第24話秘密
立てこもり事件もなんとか解決できて、ホッとした。
何より、丈さんが無事なのが一番嬉しい。
心陽先生に丈さんと仲良しなんだって見せつけたくて、丈さんに飛びついて抱っこしてもらったけど、考えたら僕はもうすぐ六年生になるんだ。
なんだかさ、急に恥ずかしくなっちゃって。玄関を出た所で丈さんに降ろしてもらったんだけど、
「颯、大丈夫か?」
って。丈さんに心配かけちゃったね。ごめんなさい。
僕たちが玄関前の階段を降りようとした時、ちょうど救急車がサイレンを鳴らして出発する所だった。丈さんも
「救急車?あれ、怪我人でも出たのか?」
救急車は怪我人に備えて待機してるんだけど、サイレンを鳴らしたって事は実際に怪我人が出たってこと。誰だろうと思って出発した救急車を見送ると、その影から母さんが姿を現した。
「颯!颯!」
警察の人に静止されていたけど今にも振り切って駆け上って来そうだ。僕は思わず声が出て
「しまったー。かあ様にバレたー。」
「ん?颯、どう言うことだ?」
丈さんが僕を覗き込んで聞いてきた。
「かあ様、今日お仕事で、僕一人で大人しく留守番してるって約束してたんだ。どこにも出かけないし、ドアも開けないからって。」
「そうか。」
「でも、テレビで立てこもり事件を知って。」
「まさか、ここまで一人で来たのか?どうやって?危ないじゃないか!」
ーなんか、丈さんも怒ってないですか?ー
「一人じゃないよ。櫻子おばちゃまが来てくれたから、車で連れてきてもらったんだ。ほら、」
母さんの後ろには、もの凄くオロオロしている櫻子おばちゃまが立っていた。
ーなんか、地獄。本当に、地獄。
すんごく怒られそう。
母さんにも、櫻子おばちゃまにも。
きっと後で、おばあちゃまにも怒られそうだ。あー。
丈ちゃんは絶望している僕の気持ちを察してくれたように手を繋いで階段を降りてくれた。
母さんは、僕の名前を呼びながら、ただ、ただ抱きしめるだけだった。
櫻子おばちゃまも僕の頭を撫でながら泣いていた。
母さんも、丈さんも、誰も僕を叱らなかった。
ー正直、それが一番応えます。ー
僕も、結華ちゃんも事情聴取があり、警察に向かった。犯人でもないし、人質でも無かったけれど、僕たちの聴取も夕方までかかった。
結華ちゃんはお父さんが迎えに来て、また会おうねと約束して別れた。
ーお母さんが迎えに来るんじゃないんだね。ー
不思議だったのは、犯人が丈さんを狙ってた事についてあまり聞かれなかった。どうしてだろう。動機なんだから一番大切だと思うんだけど。
その後、僕は少し離れた廊下の長椅子で待っているように言われて一人、ポツンと座っていた。
離れた所で丈さんは電話をかけていて、その横に母さんが何か心配そうに立っているのが見えてたけど、なんだかとっても疲れちゃって、気がついたら長椅子で母さんの膝枕で寝ていたんだ。
「大丈夫だよ。そんな事起こる訳ない。」
「、、、そうよね。」
ー二人でなんの話をしているの?ー
僕がゴソゴソと起き上がると
「颯、目が覚めた?疲れたね。お家に帰ろう。お腹も空いたでしょ。」
「大活躍だったもんな。お疲れ様。みんな颯の冷静さに感心してたぞ。大きくなったら是非とも警察官になってくださいってだってさ。丈ちゃんとバディ組むか。」
「うん。組む。丈アンド颯だね。」
「そりゃ良いな。」
寝起きだったけど、母さんと丈さんのはしゃぎ様に違和感を感じた。
でも、聞き返しちゃいけないように思えて、僕はそのままにしたんだ。
帰宅の車の中でも母さんは妙に明るかった。
ーいったい、何を隠しているの?
そう言えば、あの時の救急車って?ー
帰宅すると、僕はお風呂に入ってポカポカに暖まった。
お夕飯はリクエストして卵うどんにしてもらったんだ。最近の母さんの
卵うどんは丈さんっぽくなって来て、卵たっぷり甘めの味付け。
ーすごく美味し。ー
母さんは、出先から会社に帰って、僕が立てこもり事件現場の映像に映ってる聞かされたんだって。
お留守番を抜け出したこと、丈さんを助けたくて現場に行ったこと、そしてすごく心配かけたことをちゃんと謝った。
母さんは僕を膝に乗せて何も言わずに思いっきり抱きしめてくれた。
ー本当にごめんなさい。ー
優しく僕を見ている母さん。
警察の廊下での丈さんの電話の内容がなんだったのか。
丈さんの、そんな事起こる訳ない、っていったいなんのことなのか。
今は聞く気になれなかった。
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