第8話


友人のマンションの一室

遅れたことを友人に謝るわけでもなく、また、遅れたことを責める友人でもなく、

久しぶりに会ったからと言って、はしゃぐわけでもない。

友人は夫と別れたわけをもそもそ言いながら、女の髪をいじり始めた。

その友人と女は大学時代の友人である。


「何で急に髪なの?結婚式でもあるの?」と、その友人は聞いた。

男を見つけるため、とも言えないので「そうだ」と答えた。

のんびりした話し方とは違って、手は淀(よど)みなく動き続ける

この友人は、今でこそ平凡なOLだが、当時は腕の良い美容師であり、相当の評価を受けていた時期もある。

途切れ途切れの会話を重ねながら一時間が過ぎた

美容仕上がりの友人は「どお?」と低い声。

出来上がってみると、太ってはいるけれども、それなりに女性らしく・・これで痩せたら?・・・と想像させた。

女はこの髪型が気に入った。

髪形の感想を言うでもなく、ありがとうを言うでもない。

金もないので「いくら?」とも言わない

一言「気に入ったわ」と言っただけである。

友人も、何を要求するわけでもなく「またね」と言った

あっさりとした関係の中に、なぜか思いやりを感じさせる独特の友人関係である。


女は、およそ四キロの道を歩いて帰る

今日の出来事は、女にとって予想のできない事だった

野菜も、お酒も、おつまみもただで手に入るのだ

確かに試飲試食の存在は以前から知ってはいたが、それが食事代わりになるとは思わなかった

歩いて一時間以内のところにデパ地下とスーパーがあわせて7店ほどある

女の頭の中ではデパートとスーパー巡りのスケジュールが忙しく作られていった。

とは言っても、

試飲試食のただ食いでは生活ができない。

差し迫(せま)って仕事を探す事にしたが、この巨体では雇ってくれるところも簡単に見つから無い。

アルバイトさえ見つからない状況では、社員で雇ってくれるところがあるはずも無い。

知り合いでもいればそのツテで、と言う事もあるが・・・


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