第30話丈さんと僕と


 家に帰ると、ダイニングのテーブルに買ってきたご飯をいっぱいに並べた。

もちろん丈さん用に買ったパンツも一緒に。丈さんはビックリして


「颯って、もうこんなパンツ履くのか?」


だって。


「違うよ。丈ちゃんのパンツ。」

「お、俺の!」


もの凄くとまっどっているのはわかった。でも、僕は構わず


「お願い。丈ちゃん。今日は僕と一緒にいて。かあさまと家にいたら安心なんだけど。丈ちゃんがいてくれたらもっと安心できるから。」


丈さんは、嬉しそうにも困っているようにも見えた。


「じゃあ、この間みたいに、颯が寝るまで丈ちゃんがそばにいるよ。それなら安心だろ。」

「やだよ。朝起きたら丈ちゃんいなくて、、、すごくがっかりしたんだからね。」

「颯、、、。」


 ー丈さんのその顔。もうひと押しだね。ー


「もう、丈ちゃんの部屋着も買ってあるんだよ。ね、かあさま。」

「そうよ。颯が珍しくおねだりしたのよね。ほら。」


母さんが、嬉しそうにスエットの部屋着を持ってきた。


「ね、準備万端でしょ。一緒にお風呂も入ろうよ。背中流してあげる。一度してみたかったんだ。丈ちゃん、お願い。」


丈さん、嬉しそうに観念して


「そうだな〜、颯の頼みだもんな。よし!一緒に入るか!。」

「やった〜。丈ちゃん、こっちこっち。」


母さんが帰りの車の中でスマホを操作して、お湯もバッチリ用意してあるから、二人ですぐにお風呂に入った。

お腹空いてるんじゃ無いかって聞かれてけど、丈さんの気が変わらないうちにお風呂に入らないと、いつ帰るって言い出すか心配だったから大丈夫ってちょと無理して答えたんだ。

お風呂に入っている間中、お腹がグーグーなって、やっぱりペコペコなんだろうって、二人で大笑いしながら入った。


 ーこんなに楽しいお風呂は久しぶりだ〜。ー


丈さんの瞳には、赤ちゃんをお風呂に入れている様子が映っているね。

僕かな?そうだといいな。


 僕が丈さんとお風呂に入りたいと思ったのには二つ理由がある。


一つはもちろん丈さんに泊まって欲しいから。丈さんの匂いって母さんと同じくらいに安心できるんだ。

大人になっていくからなのか、今回の『めめ』の力の事は、誰よりも僕自身が一番とまどっている。


犯人が憂さ晴らしに殴りつけていた家族を丈さんが奪ったと思い込んで、丈さんを逆恨みで襲おうとした。

それが失敗すると自分の子供にその矛先を変えた。

この犯人の狂った思い込みで、僕の体の中に制御できないほどの怒りの感情が湧き出した。

僕は、怒りを相手の瞳にぶつけたんだ。その瞳に火傷を起こすほどのパワーをどうやら僕は持っている。

それは、何となくわかった。

じゃあ、それは いつ、どんな時に、どれくらいの力を出すの?

自分でコントロールできるの?

できなければ僕が見た人の瞳を無差別に傷つけてしまうの?

救急搬送の謎が解けたけれど、別のもっと大きな不安に飲み込まれそうなんだ。


ーだからね、今日は丈さんにそばにいてほしい。ー


もう一つの理由は、幼稚園の遊園前に聞いた母さんのあの言葉。

颯は同じところにホクロがあるのね、って。

それは、母さん?それとも、、、


 お風呂から上がると、テーブルには沢山のご馳走が並んでいた。

お皿に移し替えるとコンビニのご飯はさらに美味しそう。


「おお、ちゃんとお皿に移し替えるなんて、さすがお蘭だな〜。」

「うん?どう言うこと?」

「コンビニ弁当は、チンしたらそのまま食べれば良いんだよ。」

「へー。そうなの?」

「そっ。そして食べ終わったらそのままゴミ箱にポイ。作る手間も、片付ける手間もなし。まさにコンビニエンス。」

「なるほどね〜。」


母さんも、僕もすごく感心したけど、すぐに


「ちょっと、丈。よっぽどコンビニにお世話になってるって事よね。たまにはちゃんとしたもの食べなさいよ。」

「ちゃんとしたもの食べる為にコンビニ弁当なんだよ。自分で作ったら体に悪そうだろ。」

「確かに。丈が作るなら、そうかも。」

「だろ。」


たわいも無い会話が続いていた。


 ーいいな。こう言うのってー


ビール片手に話をする丈さんも、母さんも楽しそうに笑っている。


二人の瞳の中に映る残像が見せているのか、それとも僕の思いで見えてるだけなのか、よくわからなかったけど、制服姿の母さんと丈さんがそこで笑っている様だった。


 ーずーっと、三人で一緒にいたいよ。ー


声に出して言ったら、丈ちゃんが二度ときてくれないような気がして言えなかった。


 さて、打ちひしがれた心陽先生はと言うと。

さすが清雅英明学院、源氏組。ある事にすぐに気がついていた。


「あれ。颯真くん。鏑木坂姓よね。丈太郎様は、西園寺。つまり二人は親子ではない。

下着をコンビニで買っているって事は、常に一緒に暮らしていないはず。そうよ、お二人は、同じ歳。ただの幼馴染なのよ。

たまたま今日は颯真くんにねだられてお宅に伺うだけ、きっとそうよ!

蘭子様、確かにお綺麗だけど、私だって顔のつくりは負けてないし。しかも独身で子供もいないし、三つも若い!

まだ、私にもチャンスあり!いいえ、私の勝ちだわ!」


怖いくらいに源氏の皆様は前向きで、折れない人たちばかり。

騒動は一応解決したけど、もっと大きな女の争いが始まりそうです。

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