第19話
投票率、85%!
都会では例のないほどの投票率である。
ツルギの声に反応したことは間違いない。
・・・信頼できる人間の声に従った、ということか・・・・
当選させたいと思う立候補者がいない地域はどんどんと投票率が下がっていった。
マスコミは選挙に行けというだけである。
国は多額の金を使って、投票率のアップのキャンペーンをやっているが、
J党もM党もあるものか、と国民の多くは感じている。
だから、投票率が下がるのだろう。選ぶべき人物がいないのに「その名をかけ」というのは、一種の拷問である。結局、名前を書かず、白票で投票所を出ることになる。
当選した棟田は、ツルギにとっては新市長ではなく「大好きなオジサン」である。
ツルギは自分のことのように棟田の当選を喜んだ。
当選してからと言うもの、秘書としてのツルギの日常は、一変した。棟田新市長も見違えるようにてきぱきと仕事をこなしていった。
棟田は、どうしたら市の改革を達成できるか何をする事が社会のためとなるかをツルギと熱っぽく語り合った。
二人はお互いの考え方を洗いなおすようにして状況を見つめなおした。
改革を言う首長は、だいたいが内部の批判を大きく受けるが棟田とツルギに対して市の役人たちも協力的な態度で見守った。
それは棟田が行政の制度の不備を嫌ったが役人個人には同情心さえ抱いていたからである。
つるぎも市長秘書として謙虚な態度を守っていた。ツルギの「遠くを見るようなまなざし」も市の役人の心を捉えていた。
市の改革は順調に行きそうに思えた。
しかし棟田は、日頃の酒にからむ不摂生(ふせっせい)がたたり、新市長誕生から3か月後の、歳も明けた2月の中ごろに緊急入院しその数日後あっけなく息を引き取った。
なくなる直前に棟田は病院にツルギを呼んでその手を握り後は頼むといった。
その意味することは知らないが、無意識に「まかせて」と答えた。棟田はそれを聞いて笑顔を見せその翌日息を引き取った。
目まぐるしくもあっけない最後であった。
父親を亡くした時のようにツルギは涙を流した。
その流す涙は頬(ほほ)を濡らし変身を遂げて美しくなったツルギの顔を歪(ゆが)めた。
しかし、
悲しみにくれる時間があるはずも無かった。
回りの強い要望もあり、ツルギはこれを境に政治の世界に突き進んでゆくのである。
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