第6話 エデンとの暮らし

その後も俺はエデンのお世話になっており、いろいろとこの世界を教えてもらっていた。

 

 例えば、このダンジョンの詳しいこと。前はここが世界最大級のダンジョンだよ、としか伝えられていなかったので、その続きだ。

 

 このダンジョンの名前は「フィート迷宮」といい、この世界で3番目くらいに大きくて強い生物が多いダンジョンらしい。


 エデンも自信はだいぶ強いと自負していて、人間界じゃあ勝てないほど強いと言われていたドラゴンと戦って勝ったこともある。

 その証拠も残っているんだ、とウキウキで言いながら魔法の穴を空中に開けたかと思うと、そこからエデンの手より三周りくらい大きな牙が出てくる。


 それを俺の横に置いた。ドシンと地面が揺れて体が一瞬揺れ、その大きさが想像できた。


「見てよこれぇ!」

(見れないよ……けどドラゴンって、そんなでっかい牙持ってたっけ。)

「これは、前歯で噛んで攻撃をするタイプのドラゴンの前歯なんだ。タットドラゴンっていうやつなんだけどね、そいつ性格がめちゃくちゃドジなんだけど、そのせいで私もなかなか苦戦したんだよぉー。」

(へえ)


 自慢気に胸を張るエデンは、その後苦戦した時の様子を小一時間ほど語ってくれる。

 ただし一つの話が長いのでじっと話を聞いているとつい寝てしまいそうになってしまう。なのでその話を、足のトレーニング等いろんなことをしながら耳だけを傾けて聞いていた。

 

 ざっと内容をまとめると、ダンジョンのボスになってはじめて怪我を負わされたこと、その敵にどうやって戦ったのか一部始終をだいぶ細かく話していた。たまに話が被るとこともあったが、特に話の流れが上手く聞いていて想像はしやすかった。


「それでぇ、私が顔面を殴ろうとしたら、その手を噛んできて、ありゃあ痛かったよぉ?」

(へぇ)

「……飽きてない?」

(飽きてないよ。話面白いし。)

「ならよかった、でね〜?……」


 だが時折こう心配してくる時があり、そのときは流石に少しばかり聞く体制をする。そしてまた飽き始めてトレーニング等をし始める。

 もう日課のようになっており、すっかり慣れた事になっていた。



 俺は話を聞くふりをしながら自分の体に最近変化があったことを思い出す。


 やっと胴体ができて、そして腕の一部が徐々にだが生えてきた。

 その手は筋肉質で先に行くに連れ大きくなっていく構造をしていて、体と変わらず硬い鱗がびっしりと生えている。それに口もできたがまだ喋れるようにはなっていなかった。


 口を開けると液体が中に入ってきて、それの味を感じる。

 その味は卵の白身だった。

 

 体のことに夢中になり始めると、話を一旦やめてエデンがこちらを凝視してくる。

 目は見えないが、視線を感じるのだ。こういうときは深く疑っていて、聞いてるとただ言っても安心しないときだ、と経験上感じた

 

「……聞いてるのか?」

(聞いてるよ。……けど長すぎると想像があまりできないんだ。もっと短くしてほしい)

「えぇそうかな?話長い?」

(うん。長い)

「えぇ……」


 あえて俺はバッサリと言って、エデンを悩ませた。

 そうした方が反省するし話の長さも短くなるかなと思ったのだ。


 だんまりして寂しそうにしてしまったエデンを気にするように慰めたが、特に反応はない。無視されているようだ。


 無視されていてはどうしようもないため、暇つぶしに体がどのくらい動かせるのか実験した。


 腕の可動域はまだなく、固い殻の中に閉ざされていた。爪部分でその殻を掘ってもみたが、いくらやっても全く掘れず、時折爪が折れそうな痛みが走りやめた。

 頭のほうはまだできていないのだろうかと思ったが、もう目までできているようだまぶたは開けられないが、目玉が動かせるようになっていた。


 その後も色々体のことを調べてると、外からすすり泣く声が聞こえてくる。

 思っていたよりエデンが落ち込んでいるらしい。

 ついに涙を流されると俺までも申し訳なくなってきた。


(ごめん……さすがに言いすぎたか)

「ううん、良いんだよ。いつも話長くて前世でも嫌われてたし蛙化したこともあったから。」

(あー……。)


 どうやら、地雷を踏んでしまったようだ。

 こういうときは相手が話しかけてくるのを待った方が解決が早い。なにか話しかけたら余計に言って更に深く傷つけてしまいそうだ。


 話はそこで完全に終わったものの、エデンの地雷を踏んでしまったことを心のなかで悔やんだ。

 あのままじっと話を聞いていれば、傷つけずにすんだのだろうか。直接言わなければ嫌われなかったんだろうか。

 その後はしばらくその話題で悩んでいた。


 

 そうして、気づけば何時間かまた過ぎた。



 俺は悩みからの現実逃避も兼ねて色々なところを動かし、少しずつだがなるべく動ける幅を広げていた。そうしないと体が固まって痺れてしまい、皮膚の中に虫がっているような気持ち悪さを感じるからである。

 これが意外とストレスなのだ。

 

 外に出ればそのムズムズも解消されるのだが、まだ体の中で脳みそと頭蓋骨だけが出来上がってないのであった。きっと今生まれると、頭から血が溢れ出血多量で死ぬだろう。

 早く出来上がってくれ。と祈るしかなかった。


(早く外に出たい。)


 そう思ったのはよく考えてみると久々だ。

 

 理由はさっきも言ったが、体のムズムズ感を早く解消するために思いっきり体を動かしたいのと、追加でエデンの話を聞いていたこともあって外の世界を見るのが楽しみになっていた。


 ウズウズして仕方がない。

 早く外に出て走り回りたい。地平線まである草原を元気な子どものように走って風を感じたい。


 一回そう考えてしまうと、思考が止まらなくなる。

 

 転生した世界はどんなのだろう。

 ドラゴンと聞いたが俺はどんな姿なのだろう。

 俺は転生してどのように強くなったのか。もしくはどのように成長しようか。

 魔法は何が使えるのか。土?水?火?はたまた電気?

 この世界はどんな世界で、どんな種属、どんな地形があるのか。


 心の中のワクワクを言葉に引き出すと限りがない。だがそれも想像でどうにか答えのない回答を仮定するしかなかった。

 そして最終的には寂しさで頭の中が洗い流される。


 考えすぎて疲れたのか、何故か眠気がして、すぐさま眠りに落ちてしまった。


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