第7話 幽霊ホテル


楓の押しに負けて2人は名古屋に向かう。

殺人事件のショックで中島は疲れてしまったのだ。

それに比べて楓は普段と変わらない様子。

楓は奏の事を鋼のメンタルだっと言っていたが楓も同じメンタルの持ち主だと思う。

伊勢神宮からタクシーと電車で名古屋駅に着く。

伊勢は自然が溢れていたが名古屋はビルが建ち並ぶ。

楓は食べ物の事で頭がいっぱいで独り言を言っている。


「名古屋でうみゃーもん食べにゃあ!」


「名古屋弁を喋るの人は市長以外いませんよ」


「私の中で名古屋弁はニ◯チャン大魔王が印象深い」


中島は首を傾げて言う。


「その大魔王って誰ですか?」


「大魔王様を知らないとは……私も再放送世代だけど中島ちゃんの世代で知らないのかぁ……なんか切ないね。大魔王様……私は一生忘れません。あなたの下品なフォルムは目に焼き付いています。安心して下さい」


中島は冷たい目をしながら言う。


「よく分かりませんが、世代が違う事に悲しいって事ですか?」


*気になる方はDr.スランプ◯ラレちゃんのニ◯チャン大魔王を検索してね♪


名古屋のホテルに行く前に楓たちは駅近くの鰻屋に入る。

店員が注文を聞きにきた。

中島が答える。


「じゃあ私はひつまぶしにします」


楓はヨダレが出そうな顔で悩みながら注文する。


「私は特上ひつまぶしにしようかな!? いや少し小さいのにしようか……いやいや特上に! 特上ひつまぶしを下さい。あとビールもお願いします」


「またお酒ですか」


「うみゃもんを食べるとビールもうみゃあだぎゃー」


中島は楓の喋り方にイラつきながら言う。


「大魔王様は星に帰れ」


楓はニヤニヤしながら言う。


「宇宙船が壊れただぎゃー」


中島は楓のウザイ返に対して他人のふりをしたいが同じテーブルなので、それができないので目からビームでも出してるような眼差しで楓を見る。


「中島ちゃんそんな顔しないで旅行最後の夜を楽しもうじゃないか」


「旅行は大変すぎましたよ。大変な思いをしたからには、きっちり原稿を出してもらいますよ!」


楓は目が泳ぎ汗がでながら言う。


「ああ!どえりゃあ事になったわ!」


中島はまた楓を睨んでいると鰻がきた。

器の蓋を開けると鰻の香りと甘いタレの香り炭火焼きの香りの3つの香りが広がる。

箸で一切れ鰻を持ち上げ口にする。

身はふっくらしてやわらかく、鰻から脂がジュワッと溢れ出でる。

鰻の脂の甘みと、甘いタレが混ざり合い旨みが増す。

更に炭火で少し焦げた皮がほろ苦くて、甘さとバランスが良い。

どんどんご飯がすすみビールもごくごくといける。

ひつまぶしなので、鰻とご飯を茶碗に入れてダシ汁を注いで茶漬けにする。

ダシ汁の香りがいい。

茶漬けはさらさらと喉を通り楓は大満足。

中島は楓の食欲に感服した。

2人は鰻に満足して会計を済ませて外に出た。

ホテルも駅前なのですぐに着いた。

ホテルをチェックインして楓たちはスタッフの人に部屋まで案内される。

スタッフが楓に声をかける。


「もしかして小説家の楓先生でしょうか?」


「そうです」


「やっぱりそうでしたか! 私ファンです。お会いできて光栄です。今日はお仕事ですか?」


楓はファンの前でいい顔をしながら答えた。


「まぁそんなところです。何か小説の案になればいいのですが……良い案がなくて困っていますよ」


中島は楓を見ながら旅を振り返る。

旅の最中に小説の事で悩んでる楓を一度も見てない。

旅行だけを楽しむ楓の姿しか思い出せない。

どうやら楓はファンの前で見栄を張って小説家を気取っているようだ。

無言の圧で中島は楓をじーっと見る。

楓は中島と目が合うが目をそらして言う。


「何かいい話はないかな?」


スタッフがワクワクしながら言う。


「実は最近……うちのホテルで幽霊騒動がありました」


楓が驚いた顔で言う。


「 え! 幽霊騒動!?」


スタッフの話では清掃した後の部屋なのにお客様を案内して部屋に入ると窓に真っ赤な手形が浮き上がったと言う。

スタッフは怖そうに言う。


「 その時に案内したのは私で、確かに窓は綺麗でした、しかし少しずつ手形が赤く浮き上がってきたのです!」


「その赤い色の正体は血ですか?それともペンキ?」


「それが、ただの赤いインクでした。清掃員が窓拭きをしたらインクは落ちました。これって幽霊の仕業ですかね?」


楓はニヤニヤしながら呟く。


「インクね……」


中島が青ざめた顔で聞いた。


「まさか……その幽霊騒動の部屋に案内するわけじゃないですよね」


スタッフは答えた。


「まさか! 気味が悪いので原因が分かるまでは、その部屋は空いてます。あっ部屋に着きました。こちらが今日泊まって頂くお部屋になります」


スタッフが開けて明かりをつける。

奥に大きな窓が見えた。

名古屋駅のビルの夜景が見える。

しかし窓は少しずつ赤く染まっていく。

赤い手形が浮き出てきた。

中島が真っ青な顔で叫ぶ。


「 かっ…楓先生!」


スタッフも驚いて指をさしながら言う。


「また手形が!」


楓は不適な笑みを浮かべて呟く。


「 幽霊の仕業ですかね?」


