第10話 俺はドラゴンに転生したらしい。

 俺はドラゴンに転生したらしい。


 

 エデンがそう教えてくれてから何ヵ月か経ち、すっかりこのからだの生活に慣れていた。人間と体の構造が同じなのか、不思議とドラゴンの体に慣れるまでに時間はかからなかった。

 そしてこの体に完全に慣れてきたところで、エデンが誘ってきた。


 訓練をしてみないか?



 俺はそれを了承し、今エデンの「訓練」を受けていた。

 といっても、それは訓練という名前のトレーニングで、俺がエデンに突っ込んでそれをエデンが上手く受け止めて、それを繰り返して体を鍛えるという方法だ。

 

 最初の方は視界が無く、空間把握がなかなかできなかったため、エデンに近づけないことさえ多かった。

 だが今は……



「エデン!行くぞ!」

「おう!」


 足を柔道のように構えると、俺は地を蹴り走り出した。

 

「フゥッ!」


 エデンに向かって風を切って走っていく。そしておもいっきり足を曲げてバネのように飛んだ。

 エデンの魔法訓練により、空間把握の力を手に入れ、今ではまるで視覚を手に入れたかのように動くことができていた。

 

 エデンの指導はとても厳しいが優しかった、1からずっとできるまで教わりながらトレーニングで足を中心的に鍛えていた。エデンの説明もわかりやすいのでとにかくそのトレーニングは楽しかった。


 突っ込んだ俺はエデンに蹴りを入れようとしたが手で受け流され、逆に飛ばされてしまった。

 そしたらエデンがミスを見つけ、コツを教えてくれる。

 

「足が伸びてないよ。もっとこう、まっすぐに足を伸ばす!」

「足を……下からこう!」

「そう!その感覚をつい忘れちゃうから、意識して。力いい感じだから、意識すればだいぶ強くなるよ!」

「押忍!」


 そういい、エデンが見せたお手本を真似して、足をちゃんと伸ばして、思いっきり前にふる。

 何度も繰り返し言われたことを意識してやっていくと、だんだんと空気がまとまり、それを蹴っているような感じがした。

 なんとなく感覚がつかめたように思い嬉しくなる。


 そしてエデンができたと思ったらまた戦闘形式に戻り、今度はそれを実行する番だ。その頃にはもう体力は削られているが、それでも動く。

 また地を蹴り走り出し、バネのように足を曲げはずんだ。

 

「ふうっ!」


 言われたことを意識しながらさっきと同じように蹴りをいれる。すると、さっきまでエデンの手を鉄のように固く感じていたのが、今は木のようになっているように感じた。

 折れそう、と思いもっと力をいれるがそれ以上に柔らかくなることはなかった。

 ギリギリ折れない悔しさで悲しくなり、少し力が抜ける。


 エデンが俺を軽く弾いて飛ばすと、私は地面を蹴り、回転しながら着地をする。

 

 さっきの技を数分で習得した俺に、エデンは拍手してくれた。


「すごい!こんなに早く覚えられるなんて!」

「ありがとう、だけどいわれた通りやっただけだから、エデンのおかげだよ」

「そ、そうか?教えただけで体力とかは特にサポートしてないぞ?」

「へぇ……っそ、そうなんだ……」


 俺は立ちくらみを感じたすぐ後、視線がギョロっと上を向いて意識を失った。


「おい!?おいい!」


 エデンの必死に呼ぶ声も一瞬しか聞こえなかった。

 きっと体力の限界だろう。俺は抗うことも許されず、眠りに付いた。


 


 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………



 夢を見た。

 だいぶ不思議な夢だ。


 俺が泣きじゃくったかと思えば、その体が化け物のように素早く動き出して世界を破壊する夢。次には家族を殺されてソイツに復讐する夢……


 ――殺せ。


 なんでだろうか?色々あった夢すべて、異常に何かを訴えてくるような夢だった。

 一つの事が終わると、視界はぐわりと揺れ、次々と人間の愚かなところがアニメのシーンのようにどんどんと再生されていくのだ。その時、必ず誰か一人は死んでいた。

 そしてたまにアナウンスのように声が流れる。


 ――人間は愚かだ。

 ――殺せ。


 そんなこと、とうの昔にわかりきっているよ。

 

 俺が子供の頃だ。母親に自分が書いた絵を見せるとその絵をビリビリに破き、「あんたは怪物だ!近寄らないでくれ!」と言われた。

 その絵がどれだけ恐ろしかったかはわからなかったが、その時が「人間は愚か」ということを若くして悟った初めての瞬間だろう。


 その時から話すことはなるべく控えた。けれど、それでも虐めてくるやつはいた。

 根暗な性格だし、それも当然か。と今は思っている。

 そいつらを殺す夢も見た。流石に言えないほど酷い殺し方だったので、ご想像におまかせする。


 ――人間は集団的にお前を嫌う。

 ――殺せ。殺すんだ。もっと。


 もっとも、なんで俺が人間を殺さなくちゃいけないんだ。

 もっと嫌われることをなぜしなくてはいけないんだ。

 一人になるのは……正直もう嫌だな。エデンから愛をたくさん教わった。


 ――お前は、そう言う運命

 ――抗えない

 ――助けもない。惨めな存在。


 運命って……お前は神かなにかか?

