第18話


ツルギが仕える議員は高齢であるが秋の市長選挙に出馬が決まっている。

現時点で当選を予想する者はいない。

しかし・・・・・     

 

翌朝、新聞を見るとツルギの記事が大きく載っている。

見出しは派手に「ツルギ!議員秘書に!政治に興味か?」とある。

書くなら勝手に書けと、心で笑った。

ツルギにとっての初めての仕事が市長選と言う場面である。

朝食もそこそこに選挙事務所に向かった。

ツルギが仕える市長候補の名は「棟田三郎」。

その棟田とがっちりと握手を交わし、必勝を誓った。確かに、棟田の政治家としての技量を評価する者は少ない。

しかし、人間としての「棟田」をツルギは評価している。

これからの時代は人間性を第一とし頭脳の優秀な人々はその優れた指導者を助ける役割を担うべきだとツルギは考えている。

泡沫候補のように全く無視された棟田を何とか当選させたいとツルギの頭はめまぐるしく動き回った。

しかしツルギの心配は無用のものであった。

ツルギ自身が考えているより「ツルギの人気は絶大」なのである。

一地方都市の市長選挙ではあるが、新聞テレビは大きく報道した。

アメリカでも自国民を救った女性としてのツルギは有名であり人気もありマスコミの報道にも力が入っていた。

例の事件の映像が世界に配信されたのと、日本の妙な判決に世界は驚いた事もあって世界のマスコミもこのニュースに飛びついた。

困ったのは相手陣営の現役の市長である。

この市長は実のところ「ツルギファン」なのだ。

ツルギが市長候補ではないので一応は戦う姿勢を見せてはいるが力が入らない。


この町の誇れるものはケヤキ並木である。

広い通りをすっぽり覆うようにつづいている。

そのケヤキが葉を落とす頃ついに選挙戦が始まった。

始まってすぐに、マスコミは「棟田当選確実」とニュースを流した。

選挙カーに乗ったツルギを見ようと全国から人々が集まった。

目当ては棟田ではなくツルギなのだ。

ツルギが応援のために手を振ると大きな拍手が沸き起こった。その周りに集まる多くは女性である。女性をひきつける何かを持っているといっていい。

それに加えて選挙運動をやらせてみるとツルギは雄弁であり心に響く言い回しはまわりの人々を驚かせた。

そのそばで、棟田市長候補はうれしそうに手を振っていた。

選挙運動もあっという間に過ぎて、選挙当日となった。

選挙結果に興味を持つ者はいない。

市民の興味は投票率である。

これはツルギが選挙期間中に「投票を棄権しないで!」と訴え続けたのである。

このツルギの「お願い」を市民はどれだけ心に受け止めたのか。

周囲はツルギの影響力がどれほどのものか興味を持った。マスコミはこの一点に注目した。

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