第7話
予想は的中。
ワインの試飲をやっている。しかも、この女に向かって、「どうぞ」といってくれている。
試飲の店員は相手がどんな女か知らないのだ
女の巨体に腰を引きながら店員は、再度試飲を勧(すす)めた。
この女は思った、「いきなり奪い取るとよい結果が出ない」と。
ウインナーの試食で経験したばかりなので、優雅に受け取り二杯目を飲み干した。
何時もは、お酒にはすぐに酔ってだらしなくなるので、飲まないようにしているのだが無料という言葉に負けて飲んでしまった。
のどが渇いていることもあって、嫌がる売り子からカップを奪い取るようにさらに2、3杯飲み干して、終(つい)にはボトルを奪い取って、紙コップにどっと注(そそ)ぎ、グイッと流し込んだ。
これが「社会のために尽くしたい」と考える女のする事とは思えない。
食い物に関して、ほしいとなったら何としてでも口にしたいと言う性格は直っていない。
かくして、ここに巨漢の酔っ払いが一人誕生したのである。
うつろになった目であたりをみまわし、さっきのウインナーが忘れられず、
再び、その方向へ足を向けた
顔を真っ赤に染めた牛のような女が、足をふらつかせながらやってくるのを見たウインナーの売り子は売り声をやめ、後ずさりをしてその持ち場から逃げ出した。
離れて棚のかげに立っている
避難しているといった方がよいかもしれない。女は、その状況にお構いなしに、試食の皿から五・六個まとめて口の中に放り込んだ
この女に注目する客も多い。
何せ酔っているので、周りの目は全く気にならない。女はやがて、焼けたウインナーが無いことを確認すると悠々とその場を離れてスーパーを出た。
スーパーにしてみればちょっとした事件であるがそれ以上に店側が騒ぎ立てることはなった
一方、本人は、悪い事をしたと思っていないので、得した気分で実に楽しそうに歩いている。
ほろ酔い加減で道を行くと、角(かど)の八百屋のオヤジが傷みかけた野菜をより分けている
一つのダンボールに捨てられた野菜を見て女は、
・・・・しばらく、野菜を食べていないな・・・と、この女は心で思った
「おじさん、ウサギに上げるんだけどそれくれない?」
・・・・・うさぎは飼っていない、自分で食うのだ・・・
・・・・・よくも、とっさにうまい事が言えるものだ!・・・
八百屋のオヤジは気持ちよく分けてくれた、それも、持ちきれないほど。
レジ袋に二つ、半分は食えそうに無いが、残りの半分は食えると見て、女は喜んだ
こんなに簡単に、食べ物が口にできるんだ、とこの女はひとりで感心した。そうして日本の豊かさを実感したのである。食欲も満たされ、食料も調達できたところで、ようやく友人のことを思い出した。
約束の時間を40分ほど過ぎている。
歩いて十分のところだから50分ほどの遅刻となる。
両手に、野菜のぎっしりと詰まった袋をぶら下げて、
身体を左右にゆすりながら、街明かりの中にきえた。
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