第3話 縦割りの固まり

「今の日本では、健康保険証だけでは窓口でいくら払うのか決まらない患者さんが結構いるんだ。娘が小学校のとき、病院にかかっても、窓口でお金払わなくてよかったろ?」


「ああ。そうだった。なんか受給者証とか持って行ったら、窓口ただだったわ。

 その受給者証忘れちゃった時、普通に窓口二割で取られて、あとで区役所に領収書もっていって返金してもらった」 (※筆者注:ご夫婦は都民の設定です)


「そういうのを公費負担医療といってね。社保や国保とかの枠とは別で、主に県や市町村が患者さんの負担金の全額や一部を負担する制度で、それぞれ根拠となる法律と運営母体が異なる。

 東京都だと……都のホームページ見るとざっと50種類近くあるね。

 まあ特殊なものもあるけど、こども医療なんかはほとんど全国の市町村でなんらかの助成をやってるよね。

 そして現時点で、マイナ保険証はこの公費負担医療にほとんど対応していない」


「えー? それじゃ、こども医療分の還付は領収書もって区役所いくの?」

「いやいや、それは償還払いって言って、患者が公費負担者に直接請求する方法だけど、マイナ保険証の場合、病院窓口に公費受給者証を提出する事で今まで通り、窓口でお金は払わなくてよくなる」


「はっ。それじゃ、マイナ保険証で顔認証してから、窓口で受給者証出すんだ?

 今までは保険証と受給者証を窓口に出すだけだったのに」


「そうだね。精神・神経科とか、特殊な難病を専門に扱う病院とか……

 患者さんの方も受付が手間になるよね。

 ましてや小児科なんか、赤ちゃんのどのくらいがマイナンバーカード持ってるのやら。それに顔認証は絶対無理だよね。

 そして病院側も患者さんの動線が別れちゃうんで、事務処理が大変になる」


「それ運用が無理ゲーじゃない? 公費もマイナ保険証に一本化出来ないの?」


「もちろん、何とかしようとしてるとは思うよ。

 現に国の特定疾患公費はマイナ保険証で読み取れるし、生活保護も近くマイナで行けるらしい。ただ各自治体の独自公費となると、それぞれが独自の基準で対象患者さんを管理していて、統一した情報形式で、マイナ保険証で一元管理出来る様になるにはまだまだ時間がかかると思うよ。

 日本の健康保険制度って、本当に世界に誇っていいものだと思うんだけど、いかんせん古くから運用されていて、こうした公費も都度後付けで法制度が立ち上がっているからね。制度自体が本当に縦割りで、情報統合を進めるのも並み大抵の苦労じゃないとは思うけど」


「本当に、このまま保険証廃止しちゃって大丈夫なのかしら……。

 たしかに面倒そうよね」

「いやいや、面倒はまだあるよ!」

「えっ!?」


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