じる魔法を自身にかけた。

 身体的に影響するものでなければ使用してもいいだろう。


 ええっと……エデンまではあと500m、全力で走れば10秒で走りきれそうな距離である。

 だがその10秒をどうするか。走る?いやそれだとエデンにまた足払いされ同じことの繰り返しだ。そしてあらぬ方向に飛ばされ今と状況は変わらなくなってしまう。

 確実なのは、その足に捕まり登ることなのだが、まだエデンの体に揺られながら乗れるほど体力も腕力も跳躍力はないので諦める。


 なら……これか。


 俺は飛び下り、急いで走りエデンの死角に入る。


 エデンのケツなら、頭や足より若干低い位置にあるし、一回のジャンプで余裕で届く。

 俺はエデンの舌を通り抜けると、背後に来てその穴めがけて真上に飛んだ。

 少し汚いが、エデンに攻撃を当てるにはそこを登るしかない。


 おもいっきり飛び上がり穴の縁を掴むと、そのまま振り子の原理で体を持ち上げ、そのまま空中に円を描いてエデンの体の上に飛び上がることができた。

 防ごうとする足が見えるが、気にせず避けることもせずその背中に足をついた。


「っしゃあああああああ!」


 エデンは俺が飛び乗るとすぐに攻撃を止めた。


 もうちょっと遅ければ、そのエデンの攻撃は当たっていたかもしれないくらい、エデンの足は迫って来ていた。


「エデン!これでいいか!」

「ああ。条件は合格だし足技もある程度できそうな足をしている。……だがその技を見てないぞ?」

「あ」


 うっかりしていたようで、これが体術の技ということを忘れていた。ただ目の前の目標に一生懸命になってしまった。


 とくに相手の攻撃を受け流すものができなかった。足払いはそういうことか。


 エデンは少し悩んだ。

 俺の合否を決めかねているのだ。


 「うーん体力的には…………」


 エデンは色々とぶつぶつ呟き、考えていた。一体結果はどうなのだろう、と俺はドキドキが止まらなかった。

 すこし考えたあと、なにか思い出したようだ。


「あっじゃあ、今度は体術だけを見せてみて、ボール投げるから」

 「ボール?」


 というと、エデンはちょっと離れて何か作業を初めた。


 後ろの穴から出した糸をランダムに撒き散らし、それを何重にも重ねる。

 

 粘性のある糸とない糸をうまく組み合わせ、表面はくっつかず、裏面だけくっつく布をつくっているようだ。


 それを何個も作り、俺より少しでかいくらいの適度なサイズに切り取ると、今度は細く頑丈な糸を作り出し、大きく縫った後に小さく頑丈に同じ場所を縫い始める。飾り縫いと本縫いのようだ。


 その手さばきは見ていられるほど研ぎ澄まされていて、その顔は職人のような圧を感じた。

 糸をある程度縫い終わると、糸を切ったあとまた太くしてから粘度の微調整を少しネバネバするくらいにし、今度はそれを穴からほぐしたた糸を綿のようにパンパンに詰め込んだ後、ボールのように丸く形を整えて、出入り口を塞げば、完成だ。

 

「よし!できた!」

「おぉーー!すごい」


 俺はエデンの喜ぶ姿に拍手を送った。

 エデンがこんな才能を持っていたなんて。

 

「空気じゃないんで弾みはしないが、その分飛ばないし殴るのには最適だ。ほら。」

 

 エデンはそれを俺の前に置く。置く瞬間力が強く地面が少し揺れた。


 俺の体くらいのボールは、想像以上に軽く、軽く殴るといい感じな反発力を感じられた。

 次にかなりの力を入れて殴っても飛ぶことはなく、ずっとそこにとどまっていた。

 俺はそのまま殴っているのか楽しくなっており、気がつけば笑っていた。


「フッ!ハッ!トォッ!……すげぇ、なあ!これどうやって作るんだ?」

「残念だが、蜘蛛属にしかできないことだ。」


 そう鼻高々に話すエデンはプライドの圧がすごかった。これだけは譲れないようだ。

 裁縫にかけた技術は本気なのだろう。と思ったが、顔がいつもと違い鼻高々でウザかったので尊敬はしなかった。


「さて。これで体術訓練ができるな。よし、試しに足技を適当にうってみろ」

「おう!」


 俺は足を後ろに下げ、土を払う。

 そしてそのまま力を一気に入れ、ボールにおもいっきり爪を食い込ませた。


「フッ!」

 

 その爪を食らってもボールは傷一つつかなかったが、1mほど飛んでいった。

 飛んでいるボールに走りだし、ドロップキックを横に回りながら打つ。そのつぎにボールが吹っ飛ぶであろう方向にボールより先に向かった。

 そして飛んでくるボールの前に立ち、逆立ちすると足を広げて、ボールの道を作るようにし、進む向きを真上に変えた。

 俺が人間の男なら、絶対できないことだ。


 上がったそのボールに向かって隙も作らず飛び上がり、空中で回転してかかと落としをぶつける。

 ボールは柔らかい筈だがその勢いで地面をえぐり、下部分が埋まってしまった。


 追加で攻撃を加えた方が良いかなと攻撃をまた考えていると、


「止め!」


 というエデンの合図があった。


 攻撃をしようとしていた足を止め、地面に降り立つ。そしてボールを持ってエデンのところへと持っていった。

 

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