第25話校長室
一週間の休み明けに学校に行くと、陽奈乃さんの話題よりも僕の事で盛り上がっていた。
「颯真さん。テレビ見たよ。」
「カッコ良かった〜。犯人にタックルしたんでしょ!」
「えー。凄い!中継に映ってたの?」
「タックルの所は映って無かったけど、犯人が取り押さえられたって。小学生の男子がタックルしたってリポーターの人が言ってた。」
「すごーい。すごーい。見たかったなあ〜。」
ーあーなんか、帰りたい。ー
「なんで、タックルしたの?」
「どうしてあそこにいたの?」
どうして?なんで?が、ずっと僕に浴びせられた。
「犯人を睨みつけたんでしょ!カッコイイ〜。」
「怖くなかった?」
「その後 救急車で犯人運ばれたみたいじゃん。」
「颯真さんが、やっつけたって事?つよ!」
ーえ、何それ?犯人が救急車で運ばれたって?ー
僕は、救急搬送されたのが犯人だとは知らなかった。
いや、知らされなかったんだ。
東雲先生の家で陽奈乃さんのお母さんを救出している時に何があったのか聞きたかったが、担任の大原先生が僕を呼びに来た。
僕は、校長室に呼び出されたんだ。
そりゃ呼び出されるよね。休み中にウロウロして、しかも事件に関わって。
ーあー怒られるんだろうなー。
丈さんの事しか頭になかった。
学校のことすっかり忘れてたよ。どうしようー。ー
校長室には、何回も来ている。もちろん褒められることだけでね。
先日の進級試験でも金のエンブレムを取得して、初等部の六年間金のエンブレムは僕に決まった。
金のエンブレム授与式と、六年間通して金のエンブレムをつけた事を祝してのバッチもいただいた。源氏から出るのは久しぶりらしく、校長室でケーキとお茶をご馳走になったんだ。
校長先生は源氏出身。だからって、こんなあからさまに先生の立場の人が喜んで良いの?ってほど喜んでいた。
畑中先生が倒れた件でも、冷静に対処して先生を救ったと、一週間の休みに入っている僕の為に、わざわざ校長先生が家にまで訪ねていらしゃって褒めてくださった。
でも、今日は違うよね。どうなるんだろう。
金のエンブレル剥奪かなあー。二番の伊織がつけるのだけは嫌だなあ。
ーあー。校長室までの廊下って、
こんなにどんよりしていたっけ。ー
大原先生が校長室のドアをノックする。
「大原です。」
「入りなさい。」
いつもならなんて事ないやりとり。でも今日は、ドアをノックする音さ
え重く苦しく感じる。
ー校長室に入るのってこんなにも怖い?ー
校長室のドアを開けると、校長先生一人ではなかった。
ーわあ、何?なんだかいっぱい人がいる。
警察の制服を着ている人まで。
どうなってるの?ー
「いや〜。鏑木坂くん。凄かったね。」
「へ?」
「この子が、鏑木坂 颯真くんですよ。初等部で最も優秀な子で。ねえ、畑中先生も、颯真くんに命を救われたんだったよね。」
「はい。校長。彼の冷静な判断で後遺症も何もなく。こうしてもと通り、元気に教壇に立てております。颯真さん、本当にありがとう。」
「あ、はい。」
畑中先生もいらした。
「颯真くん。こちらは、我が校出身の
「ごきげんよう。鏑木坂颯真です。」
「ごきげんよう。西園寺くんから聞いているよ。畑中先生の事も、東雲先生の事も、本当にありがとう。今日は颯真くんにお礼が言いたくて伺いました。君の冷静さは素晴らしい。」
「いえ、僕は何も。」
「謙虚なところも素晴らしい。校長先生、初等部にこんなに優秀な子がいて幸せですね。」
「本当にそうです。ははは。」
ーなんだ、怒られるんじゃなかったんだ。
先に言ってよ。ー
その後も大人たちは楽しそうに会話をしていたっけ。
長かったし、何より全く興味がわかなかったから退屈だった。
「では、これからも成長を期待しているよ。」
「はい。では、失礼します。ごきげんよう。」
校長室を大原先生と後にした。
「はあ〜。」
思わずもれたため息に、隣を歩いていた大原先生が吹き出して
「お疲れ様。興味のない大人の長話は疲れるよね。」
先生の顔、めちゃめちゃニヤニヤしてる
「先生、僕の退屈してるの、わかってたんですか?」
「わかる、わかるよ〜。」
先生も退屈だったって顔に書いてありますね。
「僕、てっきり怒られるのかと思ってました。」
「そうよ、怒られるとこだったのよ。」
「えっ」
大原先生は、立ち止まり、仁王立ちになって僕をじっと見た。
「颯真さんだって、わかってるでしょ。この一週間の休みは休日じゃない。自宅学習の時間でしょ。」
「、、、はい。」
ーしまったー。余計なこと言っちゃった。ー
「それなのに、フラフラと出歩いて。しかも危険な立てこもり事件の現場に行って。その上、犯人にタックルするなんて!叱られて当然です!」
「ごめんなさい。」
先生は、一つため息をついて、僕の両腕をさすりながら
「颯真さん。お母様やご家族がどれほどご心配なさったか。先生だって聞いた時は血の気が引いて倒れるかと思ったわ。」
「、、、ごめんなさい。」
大原先生の目に、涙が光っていた。
「颯真さんのとった行動は大切な西園寺さんを守りたかったからと伺いました。
あなたは、本当に冷静で物事をしっかりと見る力を持っている。それが今回も事件解決の役に立ったのでしょう。
でもね、颯真さんを大好きな人たちの心を削り取るような心配をかけるのは、決してやってはいけない事です。」
「はい。」
「あなたは、賢くて、思いやりのある子。先生の話、理解したね。」
「はい。理解しました。」
先生は優しく微笑んでくれた。
「神宮寺警視正がいらっしゃたからお咎めなしになったのよ。長い話にも感謝しなくちゃね。」
「えっ?」
「たぶんだけど、このタイミングで警視正なんて偉い方がいらっしゃるのは、裏で西園寺さんが動いてると先生は思うわ。」
「丈さんが?」
「先生の推理よ。当たってるかしら。」
ふふふって、大原先生はイタズラっぽくそう言った。
それから教室に向かって歩きながら、血の気が引くってあんな感じなのねって、もう二度とごめんだわって、僕をチラッと見て言ってたっけ。
大原先生、ありがとうございます。
僕は沢山の人に見守られているんですね。
感謝しています。
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