第34話
ツルギは市長室の窓から空を眺めている。
何を見るでも無く、今の時代の行く末を考えていた。
物価は上がり、給料は上がらず、税金は上がる。
改革は進まず、市民は苦しんでいる。
ツルギはその現状を目にしている。
心の底から怒りに似た情熱が湧き出した。
マスコミは見えない所で政治と手を結びツルギを批判しまた、「社会不安をかき立てようとしている」とツルギを責めた。
批判を冷静に受けようとする余裕を見せてはいたが内心このままでやっていけるかと不安を隠さなかった。
ツルギは先づ最初に公約しながら未だ果たしていない「議員定数の半減」から実行しようと心に決めた。
この問題は全ての行政で解決できない厄介な問題でもあるが、公約として実行しなければいけない問題でもあった。
政治をスリム化すれば議員の選ばれ方も変わるはずだとツルギは考えている。いかなる制度法令があっても議員の人格に問題があればそれは効果を発揮しないとも考えている。
しかし、この問題は立法を司る議会が賛成しない事には何も動かないのである。
ツルギが市長を務めるA市もそれが出来ないでいた。
出来ないままに、時間ばかりが過ぎる事に苛立ちツルギは思い余ってブログでその悩みを伝えた。
その情報は、若者ばかりではなく、より多くの人々に伝わった。
ある日のブログでツルギは次のように書いた。
来月の第二日曜日にA市(ツルギの市)の競技場で「国会議員定数の半減は改革の第一歩」の集会を開く、と書いた。
その反応は大きかった。
これはツルギの人気によるものでもあるが、国を変えようとする若者の熱意によるものでもあった。
日本の北から南に至るまで参加の希望が伝えられたが、
その数は会場の収容人数をはるかに超えるものだった。
ツルギはその集会に反対派の議員を呼び反対理由を発言させようと招待状を出した。
高校生のグループの積極的な行動に触発される労働者も数を増している。
ものを言わない姿も見せない労働者の心に静かな変化が見え始めた。
インターネット上ではその労働者を「ニューワーカー」と名づけた。
労働者と言う名の持つ「くらさ」を嫌ったのかも知れない
この時代になると、今までの時代のように組織を作ったり手をつなぐことが目的ではなくなっている。
「自分が行動すべきだと思った時にたまたま側に心を同じくするものがいた」と言う状態が結果的に組織になっている、と言うものがこれからの「組織」の定義となっていた。
60年安保、70年安保のような情緒的なものは無い。
当時の運動の指導者の持つ甘さも無い。
遠くに光を見出しながらもそれを前にすねている様な指導者は今の時代には居ない。
今は暗い未来に光を当てなければいけないのだ。
市長を務めながらこのような集会を開く事に議員たちは猛反発をした。
一部の新聞マスコミはツルギの横暴を伝えた。
市民の声はツルギに対して批判的であったから多くのマスコミも自分たちは国民から支持されていると安心をしていた。
国民が喜びそうな記事を書くのが新聞の役割、と思っているので言っている事に一貫性が無い。
主張があってもその時の都合によってそれは変る。
今、ツルギの頭にあるものは東京に集まり来る人々をどのように誘導して国に対してどれだけ有効的に思いを知らせる事ができるか。
その一点に絞られていた。
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