第14話めんどくさい

 勇太さんの一件で母さんと丈さんは、学校側に感謝された。

そりゃそうだよね、母親の命を救ったんだもの。もっと発見が遅れていたら、母親の命も勇太さんの心も救えなかった。


勇太さんはその後、登校する事は無かったけれど、学校側は彼の将来を考えて、初等部を卒業としたんだ。

中等部には入学せず、東雲先生のところに通院しながら、いずれは海外勤務の父親のもとに母親と一緒に行くそうだ。


一件落着。だけど学校も警察も勇太さんの様子がおかしかった事はともかく、どうして虐待の事までわかったのか何度も聞いてきた。

母さんの勘が働いたと半ば強引に話を終わらせたそうだけどね。


 僕はクリスマス会の主役も、合唱の会のソロもお断りをして、静かに幼稚園生活を送ったんだ。

母さんは幼稚園時代どちらも率先して見事にこなした。だから僕にも幼稚園からも打診があったし、母さんとおばあちゃまも僕に、お引き受けしたらって言ったけど、僕はお断りした。

静かに過ごした幼稚園も無事卒園。本当に良かった。


 幼稚園からは、ほとんどが初等部に入学になる。

初等部入学時にもやはりテストがあって、全員受けるんだ。

結果、僕が新入生代表に選ばれた。本当は代表もお断りしたかったが、それは許されなかった。

金色の二本線が入った封筒がまた届き。母さんはホクホク。

それに、成績がトップだと初等部は制服のエンブレムが、金色になる。

母さんのホクホクも金色に輝くほど嬉しそう。


 ー僕は静かに暮らしたかったけどね。ー


初等部に入ってからの学級会長とか班長とか、とにかく代表になるものは全てお断りしたんだ。

担任の先生が家庭訪問の時に心配して母さんに相談したものだから、断っている事がばれて


「颯、どうしてなんでもお断りするの?」

「やりたく無いから。」

「代表になるのも経験よ。かあさまはお引き受けしたほうが良いと思うよ。」

「めんどくさい。」


僕はこの後、めんどくさい がお気に入りのフレーズのように連発するようになる。母さんは反抗期って言ってたけど、そうじゃ無いんだ。

丈さんは心配して、母さんのいない時に僕に聞いてきた。


「颯、反抗期じゃ無いんだろ?」

「、、、」

「困った事があるなら丈ちゃんに言ってみな。かあさまには内緒にしておくから。」

「、、、内緒にしてくれる?」

「もちろん。約束するよ。」


丈さん、相変わらず優しくて母さんと同じくらい大好き。だから言ったんだ


「『めめ』の事なんだけど。」

「うん、どうした?」

「クラスの子、みんなの『めめ』が見えて、、、なんか、、、苦しくなっちゃうんだ。」

「みんなの『めめ』が見える?今までは違ったのか?」

「、、、うん。違った。誰かの『めめ』が見える時はあったよ。でもね、いきなりいっぱいの人『めめ』がって事はなかったの。」


丈さんはびっくりしたような、困ったような顔をして僕を見てる。


「でも今は目を見てお話すると、みんなの目からいろんなものが浮き出してきて、、、。僕に押し寄せてくるって言うか。クラスの人が倍になったみたいに感じるって言うか、、、。」

「人が倍に見えるか、、、。なるほどな。」

「丈ちゃん。僕の言ってることわかる?」

「丈ちゃんには『めめ』は見えないけど、颯の言いたい事はわかった。颯、怖いのか?」

「うん。僕、どうしちゃったんだろう、、、なんで変わっちゃったんだろう、、、。」


丈さんはしばらく考えて、


「颯だけじゃなくて、みんなが変わったんじゃないか。」

「みんなが変わった?」

「ああ。今までの颯の『めめ』って、特別なことが起こった時。なんて言うか、びっくりしたり、ドキドキするような事があった時の事が見えてただろう。」

「びっくり?」


丈さんに言われてもよく分からなかった。


「おばあちゃまの時も、かあさまの時計の時も。強く何かがあった時。記憶に残る、、、つまり、その人がよく覚えている事が見えていた。」

「そうかも、、、」

「颯の周りの子達もだんだんと成長しいてきて覚えてる事が増えてきた。颯もみる力がついてきた。だから沢山、一度に『めめ』見え始めてのかも。」

「、、、」


丈さんは、僕を膝の上に乗せて抱きしめてくれた。大好きな丈さんの膝の上。安心したからもっと話したんだ。


「目を見た子の朝ごはんとか、お母様の顔とか、ゲームして怒られてる事とか、浮いて出てくるの。近くにいる子みんな次々に。どんどん浮いて出てくるから今の事なのか、『めめ』事なのか分かんなくなっちゃう。」

「なるほど、、、。そっか、、それはめんどくさいな。」

「ね、めんどくさいでしょ。」

「ああ、めんどくさい。」


僕と丈さんは、めんどくさいを言い合いながら大笑いしたんだ。

なんだか、めちゃめちゃスッキリしたよ。

丈さんが笑いながら


「颯。それ、楽しめないのか?」

「楽しむ?」

「そうだ、楽しむだ。この子の朝ごはんいつも同じだな〜とか、お母様すっぴんだと可愛くないな〜とか、この子ゲームばっかりしているのにへたっぴだし、いっつも怒られてるな〜とかさ。」

「へたっぴ?ははは。へ〜。うん、なんか おもしろいかも。」


丈さんと僕は、へたっぴ、へたっぴって言いながらまたまた大笑い。


「だろ。楽しんじゃえば良いんだよ。でも颯。もしも、おもしろく無いものが見えたら丈ちゃんに教えてくれ。必ず颯を助けに行くぞ。」

「うん。わかった。」

「それから、颯が、嫌なものは引き受けなくて良い。」

「良いの?」

「ああ、良い。大体、『長』の付くもんなんてやりたい奴だらけだ。ほっとけばやりたい子がやるさ。」

「そうだね、ほっとくよ。」


ほっとく、ほっとくって僕と丈さんが大笑いしてると、母さんがやって来て、誰のすっぴんが可愛く無いのよって言うから、僕と丈さんはもっと笑っちゃった。


ただ、この先僕はある事件をきっかけに色付きのメガネをかけるようになる。

世界には見たく無いものが溢れているからね。




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