赤い手形は1つ描かれている。

楓は赤インクを観察した。


「 中島ちゃん消しゴムはある?」


「えっと……仕事のカバンに確かあります。ちょっと待って下さい」


中島が楓に消しゴムを渡す。

楓が赤インクで描かれた手形の人差し指の部分を消しゴムで強く擦り始めた。

するとあっさり赤インクが落ちた。

中島は驚きながら聞いた。


「消しゴムで消せるインクなんですか? それともガラスがツルツルしてるから、たまたま落ちたんですか?」


楓は消しゴムを見ながら答えた。


「 いや摩擦で消えるインクだと思う」


中島は怖がりながら言う。


「摩擦で消えるインクがなぜ浮き上がってきたのか不思議です!」


スタッフはワクワクしながら言う。


「消せても浮き上がらせるのはできませんよね!」


楓は笑いながら言う。


「ふふふっ……実はこのインクはもう一つ特徴がある!」


そう言うと楓はバスルームからドライヤーを持ってきてドライヤーの線をコンセントに指しドライヤーをつけた。

暖かい風を赤インクに当て始める。

すると、だんだん赤インクは消えてしまった。

スタッフは呟く。


「ドライヤーで消えましたね」


中島が興味津々でガラスを見ながら話す。


「このインクは熱でも消えるって事ですか! 楓先生、さっきと同じで消しても浮き上がるトリックは分かってませんよ!」


楓はニヤニヤしながら話す。


「いいから、このまま待てばいいんだよ」


中島が怖がりながら言う。


「まさか幽霊が描いてくれるのを待てと言うわけじゃ……」


少し待っていると赤いインクが浮き上がってきた。

これはどうやら熱で消した部分だけが浮き上がっている。

楓が説明する。


「 擦ればインクは落ちるが、熱ではインクが薄くなっただけでインクが落ちたわけではないのさ。温度が冷めてインクの色が元に戻る」


スタッフが質問する。


「つまりずっとインクが付いていた。でもなんで見えるタイミングがお客様が入る時なのでしょう?」


楓が言う。


「それは温度のトリックさ。このホテルは使っていない部屋は節電で空調を切っているのではないかな?」


スタッフが答えた。


「はい。そうです」


楓が考えた説を話す。


「夏の暑さで窓は暑い。更に部屋は空調が切れていて暑い。その熱でインクの色は薄くなり見えない。お客様が入ると決まったら空調をつけて部屋が冷やされていく。ちょうど部屋に入った時に熱が冷めてインクの色が濃く浮き上がってくる仕掛けさ」


中島はハッとして声をあげる。


「なるほど!」


スタッフが困った顔で言う。


「でも誰がこんな事?」


楓が答えた。


「客のイタズラかスタッフのイタズラってところかな? まぁ大体イタズラって見てないと楽しくないけどね。スタッフの中で摩擦で消える赤いインクを持ってる人が怪しいけど……君は持ってるかな?」


スタッフは右側のズボンのポケットを触るそぶりを見せながら答えた。


「……いえ。持ってませんよ」


楓をスタッフを見つめた。

スタッフは一度だけ口をギュッと閉じてから笑顔を見せるが楓から目線をすぐにそらした。

楓はニヤリと笑った。

それからスタッフは窓を拭いて部屋を出て行こうとする。

楓がスタッフの背中を触って引き止める。


「これで幽霊騒動は解決したから上司にも伝えなさい」


「……そうですね。伝えておきます。では、失礼します」


スタッフは少し暗い顔をしている。

スタッフはフロントに戻って行った。

中島が楓に聞く。


「あの、まさか…彼女がイタズラを?」


「どうだろうね?ズボンのポケットからペンを出してくれるかと思ったが……そうはいかないね」


「楓先生ったら分かっていたなら言えば良かったのに!」


「彼女はこれ以上の事は話したくない様子だったし、それに彼女は私たちに面白い話をしてくれただけなんだよ」


「楓先生もイタズラがお好きですよね」


「中島ちゃんは私を分かってるね」


「そりゃ担当ですから!」


楓はニヤニヤしながら言う。


「下の自販機で飲み物を買いに行ってくるよ」


「え! 今からですか!? 先に私がお風呂を頂いてもいいですか?」


「どうぞー」


楓はフロント近くの自販機に行く。

さっきのスタッフはフロントに立っている。

すると上司が声をかける。


「君! 背中に貼り紙がついてるよ! 佐藤楓参上ってなんだい?」


ため息をつきながらスタッフが呟く。


「あの時か……」


上司は怒りながら言う。


「もしかして案内したお客様が? 君にイタズラをするなんて許せないな! 出入り禁止にしようか?」


スタッフは俯きながら言う。


「いえ! 私が悪いので大丈夫です」


楓は本当にイタズラが大好きだった。

楓は小説を早く書かないのもイタズラなのだろうか?

楓は旅で探偵のような体験をしたが楓は探偵ではない小説家なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

佐藤楓は探偵ではない? みづほ @ebetennmusube

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