第2話蘭子 起業する

母さんは、大学三年の時に友達のデキ婚の結婚式をプロデュースしたことがきっかけで今の仕事を立ち上げた。


クラスメイトの桐生きりゅう麗香れいかさんは、代々和食器の製造を手掛ける大きな窯元であり、大きな会社を経営して家の一人娘。いわゆる源氏だ。

京都や赤坂辺りの名のある料亭のほとんどが麗香さんの家の和食器を使っている。料亭には政治家も経済界の重鎮たちも通い詰める。

和食器と言っても政財界に名の知れている家柄の麗香さんなんだ。


 一人娘の麗香さんのご両親は平家からお婿さんを迎えるつもりで麗香さんに平家の彼ができたことを喜んでいたそうだ。単純な親。

ただ、その彼、たくみさんはスポーツ特待。

プロゴルファーを目指していて、在学中にもプロになると言われるほどの逸材。もう世界ツアーにアマチュアとして参加できている。

しかし、ご両親の思惑とは別枠の平家。当然大反対。

反対されるほど麗香さんの気持ちは燃え上がり、別れるもんかとデキ婚に走ったわけ。単純な親の単純な娘。


 ご両親の怒りは頂点だったそうだけど、他人の幸せに全く興味の無い僕の母、鏑木坂 蘭子が何故だかさっさと二人の結婚式を用意して世間に二人を認めさせた。


 ーきっと暇を持て余していたんだろうな。ー


もちろん結婚式には、麗香さんの両親も出席させたさ。


「麗香、結婚式は安定期に入って尚且つ体型があまり変わらない、そしてジャパンツアーがある三ヶ月後。

式場は私がいつも使っているホテルのガーデンレストランを押さえたわ。学生の二人の式だから、百人も招待すればいいわね。

麗香は、お父様の和食器のお皿のシリーズの中から『辻が華』と『水蓮』を合わせて五十用意して。残りの五十は私が手配する。

巧は、海外からツアーに参加しているゴルファー仲間で式に出てくれる人をピックアップ。」


 母は招待客の中に、母の親戚で文部科学大臣をしている鏑木坂吉英かぶらぎざかよしひでおじさんを呼んだんだ。これで麗香さんのご両親も出席しない訳にはいかない。


 ー極めて単純で効果的なやり方だね。ー


 二人の結婚式はフランス料理で進められ、メインディッシュは麗香さんの家の代表的なお皿。一枚五万円ほどの『辻が華』と『水蓮』でお出ししたそうだ。

『辻が華』と『水蓮』は作りあげるのに相当の手間と時間がかかり、なかなか手に入らない。家元の麗香さんだって五十枚揃えるのは大変だろうけど、それを簡単に五十枚用意した母さん。

学生の分ざいで母さんは一体どんな人脈を持っていたんだ。


「和食器の家がフランス料理など」


って怒っていたけど、メインディッシュが自分の和食器に乗ってきた事でご両親は度肝を抜かれたそうだよ。

いきなり百枚の『辻ヶ華』『水蓮』。

揃えるのが大変なのは承知しているだろうしね。

おまけに大好評。いいお皿だから当然なんだけどさ。

外国のプロゴルファー達もその美しさに魅了されぜひ購入したいと言い出した。


 ーまさに母、蘭子の思惑通り。ー


巧さんがお店をインスタで紹介して早速世界に向けて発信。式場からも


「和食器でフランス料理をお出しすれば、外国の方も、政財界の方にも今以上のサービスを提供できます。今後もぜひお付き合いを。」


ーフランス料理を乗せるに和食器は扱いにくいって渋ってたくせに。ー


世界とホテル。麗香さんのお父様の会社は一気に仕事の幅が広がった訳さ。

 麗香さんのご両親はこの結婚式を通して、スポーツ平家の彼をこんなふうに使えるのかと二人を認めたそうだよ。

もちろんこの結末になるように想定して全ての仕掛けをしたのは僕の母、鏑木坂 蘭子さ。

麗香さんのご両親も蘭子の仕掛けとわかっていて母さんに感謝しきりだったし、ホテル側も


「蘭子様にホテルの格をさらに上げていただきました。」


と母さんのゴリ押し満載の結婚式に最終的には感謝していたそうだよ。


 わがまま蘭子はこれに味をしめる、、、いやいや手応えを感じて今の会社を立ち上げた。

社交的でかなり強引な蘭子に、振り回されるように会社はどんどん軌道に乗っていった。

大学卒業と同時に豪邸の実家を出てタワマンに住み、高級外車を乗り回して思いどりに人生の主役を突き進んでいったんだ。


旦那も子供もいらない、自分が主役の人生を突き進む蘭子。


だが数年後、僕を出産する。

僕の数奇な人生が始まるって訳さ

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