第5話 人間との戦闘方法
大蜘蛛と過ごし始めて2,3日が経過した。
その中で、いろいろなことを大蜘蛛は教えてくれた。
大蜘蛛は名前を「エデン」といい、この洞窟にもう300年は閉じ込められている、ということや、この洞窟は昔の人が作った結構大きなダンジョンで、指折り数えられるほどでかいらしい、ということなどを教えてくれた。
情報源はここに来る人間たち。
よく来るらしいが、俺が、人間と仲良くしないのか?と試しに聞いたところエデンは、言葉が違っていてわからないから、なかなか言いたいことが伝わらない。諦めずに試行錯誤してみたけど10年もしたらもう面倒くさくなってやめた。とのことだった。
その言葉には憎しみと悔しさが重くのしかかっているようで、エデンの気持ちがひしひしと伝わってきた。顔は平気そうな態度を取っているが、きっと心の中はいつまでも寂しかったのだろう。
その寂しさを想像すると、涙が出てくるような気がした。
いざ人間が来ると、その人間はすぐにエデンに勝負を挑む。
対話する様子などまったくなく、本当にエデンのことを敵としてしか見てないようだ。
「キィッ!」ストーンバレット!
エデンが魔法で放った石の粒がそこにいた女性に何発か当たる。
それに俺は目を輝かせていた。
「ぐうっ!」
「ランス!」「ランスさん!」
今大蜘蛛は人間と対戦中である。
一人は男で、もう二人は女性で計3人。
ハーレムパーティーというやつで、ここ最近こういうのが特に増えているのだそう。
しかもそれに限って自己中心的かつ脳筋であるので、一番面倒くさくてかわいそうな部類、とのこと。
俺はそれを、エデンの視界を通して見ていた。洞窟の岩の隙間まで見えるほどその視界は鮮明だ。だがその効果故か、一ヶ月に一回くらいしか使えないらしい。
相手の動きがスローモーションのように見えることもあった。これがエデンの視界か、とその景色を見ながら俺は思った。
これは〈感覚共有〉という名前のスキルで、魔力を大量に消費するが、最大2つまで感覚を共有しあえるらしい。
そのスキルでいま共有しているのは、触覚と視界である。エデンの感覚が伝わるのと同時に、俺の感覚も感じられるらしい。
便利なものだ。
目の前にいる剣を持っている男が、ランスという女性がエデンに傷をつけられた場所を抑えながら、殺意を強く感じるほど睨んでくる。
そこに走ってくる影がいた。女性の一人で、戦っている様子からその男に付いてるようだ。その女性は男からランスを預かり、ランスに向かって緑色の光を当てていた。
「こいつ……絶対やっつけてやる!」
「ランス!大丈夫か!今手当する。カイトも……」
「ありがとう。だが次の攻撃がすぐ来るから、下がれ。」
「でもランス……」
「来るぞ!逃げろ!」
緑の光はランスの怪我を少しずつ直していった。
そこにエデンが前足を振るう。
軽く一突きしただけでその地面は抉れた。同時にそこに立っていた人は飛んできた岩で壁に向かって押され、カイトは無惨に叫びながら押しつぶされ肉塊となった。
「ヒィィィっっっっ!」
「きゃあああっ!」
ギリギリ避けた隣の女性たちが恐ろしさで腰を抜かし逃げ始めた。
一人はなんとか逃げ切れたものの、もう一人、ランスはエデンを見て腰を抜かしたようで、しばらくは動けずエデンを見つめるしかなかった。
なぜかエデンはそれを見ているだけで、攻撃はしなかった。
しばらくするとランスが腰を抜かしながら地面を這いつくばりながらどうにか逃げていった。
傷も全快しないまま、その通り道には血がたれていた。
「ひぃぃぃいいいっ!」
そこで感覚共有は終了し、視界が暗転した。
まるで映画でも見ていたような感覚になり、心のなかで拍手をした。
だが、俺はエデンに思うことがあった。
(なんで逃がすんだ?言い方悪いが、食料として保管するんじゃないのか?)
