第22話

市長就任後、引継ぎの事務処理等や挨拶で終われたツルギには、

この街はどのような状況にあるのかじっくりと見つめる時間が無かった。

ツルギは昼ごはんを地下の食堂でとるがここはツルギのお気に入りの場所である。

昼はいつものようにザルそば。

ダイエットのときの習慣そのままである。

それを食べながら本多ユキを思い出した。

思い出すと急に会いたくなり食事もそこそこに切り上げ携帯を握りフロアに出てユキに連絡を取った。

例のあっさりした調子で「どお?」と聞いてきた。愛想のない言葉のやり取りがいくつか交わされた。結果、今度の日曜にツルギの家で会うことになった。以前とは見違えるようにきれいになったツルギの家で、ユキは「市の経済が問題だ」と眉をひそめた。

わずかだが市の状況を調べてみたと、ユキは言う。

無口なユキが身を乗り出して熱っぽく語る姿を見てツルギは「彼女が私の片腕になってくれたら」と内心思った。

その「思った」気持ちを心に仕舞いこむ事が出来ずに「秘書になって私の助けとなってくれないか」と口に出してしまった。

ユキは「そうなると、今の仕事をやめるわけだからそれだけのものを私に支払えるの?」

と、厳しい意見が帰ってきた。

今のツルギには、市長になったとはいえそんな余裕があるはずもない。

しかし、ツルギは、ユキは必要な人材だと心に決めていた。

ユキに私設秘書としての給料として支払える財力さえあればいいのだ。

財力の無さを嘆くと、ユキは

「私を雇うかどうかは別として、お金がほしければ本を書けばいい」「ツルギには知名度もあるし、きっと売れる」と言った。

突然の話でツルギにはすぐには理解が出来なかったが「書けばきっと売れる」の一言はツルギの心を動かした。

ユキは付け加えるように「特に海外での人気が高いように思う」と静かに言う。

ユキの話を聞いてツルギはその気になり、その場で本を書こうと心に決めた。

決断の速さは彼女の特技と言ってよい。


ツルギの書いた本の題名は本名の「ツルギ」である。

内容は、ツルギの今に至る半生と世界平和に向けてツルギの実行したい事を誠実に書き連ねたものである。

その中で多くの人が興味を持ったものは事件のいきさつとその時のツルギの「心の思い」である。

「社会に役に立ちたい」とか「強い日本人」というツルギの日頃の思いが、形となってあらわれた事が素直な筆さばきで描かれている。

これは日本の出版社から発売され一週間を待たずにベストセラーとなり、その後アメリカでも出版され大きな売れ行きを見せた。

予想外の出来事に、ツルギの驚きは大きい。

その後、アジアヨーロッパと世界的なヒットとなった

世界はツルギに注目している証(あかし)かもしれない。

自分を捨てて人を救う姿に世界は共通して心を動かされているのだ。

それほどに、世界の風潮は物・金にとらわれ、利己的な風潮が蔓延していた。戦乱も絶えない。

この世界的ベストセラーにより、ツルギは一躍、大きすぎるほどのお金を手にする事になった。ユキを私設秘書にする事はいとも簡単に実現した。

大金持ちになったからと言って良い家に住みたいとか高級車に乗りたいとかと言う考えはツルギの頭には浮かばない。

今のツルギの頭にあることは国と世界のために尽くす事である。

これは、常にツルギの中に存在し続けたものであり今に始まったものではない。

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