 それにしたってなんで俺なんだ?それが本当だとしたら俺は何をしでかした?記憶にないくらい前前前世になんか国家転覆でも企んだか?


 ――300年前から決まってたこと。

 ――目の前に禁忌がいるだろう。

 ――あれはお前がやったんだ。


 エデンが?それとも卵な俺の体?


 その後も色々と質問したが、少し待っても回答はなかった。

 おそらく「察しろ」ということなのだろう。意地悪なやつ。


 とにかく、自分の意志以外で生き物を殺すことはしない。

 操られたり、乗っ取られたり、洗脳されたりされたら別だが、意志的に殺しはしない。

 毒持ちの生き物や、バクテリアとかは別だかな。


 ――スキルに気を付けろ

 ――きをつけろ、勇気あるのものよ

 ――命令を、するな。

 ーー最強の力だから、代償は大きいよ?


 言っていることがバラバラで、一瞬どんな意味があるのかわからなかった。

 そこで夢は終わり、俺は真っ暗な空間に取り残された。



 ……………………

 ………………

 …………

 ……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーニグ。

それはドラゴン属と呼ばれている種族である。顔はトカゲで姿は人間に近しいが、末端にかけて大きくなっている。全身毛でおおわれており、一度撫でるとまた撫でたくなるような体をしている。

彼の特徴は大きな耳と背中についている小さな羽。そこには魔力がたまっているので特徴が大きくでてるのだ。


ーー俺はだれだって?キドさ。覚えておいてね♪


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 頭の中に声が響いたが、俺はそれに意識をむけることはなかった。

 キド……?



「ん……んあぁ……何だ?」


 夢から覚めると、目の前は光に包まれていた。眩しくなって目をつむり、光に目が慣れるまでゆっくりと目を開けた。

 俺がいたのはあの壁の穴ではなく、広い床に横になってエデン特製の糸布の中にくるまっていた。


「ニグ!起きたか!」


 エデンは興奮気味に俺を見つめ誰かの名前を呼んだ。

 俺は寝起きで意味不明な体を

 

「ニグ?……一体誰のことだ?」

「お前のことさ!お前はニグっていう名前なんだ。んで、体調は?」

「待て待て!それ寝起きで言うことじゃないって!」


 エデンは俺が倒れたことを心配してくれていたのか、だいぶ早口で焦っていた。俺が深呼吸を誘導させて落ち着かせると、少しずつ元に戻った。

 おかげでずいぶんと寝覚めもはっきりとしていた。


「落ち着いたなら、言いたいことを一つ一つ整理してから言ってくれ。」

「わかった……急に倒れたから心配で心配で、焦っちゃった。すまん」


 そう言うと、エデンはゆっくりと話し始めた。


 俺は急に倒れて、その振動で卵の殻にヒビが入ったらしい。それで中身がこぼれたらどうしよう、と急いでここに倒して毛布にくるめた。

 だけどヒビの広がりは止まることはなく、卵が割れると、俺はうなり声を出した。すぐに俺は横向きに倒れながら黄色い液体を吐いたらしく、それを始めて見たエデンはなにもできず、ただ落ち着くのを待つしかなかった。


 内蔵がヒリヒリするのはそう言うことか。


 それに、俺の名前は「ニグ」というらしい。


 事前に知っていたようで、なんで教えてくれなかったのか聞くと、「生まれるまではいいかなって思った」という。

 裏があるということもないようだ。なんでだよと突っ込みたくもなるが、たまにエデンはそんなこともあるのだ。

 

「ニグ」……その名前を聞いた瞬間、なんだか自分の中でパズルのピースがはまったようにスッキリとした。

 

 俺は深く頷く。

 エデンは俺の顔を覗いて、申し訳無さそうにしていた。

 

「……ごめん、名前わかってた方がよかった?」

「いやそんな、言っても言わなくても変わらないし。それよりも……」

「それよりも?」


 

 俺はうつむき、「もうじき外に出る」ということを言えなかった。


 卵の時は世話されないと生きていけないが、こうして生まれたとなれば自分であれこれできるし、あの侵入してきた強そうな人間にも壊せないほど強い皮膚を持ってるので自立して生き残ることは出来るだろう。


 ずっとお世話になることも申し訳ないし、時間が経てば経つほど、エデンが俺と離れるとき寂しくなると思うので、速く自立した方がエデンのためだと思ったのだ。

 だが、俺もさみしい気持ちがでてしまっているのだろう。口がどうしても開かなかった。

  

「……卵の間はお世話になったな。」

「え?う、うん。…………?」


 一言言えた。

 けれどそこから本当に言葉がでない。


「お世話になりました」と言いたいだけなのに。

 しばらく黙り込んでしまったが、俺は急に笑顔でエデンの方を向いた。



「……やっぱなんでもない!」

「えぇー、教えてよ!なんか怖いじゃん!」

「だめ!その時になったらまた言うよ。」

「ケチ!私とおんなじくらいケチ!」

「ハハハ」


 そうごまかしてしまった。


 どうやら俺の方がエデンに愛着を持ってしまったらしく、まだエデンの元を離れる気にはなれなかった。



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