第8話 エデンの過去2
「何?!」
「なんでおきたの!なんで!?」
みんなパニックになって必死に逃げる。
石を蹴った本人も何が起こったのかわからず、後ろを向く暇もなく走っていた。
「とにかく逃げよう!ふたりともこっち!」
私は二人を読んで誘導する。さっき来た道を思い出し、ミスをしないよう頭をフル活用させていた。
目の前には分かれ道がある。少し前に来たはずのところだが、私はどっちなのかわからなかった。
「エデン!そこは左!」
セシルがそう叫び喉を痛めて咳をして減速してしまった。普段から声を出していない弊害だろう。
だがそのお陰で迷わずに突破することができ、なんとか暗記しているいる道にまで来た。
後ろを見ると、洞窟を破壊しながら進むドラゴンが見えた。
足音が洞窟中を揺らし、私達の恐怖をひたすらに煽る。とにかく走るも、ドラゴンはその後をピッタリと付いてきた。
「早く早く早く早く!」
「わかってるよ!けどスピードブースト使ってもこれが限界!」
「ひゃあああきてるううううう!」
距離を確認しようと振り向いてドラゴンの姿を見ると、恐怖で足が絡みそうになる。なるべく後ろを見ないようにしたほうが良さそうだ。
無我夢中で走っていると、先に3本の分かれ道が見えた。
「左!」とセシルが言う。
だが声が小さかったので私はその声が聞こえなかった。
なので私は直感を信じるしかなく、右の道だと思ってしまい、私は右の道に突っ走った。
「エデン!ちが……」
「エデェェェェン!」
こちらを必死に呼ぶ声が聞こえたが、今ふりかえって戻ると後ろにいるドラゴンに追い付かれる。そして食われるか殺されるだろう。
まずい、今まで来たことのない道に来てしまった。
ここから外に出る道を、私は全く知らない。
もし仲間と合流できたら奇跡と言ってだろう。
私自身の方向音痴と力不足をひしひしと感じた。
まだワイバーンを倒したくらいでなぜこんなに胸を張れていたのか。きっと調子に乗っていた天罰があたったのかもしれない。
その気もちが渦巻いていた。
ドラゴンは私のいる方へと走ってきた。そのドラゴンは魔力が強い方にに寄せられるため、二人の魔力よりも私の魔力の方が強いからだろう。
これは魔力があることを嬉しがるべきかドラゴンに狙われたことを後悔するべきかわからなかった。
そこで自分がわからなくなり、ただひたすら無我夢中で逃げるしかなかった。
セシフもいない、アリーもいない。
とにかく恐怖が勝り、分かれ道があろうとも適当に決めてその方向に走っていった。
とにかく安全な場所に逃げたかった。足が疲れで痛くなろうとも、私は足を必死に動かし逃げ続けた。心のなかには、生きなければ。という漠然とした思いしかなかった。
あれから時間感覚もわからないほどしばらく逃げ続けた。
足が限界を迎えても止めることができず、一生懸命動かしていた。
ドラゴンとの距離は少しずつ近づいており、もう後ろを振り向く隙もなかった。
こちらにドラゴンを誘導できたことには後悔はない。
彼女らが地上に行けば、きっとギルドの方に行ってくれて報告をするだろう。そしてすぐに指名依頼が出されて誰かとても強い冒険者がこちらに来てくれるだろう。
被害は、私だけになる。
「グゥオオオオオオッッッッッッッッ!」と後ろから方向が聞こえる。
その咆哮を聞くのはもう3回目なので少しは慣れてきていたのか、足がすくむことはなくなってきた。
私は〈スピードブースト〉を使い、自身の速度を早くする。
魔力を消費する分体力の消耗も激しくなるが、奥の方に逃げ切れそうな細い道があるのでそこに逃げるためのラストスパートだ。
そこをよく見て、ただ一直線に走っていった。
そして無事にその横道に入ることができた。
その横道に入っても速度は落とさず、前の壁に気をつけながらひたすら逃げていた。まだ追いかけられているのでは、という恐怖で後ろが見えないのだ。
だがふと振り返ると、ドラゴンは追ってきていなく、爪を入れてその洞窟の隙間を掘って広げている。
けれど流石にドラゴンが通れるサイズの穴を作るのは結構な時間がかかるだろう。ドラゴンもそのうち、他の獲物を狙ったほうが早いと思い退散するだろう。
強い冒険者さんが討伐に来ることを祈って、私は前に進み始めた。
「はぁ……はぁ……」
ずっと逃げ続けたせいか、かなり息切れが激しく、喉が乾き水分が欲しくなってくる。
それに足も痛い。
どこか座って休む場所はないだろうか、と平らな石を見つけようとしたが、どこもまっ平らな壁ばかりで座ってもずれ落ちそうなところばかりだ。
糸でふかふかな毛布でもつくりたいが、まだそのためにつくる布の編み方を学校で教わっていない。
それにまだ粘性のある糸と粘性のない糸の出し方の違いを教わっていなかった。なのでまだ粘性のない糸しか出せない。
どうやら力を込めるか込めないかで決めるらしいが、その差が理解できず、何度予習してもわからなかった。
なのでちょうど良いところにハンモックを作ろうかと考えていた。
ちょうどいい岩の出っ張りを探すが、ない。壁はツルツルで一つの出っ張りもなかった。
「はぁ、はぁ。水のにおいするんだけどな……」
それよりも喉がカラカラで今にも死にそうだ。手も震えてきたし、このままだったら直に倒れるだろう。
どこかに水はないか?と辺りをひたすら探す。
魔法の水を少しずつ飲んではいるが、ブーストしたせいで切れる直前まで魔力を使ってしまい、魔力不足に陥って水を出そうと思ってもなかなか大量にはでなかった。
そもそもここはどこなのか。
敵もいないし気配もしない。
声が響きもしない。
宝石や細かい石すらもない。
そんな場所習った覚えもない。
困り果てていると、目の前に異様な雰囲気が漂ってきた。
私はその異様さに心が惹かれ、ゆっくりと歩き始めてしまった。
カチカチカチカチと私の足音だけが鳴る。その音で私は蜘蛛なのだと再認識し、前世や生まれたばかりのことを思い出す。
なんで私は蜘蛛だということを意識しなくなったのだろう?
もうこの体にすっかり慣れてしまったのだろうか。
考えてながら歩いていると、目の前に大きな竪穴が開いていた。どこまでも深く深く続いて、下が暗闇になっているその穴の周りには、宝石やオアシスがあってまさに天国のような場所であった。
「みず!」
オアシスを見つけると、まずはふれて毒がないのかを鑑定する。魔力をこれで使いきる。
安全な水で、しかも魔力を豊富に含んだ水だ。という結果がでたので、その中に私は藁にすがる思いで飛び込んだ。
すると、天に登ったかのように気持ち良かった。
水の中に魔力が多く含まれているので、オアシスの水を飲むと体の中に魔力が戻って体の中をめぐる感覚がする。土の味がするが、それ以上に体がぽかぽかとあったかくなってくるのが心地よい。
やっと、やっと終わるんだ。
私は、救われたんだ。
私は今までの疲れがどっと出てきて、水から出るとそのまま倒れるように眠ってしまった。
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