第7話 エデンの過去1

 私、エデンは、眠って起きたら蜘蛛に転生していた。

 想像もし得ないことだろう。だが現実だ。

 私は息を吸い、大きく吐く。

 

 うえぇぇぇぇぇぇええええええええん!!!!と赤ちゃんの泣き声のような声が部屋中に響き渡り、その様子を見ていた誰かが私の事を見てこう言った。


「泣いたわ!」

「おめでとうございます。とても元気な女の子です。」


 私は目を開けた。

 するとそこにいたのは、蜘蛛の姿をした化け物だ。しかも見渡す限り1m級のでかい蜘蛛だらけだ。恐ろしくなって私は泣きわめいたが、1匹の蜘蛛は私を優しく包んでくれた。


 そこは前世でいう助産室のような場所であろう。

 簡素なベットの上に、親らしき蜘蛛の下半身に布がかけられていた。


 鳴きながら息が切れて、思いっきり空気を吸うと、土の匂いらしき匂いが肺の中に充満した。

 その土の匂いでも咳ごむことはないが、一瞬でその香りが体の中に染みていく感じがした。


 同時に、体の中に血とは違う温かいなにかが全身に巡っていくのを感じる。

 その温かい何かが最初はゾワゾワと体の皮膚の中で虫が動いているようで、気持ち悪かったのは未だ覚えている。


 

 私は、前世で死んでこの世界に飛んできたのだろうか。

 死因はわからないが、前世働き過ぎで疲れて寝たのが最後の記憶だし、過労死だろう。


 どうすればいいのかわからないが、生きていくしかないのだろうか。

 

 

 ――――――


 そこから私は普通の人間のような生活を送り、すくすくと成長した。

 その間の記憶は途切れ途切れで、気がつけばすっかりおとなになっていた。


 通常子どもの記憶は残っていると勉強したはずだ。

 たぶん異世界転生したから前世の時間感覚が残っているのだろう。と思い、私はまだ人間の心は持っているのだ、と安心した。


 私はバックを背負い、頭にいくつかのハートのアクセサリーをつけ、下半身部分に布を外れないように羽織って隠す。 


 一応これが服のようだ。

 最初の頃はこれだけでいいのか?と戸惑ったが、学校に行くとみんなこれでいたので、とりあえずこの格好で日常を過ごしていた。


 母が私の肩を持ちながら、顔を見て心配する。

 その顔にはしわすらなかった。虫なので外骨格を持っていて、シワになることはないのだ。


「大丈夫?学校でもやっていけてる?」

「うん。大丈夫だよ」


 この世界にも学校というものがある。だが前世とは違い、基本的に大学しかないようで、私は18歳以上から入れる探検隊を目指す蜘蛛たちの入る学校に入学することになった。

 その学校は、「冒険者育成学校」と言われている。

 

 私は生まれた頃から、折角の異世界なのだから冒険をしなくて何をするんだ。というくらい異世界=冒険というイメージが私の中で定着していた。

 前世読んでいた本の内容がファンタジーだったのが影響しているのかな?


 それに子どもの頃から勉学は程々で、ほとんど鍛錬に励んでいたので、入学テストでは優秀な成績を修めることが出来た。おかげでギルドでCランクという年齢にしては高い地位を手に入れることができた。

 私の周りで何かトラブルがあっても自分で対処できるだろう。いじめが起きても、力でねじ伏せる事ができるのだ。


「大丈夫だよ。私強いんだから」

「そうね。もうCランクなんだから、同級生の喧嘩には負けないわよね!」

「うん、負けないよ、心配性だなぁ……ハハハ」


 私は笑ってお母さんの心配そうな顔を取っ払った。

 つられてお母さんも「うふふ」笑ってくれた。


 一応私はすでにギルドにも所属している。

 私のいるCランクの目安は、すばしっこくて力強いワイバーンをなんとか一人で倒せる程度だ。

 実際ワイバーンを倒したことがある。それも何体も一気に。

 その耳を証拠としてギルドに持っていくと、受付の蜘蛛にドン引きされたのを覚えている。


 なんとなく思い出を振り返っていると、いろんな準備が大体終わった。時間がかかるが、育成学校では細かいことがとても成績に響くんだとか。

 玄関に着くと、そこでお母さんは立ち止まり、手をふる。


「いってらっしゃい。」

「うん。いってきます。」

「きちんと友達つくるのよー!」

「わかったー。」


 手を振るお母さんに振り返しながら、私は学校へと向かった。


 ――――


 学校では、入学してから数日すると友人は自然とできていた。


 なんとなく話したいことを話して一緒に冒険する、私にとってちょうどいいタイプのやつらだ。


 一人は「アリー」。私と同じくらい成績優秀でみんなに優しいヒロイン的な存在。だが制服を着崩していて先生からは評判が悪いらしい。

 もう一人は「セシフ」。こちらはクラスのなかで一番勉強ができないが。戦闘に関しては群を抜いてピカイチである。


 その3人で、今日は学校の課題である洞窟探索をしていた。

 制服は脱いでおり、鎧もなしな完全無防備な状態でいくつ魔物を倒して鉱石を取ってこれるか、というルールだ。

 最初は裸のようで恥ずかしかったが、自然とすぐに慣れた。


 洞窟を探索していると、分かれ道に出くわした。

 私はセシフに聞いた。

 

