第28話確信

 僕の言葉に時間が止まった。

母さんが震えている。僕の目の前にいる丈さんの瞳になぜだろう小さい頃の僕が映っていた。

そして、絞り出すように


「颯、冗談でも今はきついな。」

「きついんだ。」

「いや、違う、そうじゃない。そうじゃ無いんだ。」


丈さんは自分の頭の中が整理できずにいる。


「丈ちゃん。かあ様。僕もわかんないんだ。だから、聞いてほしいの。」


丈さんは僕の膝に手を置いて、それから、手を伸ばしていつものように膝に僕を乗せてくれようとしたけど、僕は首を振って。


「このままで大丈夫。僕、もうすぐ六年生だから。かあ様も座って。」


母さんは小さく頷くと、丈さんが立ち上がって母さんの椅子を僕のすぐ隣に用意して、母さんの手を取って座らせた。

そして、丈さんは三人で手を繋ぐように、僕の手に母さんの手を握らせ、丈さんも僕の手を取った。

丈さんの優しさで、僕は静かに話し出すことができた。


「あの時、僕はただ丈ちゃんが心配で東雲先生の家に行った。

結華ちゃんは、幼稚園の入園式の時とは違って、とても勇気のある人になってた。でも僕は違う。すごく犯人が怖くて。何もされて無いのに足がすくんだんだ。」

「颯。丈ちゃんもいつも怖い。怖いって思うのは恥ずかしいことじゃない。むしろ、大切な事だよ。」

「うん。」


母さんも頷いて僕の背中を優しく撫でてくれた。


「実はね、二人にも話して無いことがあるんだ。」

「、、、何?」


母さんの緊張が手を通してすごく伝わってくる。


「あのね、結華ちゃんには、僕とは違うけど何か力があるんだ。」

「え。あっ、ゆ、結華ちゃん、、、違う力、、、そうなのか。」


丈さんも、母さんもすごく戸惑ってる。

そうだよね、いきなり結華ちゃんの話に飛んだんだから。


「うん。怖いことをする人からすごく嫌な匂いがするんだって。」

「匂い、、、。」

「幼稚園の入園試験の日の事、かあ様は覚えている?」

「、、、ええ。」


忘れるはずない出来事だが、母さんは答えに迷いがあるようだった。


「かあ様、僕の怖い話じゃないよ。心配しないで聞いてね。」

「、、、わかったわ。」


入園試験の日に結華ちゃんのお母さんから嫌な匂いがして、母さんを襲おうとしている事が結華ちゃんはわかったんだと二人に話した。そして


「警察では話して無いけど。僕、なぜか結華ちゃんの声が頭の中で聞こえるんだ。結華ちゃんも僕の声が聞こえてるみたいなんだよ。」


丈さんも母さんも声が出ないほど驚いている。


「入園試験の日も、そして今回も結華ちゃんの声が頭の中で聞こえた。それで、かあ様を助けられたし、立てこもっているのが陽奈乃ちゃんのお母様だってわかったんだ。」

「ああ、、、。確かに警察で話さなくてよかった。丈ちゃんたちは、颯の『めめ』のことがあるから、まあその、えー、、あー、テレパシーもあるんだなと、まあ、、、わかる。」

「テレパシー?何それ?」

「お互い声に出さなくても話ができる、、、って言うか。本当にあるかは、、良くわからないが、、、。」


丈さん、凄くオロオロしてる。


「まあ、話を進めてくれ。」


僕は結華ちゃんの匂いの力で、犯人がすぐ近くにいるのがわかった事。

犯人の瞳に映し出された物で丈ちゃんを狙っていることがわかった事。

結華ちゃんが、丈さんや東雲先生を助けたくて行動を起こした事。

そして、犯人の言葉に今まで感じたことがないほどの怒りが込み上げて来て


「その目に僕の大切な人を二度と映すなって、言ったんだ。」


丈さんは僕の目を見ている。


「それだけか?」


その瞳には相変わらず小さい頃の僕が映っている。

丈さんの心配と不安。そして、僕を大切にしてくれている思いが瞳から伝わってくる。


 ーごめんなさい。だからこう言うしかない。ー


「うん。それだけ。目からビームも出てないと思うよ。」


丈ちゃんは僕の顔のすぐ前まで顔を近づけたかと思ったら僕をヒョイと膝に乗せて。


「そうか、それだけか。丈ちゃんも見てた。目からビームは出てなかったぞ。そうか、そうか。」


丈さんは僕を抱きしめながら、泣いてるのか、笑ってるのかわからなかったけど。そうか、そうか、って言いながら大きな声で笑っていた。母さんは、らしく無いほどにだらしなく椅子にもたれかかって座っていた。


犯人が失明するかも知れないほどのダメージの原因は、誰もわかっていない。

丈ちゃんに話した事で、原因が僕じゃないと証明もされていない。

それでも二人は僕の

「それだけ」

と言った言葉を信じて安心できたんだ。


そうさ、目からビームなんて出してない。

でも、話しているうちにあの時の感覚がハッキリと戻った

怒りの感情の爆発をあいつの瞳にぶつけたんだ。

爆発をぶつけた。その感覚を鮮明に思い出したよ。


ごめんなさい。

誰にも言えない。

僕が犯人を失明に追い込んだと確信したことを




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