「ああやってしたほうが、うわさ話が広まってここに人間が来るだろ?俺は人間とかと戦うのが最高の暇つぶしだからな。」
(へぇ……大変なんだな。)
「大変?」
俺はエデンを気の毒に思った。
戦うことしか娯楽がないなんて、まるでバーサーカーのようであったからだ。
だがエデン本人はそんなに気に留めてもない様子である。
100年以上こんなとこに閉じ込められてれば、その現状に慣れてしまうかもしれないが、それまでの苦労を考えるともっと悲しくなってくる。
……ちょっとこの考えはやめよう。つらすぎる。
エデンは俺の考えていることを読んでいるように、ふと笑いながら話し始めた。
「もしや私が狂ったバーサーカーのように思うか?……まあ正直言えば苦労はしてきてその中で「狂った」のは事実だが、それも今じゃあ過去の話だ。過去のことは過去。今のことは今って心の中で分けてるんだ。そうすれば色々と悩みが吹っ切れて、今を楽しもうって心になる。」
(吹っ切れる……考えるのをやめたじゃなくて?)
「吹っ切れるんだ」
(……)
そのエデンの声は、もうこれ以上そこに触れるな、といっているような殺意を感じ、口を謹んだ。
そう言い終えるとエデンは俺に近づいてくる。
その大きな前足を俺の殻に優しく当ててくる。さっき敵を潰した方の手であるため、少し俺の殻に血がつく。潰される恐怖を一瞬感じたが、エデンがそんな事するわけがないと思い、恐怖はなくなった。
俺の殻に付いたその血は、あったかかった。
肉片とかついてて生々しいけど、吐き気とかそういう悪い気分はなかった。
「けど今は、もう一つ楽しみが増えたがな」
(えっ、何?)
「何って、お前もここまで言えばわかってんだろ。あえて言わないがな!」
(えーなんでよ!気になるじゃんか!ケチ!)
その後はエデンは何も言わず、俺の頬らへんの外側をなで続けた。
感覚共有が切れているはずなのに、まるで撫でる感覚がエデンにも伝わっているように、甘える猫のようなゴロゴロ声を出していた。
エデンの後ろから殺気を感じるが、本人は全くの無関心であった。
おそらく、さっき殺したハーレムパーティーの残骸だろう。姿が見えないのでわからないや。
「この蜘蛛風情がァァァァァァアアアアアアッ!」と叫んで突っ込んでくるが、その大剣を振りかざしてもエデンには効果がないようだ。
むしろそれはエデンにとっては鍼治療のようで気持ち良いだろう。
剣を振り回しながらエデンの頭に近づいていっても、エデンは気にせず目をつむっていた。
俺の入っている穴に入ろうとしたところでやっと気づいたが、それも気にせず無視して俺を撫でていた。
女性はズカズカと足場の悪い糸の上を歩いていくと、俺の周りで何か叫び始めた。
叫ぶたびに何かが足にあたっている。
(ええ、あ、えっと……?)
今度は俺の足にチクチクとなにかをされている感じはあるのだが、それが何なのかわからなかった。
「なんで……切れ……ない……の!」と泣きながら斬りつける音が聞こえる。多分剣を俺に振り回しているのだろう。卵の殻も叩いてきたが、その振動が伝わるだけだ。
(なんで俺の足を切ろうとしてるんだ?)
「弱点だとでも思ったんじゃ?まあその人間じゃあ何もできないよ。」
(ならいいか。気にしなくても。)
「ああ、今逃がすよ。」
「キッ。」ホイ。
エデンは一鳴きすると、その人にゆっくり手を差し出す。
「ひ、ひぃ!潰さな……い?まあいいわ、このっ、卵みたいな、変なのくらい、持ち帰らないと、リーダーに、呪い殺される!えぇいっ!」
その女性は一度は警戒をし、俺に剣を振り続けたものの、やがて俺もその剣で切れないことがわかると勝ち筋がなくなり絶望したのか、「なんでそこらの鉱石より硬いのよ!」と言いながらエデンの意思に従うようにその手の上に座った。
「は、運んでくれるのよね……食べないでね!」
「キキィ。」食べないよ。
「……なんでだかわかんないけど……敵意はなさそうね。不思議」
信用を得たのか、彼女はじっとして地上につくまで奇襲とかを仕掛けることもなかった。
そして地上の入口付近につくと、女性を優しく地面におろし、振り返った女性にエデンは首をかしげた。
すると彼女は考え込む。
「……おぞましいけど、よく見たらかわいいのね?……ありがとう!今度強くなってムカデ刈ってくるから、その時まで待ってなさいよ!」
「キーキィ。」あっそ。
そう言って背中を向けながら手を振ってきて、彼女は去っていった。
小さな声だが、エデンには十分聞こえ、嬉しく思う感情が伝わってくる。
人間にかわいいと言われるのは、実に何百年ぶりらしい。と本人がそのあと自慢気にうざいほど自慢をしてきた。
それからしばらくして遠くで女性の叫び声が聞こえたりしたが、「気にしなくていい、あれは自然の摂理だ。」とエデンが言っていた。
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