第16話
その月も終わろうとするある日の夕方、
ツルギは携帯をいじりながら、事件のことを思い出していた。
今の日本、何か変?何だろう?
何がどうなっているんだろう?
悪いとするなら何が原因だろう?
このままでよいのだろうか?
自分に出来る事は何だろう?。
いじめに合い、会社を辞めてからの短い間に、自分を取り巻く変化に戸惑いながらも、ツルギは自分の魂の内側から湧き上がるエネルギーを感じ始めた。
「何かをやりたい」とも感じ始めた。
やがて、
「自分に何かが出来るかもしれない」と考えた。
こんなことを考えながら、ぼんやりと窓から外を眺めていると、携帯が鳴った。それを手にして「ハーイ」と言ったその瞬間、ツルギは喜びを顔一杯にあらわし流暢な英語で興奮しながら話し始めた。
電話の相手はステファン・ジョイスといってアメリカ留学中に空手道所で知り合った親しい友人の一人である。
その子の父親はアメリカの上院議員で国内でもそこそこに名の知られた人物である。ツルギのことを知るステファンの一家が今回の事件に心を痛めると同時に「ルギーよくやった」と賞賛の声を上げたのである。・・・・・ルギーとはツルギのニックネーム・・・
ステファン勇気に感動していると伝えてきたのだ。
数分のテンションの高い会話が続いたがツルギは別れ際になって涙を見せながら、会う日を楽しみにしてると言って電話を切った。
このステファンが将来ツルギが世界へ飛び出す時の強力な後援者となってゆくのであるが今は知る由(よし)もない。
八百屋のオヤジが紹介してくれた秘書の仕事も、やりがいがありそうにツルギは思った。
小さな町の政治ではあるがそれに参加してみるのもよいと考えた。
そう決心すると心も軽くなり夢も広がり一気に元気を取り戻した。
ツルギはオヤジにあらためてお願いに行った。
ツルギが仕える議員は高齢であるが秋の市長選挙に出馬が決まっている。
現時点で当選を予想する者はいない。
しかし・・・・・
翌朝、新聞を見るとツルギの記事が大きく載っている。
見出しは派手に「ツルギ!議員秘書に!政治に興味か?」とある。
書くなら勝手に書けと心で笑った。
ツルギにとっての初めての仕事が市長選に関わる仕事である。
朝食もそこそこにツルギは選挙事務所に向かった。
ツルギが仕える市長候補の名は「棟田三郎」。
その棟田とがっちりと握手を交わし必勝を誓った。
確かに棟田の政治家としての技量を評価する者は少ないが人間としての「棟田」をツルギは評価している。
これからの時代は人間性を第一とし、頭脳の優秀な人々は、その優れた指導者を助ける役割を担(にな)うべきだとツルギは考えている。
泡沫候補のように全く無視されている棟田を、何とか当選させたいとツルギの頭はめまぐるしく動き回った。
しかしツルギの心配は無用のものであった。
ツルギ自身が考えているより「ツルギの人気は絶大」なのである。
一地方都市の市長選挙ではあるが、新聞テレビは大きく報道した。
アメリカでも、自国民を救った女性としてのツルギは有名であり人気もありマスコミの報道にも力が入っていた。
例の事件の映像が世界に配信されたのと日本の妙な判決に世界は驚いたので世界のマスコミもこのニュースに飛びついた。
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