「なあ?次どっちいけば安全?」

「えぇっと……こっちは敵の匂いが多い、けどこっちはスライム臭い。っていう感じ。おえぇ」


 セシフが鼻に探知魔法をかけて、匂いを嗅いで大体の周りの状況を把握した。

 スライムの匂いはガソリンのような匂いで、人によってはいい匂いと感じるようだが、セシフは苦そうな顔をしていた。

 

 私は速攻に多い方に行くと決めていた。

 セシフもそのようで、スライムの道から少し離れていた。

 だがアリーだけはスライムの方へ行きたいと指を指していた。

 

「敵の多い方行こう。私は臭いの嫌だ。」

「えぇ!スライムの匂いすきなんだけどなぁ」

「へぇ、ちょっと意外。こういうの毛嫌いするタイプかと思ってた」

「見た目で判断しないで。私はワイルドなのよ?」


 アリーはとても綺麗で容姿にはほとんど非の打ち所がなかった。その容姿を崩さないために潔癖症のような性格だと勝手に思っていた。

 体が汚れないようにと必死なのかと思っていたのだ。


 セシフを見ると、もじもじとしていた。

 

「で、セシフは?」

「僕はこっちで。」


 ビビりながら敵の多い方を指した。

 さっきから苦い顔をして鼻をずっとつまんでいる。

 アリーに相談したところ、セシフのことも考えて上げて、敵の多い道に入ることになった。

 

 3人で敵の多い道に入る。そこは宝石がたくさんあり、松明が必要ないほど宝石が紫色に輝いていた。その光景は圧巻で、綺麗であった。

 アリーがその宝石にふれてその艶を確かめると、目をお金に変えた。


「これ全部転移石?私たちお金持ちじゃん!」

「気をつけて、トラップ石がそこにあるよ。」

「うえぇ!?ヤバいヤバい離れないと!」


 転移石の中に、ホントに転移する魔法のついている石、いわゆる「トラップ石」が含まれている。転移石と同じように紫色に見える魔力が、よく見るとその石からあふれでているように見えるのだ。


 なるべく転移石にはふれずに移動する。その道程は普段より長く感じ、疲れがいつもより強く見えていた。

 先導を行くセシフにアリーは不満そうにしていた。


「まだぁ?」

「アリー、焦らないで。これからが本番だよ。……ほら。」


 セシフが静かにする合図を送った後、洞窟の奥を覗く。それに続いて私もアリーもそこを覗く。

 するとそこには、赤い宝石を体にまとっている石の体をしたドラゴンがいた。

 ワイバーンによく似ているが、間違いなくドラゴンだ。わたしたちには到底対処のできないものであり、ここにドラゴンがいる、とすぐにギルドに伝えなくてはいけないことだ。

 バレないように小声で話す。


「ドラゴンだね」

「でっかーい、ドラゴンなんて生まれて初めて見たよ」

「私も。ワイバーンとはぜんぜん違う。それにあの街の近くってドラゴンなかなかいないもんね」


 一方、セシルは色々とブツブツつぶやいていた。

  

「なるほど、敵がいっぱいじゃなくて、とんでもなく強いのが一人いるのでもああなるのか……それにドラゴンは気配が……」


 ドラゴンと戦うはめにならないよう、私達はとっとと宝石を取って帰ることした。

 だがセシフはブツブツ呟いてドラゴンを見て動かなかったので私はセシフの肩を叩いた。


「何ブツブツ話してるの?もう行くよ」

「あっ……今行きます。」


 私が耳元で話しかけると、セシルは声を抑えながらそう頷いた。

 私達はもうすでに何メートルか進んでいるため、そこに合流するよう少し小走りできた。


 カチン。

 とかすかに音が鳴った。

 

 急ぐセシルの足になにかあたったようだ。

 セシルがコケると地面をする音が響き、ドラゴンが起きないかビクビクしていた。

 何を踏んだのか見てみると、踏まないようにしていた転移石だった。

 

 しかも、ドラゴンの体に付いているのと同じ赤色の宝石だ。

 

「まずい……」


 セシルは顔を青ざめさせた。


 次の瞬間。


 ――――グオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!


 龍の咆哮が洞窟中に鳴り響いた。

 私達はパニックになり、ドラゴンから逃れようとと必死に走った。

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