第11話 特訓
エデンはあのあと急に、「特訓しない?」と言ってきた。
そこであることを思い出した。
「なあ、その、特訓を始めたのってなんでなんだ?あるひ急に特訓しようって言ってきたじゃないか。」
「あー……それは、ニグが言い始めたことだよ。」
「俺が?言った記憶はないけど、どこで?」
「寝言で言ってたんだ。「強くなりたい」って。」
その他にも、「うるさい」や「強くなればいいんだろ?」などというように聞こえ、だいたいその時はうなされているという。
うなされるのも数十分で終わり、目が覚める頃にはエデンも気にせず忘れかけているそうだ。
だがそれにだんだん違和感を持ち始めて、特訓しようと俺に声をかけた、という。
「そんなことが……」
「そう、けど二つ返事で受け入れてくれたから、夢の内容覚えてるのかと思ってた」
「いやいや、夢なんて1つも覚えてないよ」
「そうなんか……ああ録画魔法でもあればなぁ……」
録画魔法ってないのか。と俺は思い違和感を感じた。
……なぜエデンは、録画、という言葉を知っている?
だがそれに深く入ろうと思考を巡らすたび、それがなんだかおぞましく大きなものに立ち向かっているような威圧感を感じてその考えを止めた。
その気持が顔に出ていたのか、エデンは俺をつついた。
「ほら、何してるの?特訓始めるよ?」
「お、おう……」
エデンは俺になにか隠しているのだろうか。
そういう考えが頭の中にこびりついたまま、エデンに防御魔法をつけてもらってから反対方向に向かい、そこで手をふった。
ここから、戦闘時以外の会話は念話ですることになった。
「じゃあ、これまでは足技とある程度の魔法を教えてきたから、そのテストをするか!」
「テスト?!模擬戦とかじゃないよな?」
「残念、あたり!」
俺はテストというと模擬戦しか思い浮かばないほど、エデンに模擬戦をさせられ続けている。
なぜかと聞いたら、エデンも楽しいから、らしい。もっと実力差とか考えておくれよ……と俺は呆れため息を吐く。
エデンは魔法を唱える。
「■■■■■■■!」
遠くから聞こえるので何を言っているかわからないが、なんとなく温度と地面の揺れで火の玉、ファイヤーボールだとはわかった。
予想通り、向こうからは大きな火の玉が飛んでくる。
俺が今まで教わってきたのは氷魔法と風魔法だ。もちろん相性がいいのは氷だ。
「アイスウォール!」
そう唱えると目の前に氷の壁がイメージ通り出来上がる。
縦4m横3mの、火の玉なら十分に受け止められる大きさであった。
そこに火の玉がやってくると、氷の壁が溶かされていくのがわかる。じわじわと溶かし、氷越しに炎がうっすら見えるところで火の玉はかれた。
危ないところであった。もしあと少し火の玉が続いたら体術で躱せたとしても、ギリギリ尻尾の先が焼けてしまいそうだ。少しでも焼けるのは避けよう。
「氷の魔法の技術は満点!ギリギリを攻められてちょうどいいね!」とエデンは褒めてくれた。
「未だその判断基準がわからん!」
ギリギリじゃないと満点じゃないってどういうことなの?と思ったが、それを聞くと「後で分かる」と食い気味に言ってくるのだ。後でっていつ?と聞くと、戦闘時ピンチになったら。と応える。
何度聞いてもそうだったので諦めて言われる通りにした。
「次!そっちの番!」
「おう!」
今度は今さっきとは逆のことをする。
俺がファイヤーボールを打って、エデンがそれを受け止めるようにする。
俺は手を前に出し、その手に体を巡るあったかい液体を流すよう、手の指先まで満遍なく集中する。
そして手の先がある程度光りだす。それが魔力が溜まった証拠だ。
「《ファイアーボール》!」といい、その魔力の光を自動的に変えてくれる「呪文」というやつを叫ぶ。まだ魔法のスキル系が未熟なのでそうしなければ魔法が放てないのだ。
もちろんその声はエデンに聞こえている。
エデンがもし別の生き物で、警戒心が強く声に気がついて逃げたら、ファイアーボールで舞った土煙で見えなくなり、その隙に逃げて行方をくらましてしまう可能性もあるということもある。
なので呪文はやめたほうがいいらしい。
のだが、まだそこに関しては初心者なので許してもらってる。
ファイアーボールを放つと、それは見事な直線を描きエデンに向かっていった。直径14mもの大きな火の玉で、俺なんか米粒のようだろう。
エデンは一瞬自分より大きなものが来て慌てたものの、それに対応した氷の壁を、地ならしを鳴らしながら見事な速さで建てる。
「ふっ!……ギィ……」
だが俺の火の玉に少しだけ力を込めないといけなかったようだ。
俺はその時点で大喜びした。これまで苦戦もせず平気な顔をしていたエデンがちょっとだが苦しんでいる。
今までの苦労が報われたようだ。
結果的に、氷の壁を壊すことはできなかったが、エデンに「成長したな」と褒められた。
「んっっしゃああああああ!」
「この前のファイアーボールより見違えたな。影で練習でもしたのか?」
「いや……エデンのアドバイス通りにやっただけだよ」
「ほーん……ほんと?」
「本当!」
実は俺は呪文を「叫ぶ」ことを知らずにただ小さく呪文を唱えていただけだった。
正直声だけでこんなに変わるとは思わなかったから驚いている。
苦手な呪文は叫べばどうにかなるのだろうか。そう思って考えにふけりそうなところでエデンが手を叩いた。
「さ!次行くよ!今度は体術!足技のテストね!」
「はい!」
正直、次の体術のほうがよりドキドキとする。
なぜなら、俺は体術が苦手で苦戦しまくったからである。
魔法のように100%成功することはなく、運要素も入ってくるので理不尽さがあるのだ。
だがエデンは待ってくれない。
ああもう!ミスったらヤケクソだ!
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