第44話願う


 大人四人の反応は同じだったけど、その心理はそれぞれに違うよね。

四人の中で一番冷静な判断ができる、つまり冷静で客観的に見られる東雲先生が、一番先に口を開いた。


「なるほど、そう言うことか。ふうん、よくわかったよ。さあ、今日はこれでお開きだ。丈太郎くん、何度も無理を言って誘って申し訳なかったね。」

「あ、い、いえ。あのう、、、。」


丈さんは、事態をどうして良いか分からずに真っ赤な顔のまま、陸に上げられた魚みたいに口をパクパクと動かしている。

東雲先生は、僕に顔を近づけると


「颯真さん。君は噂通り、、、いや、噂以上の人だね。素晴らしい。君がどんな大人になるのか心から楽しみにしている。これからもよろしくね。長い付き合いになりそうだ。」


そう言うと、心陽先生の腕をとって、満面の笑顔で帰っていった。

心陽先生は、自体が飲み込めず、いや飲み込みたくなくてジタバタしていたね。


「え、え、待って。お父様、ちょ、ちょっと、待って。」

「良いから、帰るぞ。」

「い、イヤ。ちょっとお父様。は、離して。」

「ほら、母様が待っているだろ。帰ろう。良いから、おいで。もう、諦めなさい。」

「ま、待って。嫌よー。」


漫画のような展開。引きずられて、心陽先生は帰って行った。


 残された三人はと言うと。僕は東雲先生に


「さようなら〜。」


と、気持ちよく手を振って、作戦成功を一人で噛み締めていた。

母さんは呆れ顔で僕を見ていたし、丈さんは相変わらず魚のままだった。

母さんは、車のエンジンのかけると僕たちに


「二人とも、いつまで突っ立ているの。帰るわよ。」

「うん、三人で帰ろう。」


僕は、魚の丈さんの背中を押して車に乗り込んだ。


 動揺が隠せない丈さんの為に、僕は今日学校であった話を家に着くまでずーっと話したんだ。


 ー我ながら、気遣いの人だと

  自分を褒めてあげたいよ。ー


家に着く頃には、それなりにいつもの丈さんに戻って来てたけど、すごいのは母さんだ。

見た目の態度は、全くいつもと変わらない。だからさ、丈さんの動揺っぷりが際立った、もはや面白いくらい。

浮気がバレた男の人は開き直るって言うけど、女の人っていざとなると、肝が座るんだね。それとも母さんだけ?


家に着くと、丈さんは鞄を置いて僕を抱きしめた。


「颯。」


いつもとは違う丈さん。僕もお父さんに抱きしめられてるって思えて、少し涙が出ちゃった。

丈さんは、その後母さんに同じことをしようと手を伸ばしたけど、


「何するのよ。ご飯にするわよ。お腹ペッコペコ。颯、手を洗ってらっしゃい。」


 ー呆れるほどあっさりだね。ー


「丈も食べる?」

「た、食べるよ。食べさせてください。」

「そ。じやあ、颯と一緒に手を洗って来て。早く。手伝ってよ。」


僕は、丈さんの手を引いてスキップしながら洗面所に向かったんだけど、振り返って見たキッチンに向かう母さんの背中も弾んでいた。


 お夕飯は、いつにも増して楽しかった。母さんが食後に運んできたプリンもいつもと同じなのに、今日のは格別。したくもない中学の勉強もサクサクできちゃうよ。

キッチンで食器を洗っている母さんも鼻歌を歌ってる。

丈さんとお風呂に入って、背中を流してあげた時に


「同じ所にホクロ。三角形の位置のホクロ。ふふ。」

「うん?三角形のホクロの?」


丈さんが少し振り向いてそう聞くんだ。


「背中のにある三つのホクロだよ。ほら、逆正三角形みたいな位置にある。丈ちゃんの背中は大きいから、冬の大三角見たい!」

「背中に冬の大三角?」


不思議そうに話す丈さんに


「丈ちゃん。もしかして、自分の背中に三角形に並ぶホクロがあるの知らないの?」

「俺の?知らない。」


僕は、急いで自分の背中を丈さんに見せたんだ。


「これだよ、これ。僕と丈ちゃん、同じ位置にホクロがあるんだよ。」

「えっ。ほんと?ちょ、ちょっと見えないぞ。」


お風呂場の鏡に自分の背中を写したけど、石鹸だらけで全く見えない。

急いでシャワーで流して、右から、左からって鏡を見たけど背中だか良くわからない。

丈さんは、僕の背中も急いで洗って、湯船に入り、早回しで百を数えてお風呂から上がり、タオルでチャチャッとふくと。


「おーい。お蘭。スマホ、俺のスマホ持ってきてくれー。」


母さんが、


「着信、来てないわよ。」


とスマホを持って来ると


「写メ撮って。早く。撮ってくれ。」


そう言って、僕と並んで背中を見せた。

母さんが撮った写メを見た丈さんは、涙声で


「本当だ、、、。三角のホクロ、、、。全く同じ位置にある、、。」

「自分のホクロなのに、知らなかったの?」


僕は、ちょっと呆れて言ったんだけど、感激している丈さんはスマホを見つめて


「知らなかった。全然知らなかったなあ、、、。颯のホクロはもちろん知ってたけど、、、。自分の背中は見えないからな〜。そうか、同じホクロか〜。いいな〜。」


僕も母さんもそんな丈さんを幸せな気持ちで見ていた。

それから母さんは、


「もしかして、名前も気がついてないの?」

「名前?」

「呆れた。本当に気がついてないのね。」

「えっと、、、。待て待て。うん?名前、、、って?」


丈さんって本当に可愛い。だから僕が教えてあげたんだ。


「僕、丈ちゃんから一文字もらってるでしょ。」

「、、、俺から?うん?丈太郎、颯真。どこがもらってる?」


僕は、もー。って言いてから、


「自分の華道のお名前。忘れちゃった?西園寺さいおんじ琇颯しゅうらん先生。」

「あっ、あーーーーー。そうか。琇颯、颯真。そうか、そうか、颯か!おっ、あっ、らん!お蘭も入ってる。そうか、二人の名前か、、、」


僕と、母さんは脱衣所で髪の毛を拭いたり、洗濯物を洗濯機に入れながら


「こんなに鈍い人だと思わなかったわ。」

「本当だね。僕だって、すぐにピンと来たのに。」

「どうする?丈のこと、しばらく出禁にしようか?」

「反省文かかせるのは?四百字詰め原稿用紙、五枚とか。」

「颯、それ。良いわね。始末書はどう?書き慣れてるだろうし。」

「良いね〜。」

「決まり。丈、始末書ね。」


母さんはニヤリとしながら丈さんにそう言った。丈さんは幸せそうに


「勘弁してくれよー。」


って。

僕の家にこんなにも幸せな時間が流れるなんて。


 悲しい事件が続いたけど、いや、悲しい事件をたくさん見てきたからこそ、母さんと丈さんと僕の幸せな時間がいつまでも、いつまでも続こと心から祈った。



僕は ヘブン・セント・チャイルド 幼少期編は完結です。

読んでいただき、ありがとうございました。

お時間を頂きますが、多感な中学、高校編と続けたいと思います。

丈太郎と颯真の背中にある三角形のホクロの秘密。

颯真がかけ始めるカラーレンズのメガネ。

そして、現れる、神の申し子たち。

これからも、よろしくお願いいたします。

彩 夏香




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僕はヘブン・セント・チャイルド〜愛してくれたのは神様?それとも‥〜幼少期編 @irdorintuka08

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