15時間目 脅迫文が届いた放課後

「は? 脅迫……ですか?」

「えぇ。『明日、居住区の魔女を襲撃する』だそうよ」


 朝、学校に登校してきてすぐに大宮先生から報告されたのは面倒くさい事案。彼女のその言葉に、俺はつい胡乱気うろんげな表情をしてしまう。


「はぁ……ですか?」

「早合点はダメよ天野原先生。今回はおふざけじゃ無い、真面目な案件――いつも来るような簡単に逆探知できる経由を使ってなかったわ」

「……慣れてますね」


 えぇ、と真剣な顔をしながら頷く大宮先生。俺は気を引き締める、白亜の一件があったのだからそれ関連か。


「狙いは白亜ですか」

「警察と私たちは関連性は十分にあるという見解よ。だから込み入った話を当事者であるあなたとするために、朝一にこうして話しているわけ」

「そうですか……」


 俺は机に自分のカバンを置きながら考え込む。今のご時世、冗談まがいの脅迫電話やメールが頻繁に来ているもんだからすっかり気を抜いていた。

 中間試験前ということもあり生徒たちの精神は不安定になりやすい、さらに白亜が狙われているなんて言えば……最悪白亜自身が暴走しかねない。


 かといって付きっきりで護衛なんてことも出来ない。狙いは白亜だと予想を付けているとはいえ、居住区には他の魔女もいる。万が一予想が外れていた場合のことを考えると白亜一人にリソースを割くわけにもいかず……そもそも先生が魔女全員に付けるほど数がいない。


「どうしますかねこれ?」

「居住区で見張り、でしょうね。居住区に関してはプライバシーの関係上、監視カメラの数は少ないし」

「今日は徹夜ですか……」

「気を引き締めなさい、今一番襲撃を受ける可能性があるのはあなたのクラスの生徒よ」


 大宮先生の言葉を聞きながら、俺はカバンから拳銃を取り出す。鎮圧用の弾が込められているのを確認していると学年主任から冷徹な声が聞こえた。


「私の責任で、実弾使用を許可します。脅威になりそうなら情報を聞き出すより殲滅を優先しなさい」

「……了解いたしました」

「ただの手の込んだ悪戯だと願うばかりね。もし本当なら――」


 ――迷わず殺しなさい。職員室の先生たちも大宮先生の言葉が聞こえたのか、ピリッと空気が張り詰める。剣呑な朝の職員室は、重々しい空気になった。


 それに気が付いた大宮先生は、周りを見渡しながらあきれ顔でため息を吐く。


「今からそんなにピリピリしてどうするの、大神田学園にいる限り手出しは出来ない。そんな怖い顔していたら子供たちに怖がられちゃうでしょ?」

「大宮先生はデフォルトで怖がられてぐふぉお!」

「――なにか。言ったかしら天野原先生?」

「な……なにも、ありません……っ」


 軽口を挟んだらみぞおちに拳をプレゼントされた……ご丁寧に捻りも加えられて殺傷力マシマシの一撃。俺、放課後見回りする前に死ぬんじゃない?

 俺の冗談で空気が弛緩したのかいつもの雰囲気に戻る職員室。俺も殴られたところを必死に擦って痛みを軽減しつつ今日の授業の準備をする。


 あの大宮先生……痛すぎるんですけど。俺は非難の目を向けてみるが、大宮先生はどこ吹く風でシュガースティックを両手に持っては自身の口に流し込んでいるのだった。


 放課後。ホームルームが終わり教室からでた俺は、意識を切り替える。職員室に戻ると、先に戻っていた先生たちも一様に真剣な表情をしていた。


「来たわね天野原先生」

「はい。行きましょうか」

「表向きは『羽目を外している生徒がいないか放課後の見回り』となっているわ、私は今回もオペレーター……こっそり現地に行こうかしら」

「大宮先生が来たら俺たち1年担任の連絡が滞るので止めてください」


 連絡ぐらい現場でするわよ?という大宮先生を止めて俺は居住区に向かう。生徒魔女たちの精神状態を不安定にさせてはいけないので、今回も武器は警棒と拳銃といったカバンに隠しやすいもの。


 この前白亜と降りた駅から1駅過ぎた、居住区の中にある駅に降りるとそこには既に何人かの先生がいた。


「来たか、天野原」

「はい。俺は先日襲撃を受けた商業区近くを回ってみます、先生たちは他を」

「わかった、工業区近くは入り組んでて『見回り』しづらいから人手が欲しい」

「では私が」


 素早く居住区のエリアを現地の先生と分割し、耳にインカムを付けると丁度連絡が入ってくる。


『こちら職員室、脅迫文を送って来たパソコンを情報処理チームが探してたけど……商業区にあるネカフェから海外のパソコンをいくつも経由して発信されていたことが分かったわ』

「……ネカフェの使用客は?」

『警察が店に確認したところ、電話番号も保険証も偽造。小汚い格好で目を合わせなかったから浮浪者だと思って顔をよく見ていなかったらしい』

「手慣れてますね」


 ええ、これで冗談ならたちが悪いわね――インカム越しに怒気を含んだ大宮先生の声が聞こえる。怖いっす先生……


「商業区の監視カメラは?」

『例の一件で案の定壊れてた。こうなりゃ焔の魔女の一件も無関係とは言えないわねー、本人は付き合ってた彼氏にいきなり振られたって言ってたけど』

「知り合った経緯は」

『振られた直後にそれ聞き出すとか人としてダメでしょ……』


 つまり容姿も年齢も分からずと。もし今回の事件を引き起こすためにうちの生徒の心を弄んだとなれば――相応の報いは受けてもらわないとな。

 魔女とはいえ思春期の女の子だ、つまらん襲撃事件のために人ひとりにトラウマを植え付けて……大人同士で『話し合い』が必要なようだ。


―――――――――――――――――――

【あとがき】

 ここまでお読みいただきありがとうございました!

 まさかカクヨムの公式レビューが付くとは思わず……みなさんが読みに来ていただいているのに更新していないのは流石に駄目だ!と思い、急遽更新いたしました。


 現在、別作品の書籍化作業により毎日更新が難しい状況ではありますが暇を見つけて更新していきたいと思います。

 週に一回、日曜日に少なくとも更新したいとは思っていますので気長にお待ちいただけると幸いです!

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