第4話 読めないカード
「花ちゃん。病院に保険証忘れて行っちゃった事ある?」
「あるある。結構ある」
「その時、どうなった?」
「えっとね、行きつけの病院さんは、前かかった時の保険で処理してくれたけど、初診で行った所は、全額自費で取られて、あとから勤め先に領収書とか書類提出して、7割分返してもらった」
「そうだね。それも償還払いの一種で、正式に認められている処理方法だ。
でもね、マイナ保険証を使おうとしてマイナンバーカードを病院でセットした時、読めなかったらどうなると思う?」
「えー? みんな償還払い扱いで、一旦100%払う?」
「いいや。現時点で、マイナ保険証のカードがあるのに、なんらかの不具合で保険情報の読み取りが出来ない場合、患者さんが被保険者資格申立書って言う書類を、その場で一筆書けば、推定情報による負担割合で会計していいとの事務連絡が厚労省から出ている。まあ、この一筆がかなり面倒なんだけどね。
さっきの佐藤さんはそれでやったんじゃない?」
「そうかも。あとから保険証持ってったとは言ってたけど」
「そう。この資格申立書での処理は、後日正しい保険情報が確認出来たら、それで会計をやり直す様、厚労省は医療機関に要請している。まあ、資格申立書さえ書いてもらっておけば保険請求はできるんで医療機関は損はしないんだけど、患者さんサービスを考えると一概にそれで処理とはいかないし、結局保険者側に確認処理の手間は残る」
「それじゃ、病院事務さんも大変だ」
「まあ、それは今までも保険証忘れの人の場合、後日精算したりしてあげてた医療機関が多いのであまり問題にはならないと思うけど、一人二人ではなく、全員がマイナ読めなくなったらどうなるかな?」
「そんな……恐ろしい事言わないでよ」
「いや、実際にある。
オンライン資格確認用のポータルPCは、光回線などで資格確認用の外部専用サイトに接続しているので、PC本体や通信機器、回線の不具合など、障害の発生要因はいくらでもある。
数年前に台風で、千葉県南部一帯が一週間位光回線がつながらなくなる事態が発生した事もある。
その時、来院した患者さんに、全員、資格申立書を書かせるのかという事だな。
みんな具合が悪くて来ているのに、患者さんにも病院事務にもものすごい負荷がかかる。紙保険証なら、患者が持っていればOKなのに。
それに医療機関の性格上、後からの精算処理自体が難しい運営形態の所もあるんだ。公営の夜間急病診療所みたいな夜しかやってないところに、あとから患者さんが保険資格確認のためだけに行くのかみたいな感じ? それに、夜間急病診療所なんて、みんな一刻も早く見てもらいたい患者さんばかりなのに、とりあえずこれ書いて下さいって資格申立書渡すのがいいのか……償還払いなら、とにかくその場は100%で計算しちゃって、患者さんが回復後に自分の保険者に請求すればいいから、後日、急病診療所に、夜中に感染リスク侵してまで行かなくていいんだけどね」
「顔認証がうまく出来なくて、暗証番号忘れてしまって……みたいな事もたまに聞くけど」
「政府は今度、暗証番号がなくてもいいマイナンバーカードを発行するみたいだね。まあ、顔認証エラーで暗証番号わからなくても、マイナンバーカードさえ正常なら、実はポータルPC単体で、保険資格情報は入手出来るんだ。
もっと言うと、保険証忘れちゃっても、カルテに前の保険情報が書いてあれば、それでその保険が現在有効かもポータルPCで確認出来る。
とはいえ、その顔認証システム自体も、門外漢の僕が言及しちゃいけないとは思うけど、ほんとにこれ大丈夫? と思う事は多い。
実際には数社の顔認証スキャナがあって、性能も結構違うっぽい。
あるメーカーのやつなんか、眼鏡・サングラスでも認証通っちゃったり、他のメーカーでは逆に何回トライしても認証通らなかったり……設置テストに立ち会ったことがあって、スマホで取った自分の顔写真をかざしてみたりとか……まあ、結構顔をかざす側にもコツいるのかなって思ったりしている。
あれ、設置位置や照明の具合でも精度変わるので、ユーザーには最適位置を意識してもらう様にしている。
それでも、高い位置に置いちゃうと背の低い人や車いすの人はうまく使えなかったりして、なかなか難しい。そもそも高齢の方だと操作自体が分からない事もある」
「そんな時は、事務員さんとか看護師さんが補助してあげればいいじゃない」
「それはそうなんだけど、それが出来ない医療機関もある。
やはり公立系の医療機関が多いけど、患者のマイナンバーカードに職員は触れるなって規定しているところがある。障害等で体の自由が利かない患者さんに限っては、患者が監視している状態で職員がマイナンバーカードに触れても良いみたいな感じ」
「あはー。微妙な問題だね。あれ個人情報の固まりだし……。
でも、何となくわかったわ。
それならマイナ保険証はマイナ保険証で、あれば便利だなってところまでにして、やっぱり紙の保険証は、そうした公費なんかも含めたデータの一元管理が出来る様になるまで、残した方が便利じゃないのかしら。お国は何をそんなに慌てているの?」
「そりゃ、今の皆保険制度がじきに破綻するのではという危機感をもっているからさ。でも、それってマイナ保険証で解決するとは思えないんだけどね」
「どういう事?」
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