14時間目 水面下で動く事態と変わらない日常
桃と亜紀の家庭訪問が終わり、残るは3人……となったところで休日が終わってしまい、今日は出勤。
面倒くさいタスクはつい後回しにしてしまうのだが、やはり次の週の休日を思うと時間が経たないものかとつい願ってしまう。
「はぁ……」
「朝からため息とは随分とお疲れなのね。もしかして、寮案内の説明上手くいかなかったのかしら?」
机に自分の鞄を置いて肩を落としている俺を見て、コンビニで買って来たスイーツを食べるために、コーヒーを入れて自分の席に戻ってきた大宮先生が自分の鞄からシュガースティックをこちらに差し出してくる。
「いえ、大宮先生家はともかく亜紀の家庭は賛成をいただきましたが……残っている人のご家族を納得させるビジョンが見えず、今度の休日どうしようというため息です」
「志都美さんのご家庭のために東奔西走していたのは知っていたわ。生徒に寄りそう真摯な姿勢を見せて交渉を続けなさい」
「……頑張ります。あと大宮先生、シュガースティックはコーヒーに入れるものであって直で食べるものじゃないです」
桃に怒られないためにも没収しときますね、と差し出されたシュガースティックをいただくついでに俺は大宮先生の机に転がっていた大量のシュガースティックを回収していく。
『あぁ! せめて10……いえ8本は残してちょうだい!』と情けなく嘆く大宮先生を他所に、自分の机に計30本のシュガースティックを収納した。
「うぅ……半分はコーヒーに入れて半分は放課後の仕事用に残したかったのにぃ……」
「そんな恨めしい顔をこちらに向けても返しませんよ。シュガースティック入ってる袋1つまるごと一日で消費するとか身体に悪すぎます」
「あら、これでもスタイルには気を付けてるわよ?」
椅子の上で足を組み替えて挑戦的に微笑む大宮先生。まあ高校生の子供を持つ母親にしては見た目が若々しすぎるのは同意する、いつでも現場に復帰できるよう身体を絞っているからかタイトスカートから伸びる長い足はすらっと引き締まっていた。
しかし大宮先生……挑戦的に微笑まないでください、色気よりも先に『殺される』という感覚が全身を駆け巡りますので。
俺は乾いた笑いを浮かべながら、大宮先生に注意する。
「肥満よりも糖尿病のリスクですよ、今の桃を残して死ぬ気ですか?」
「そんなわけないじゃない。ただ糖分を入れると頭が回りやすいから良い解決方法を出しやすいの、高野原先生……だからぁ、ね?」
「ね? じゃないですよ……」
鞄からパソコンを取り出しながら俺が大宮先生の砂糖狂いに
一瞬だったと思うが、大宮先生はその一瞬を逃さない。彼女はニヤリと笑うと俺の肩を優しく叩いてうんうんと頷いた。
「高野原先生も大変よねぇ、自分も納得しきれていないものを説得しなきゃいけない……私も考えるわよ~? でもー、糖分が無いとー頭が回らなくて良いアイデアが思いつかないかもしれないわねー」
「くっ……ズルいですよ大宮先生」
「ほれっ、ほれほれっ」
手をちょいちょい動かしている大宮先生を見て、俺は悔しがりながら机の引き出しからさっき収納したばかりの30本のシュガースティックを取り出す。ホント大人ってのはズルい……っ!
俺は項垂れながら大宮先生の手に30本のシュガースティックを乗せ、対価として残り三人の家庭を攻略するために朝のホームルームまでの間話し合いをするのだった。
「あの……シュガースティック口に直接流し込むの止めません?」
「コーヒーに入れるひと手間が無駄なのよ。そもそもコーヒーにも入れちゃってるし」
「大宮先生の甘党加減は相当ですね……」
【一方そのころ、某所にて】
「ひっ……ひひひっ、魔……魔女は、まだか? 魔女魔女魔女魔女魔女おおおおおぉ!!」
「っち、うるせえよドクター。ターゲット捕獲の計画を立てているところなんだよ静かにしろ」
「うっ、うううううるさいっ! お前らが失敗したから計画に大幅な遅れが、遅れがぁ……っ! あああぁ! 人類のおおきな損失だ、損失なんだあああああ!!!」
ヒステリックに叫ぶ白衣を着た男を見て、イライラと貧乏ゆすりをしている不精髭を生やした防弾ベストを着ている男。
静かにしろともう一度ドクターと呼ばれた男に言うが、相も変わらずうるさくしている彼に腰に付けていた拳銃に手が伸びる。
「待て待てリーダー、金は貰ってるんだから殺しは無しだ」
「ッチ……何もしねぇやつが『早くしろ』とせっつくことほどイラつくことはねぇ」
「さっさと依頼を解決してあいつから離れようぜ? 気が狂っちまいそうだ」
同じく防弾ベストを着ている二人が彼を止めた。リーダーと呼ばれた男が頭をガリガリ掻きながら、目の前の地図に視線を落とす。
「商業区の復旧が進んでいる、このままだと監視カメラが再度設置され誘拐自体が困難だ。早期に決着をつける必要がある」
「でもよぉ、『先生』のイレギュラーがあるぜ?」
「……手頃な魔女を暴走させて、その対応中に攫う?」
一人の男がそう提案すると、『ナイスアイデア!』と指パッチンしながら明るい顔をするもう一人の男。しかし、リーダーの顔は晴れない。
「あれは攫う準備段階でやったことであって、攫う時にすればターゲットの行動が変わっちまう。学校に匿われたとしたら……大量の『先生』と戦う羽目になるぞ」
「うっ……一人でも相当厄介だったってのに」
「ならどうする?巷じゃあ学生寮が建設されるらしいから、それが出来たらいよいよ手が出せなくなるぞ」
リーダーが『そうだな……』と不精髭を撫でながら思考を巡らす。そして数瞬たったあと、一言ぼそりと呟いた。
「そうか、魔女の精神が不安定にしてはいけないんだよな……」
「ん? 何か思いついたのかリーダー」
「あぁ、大神田学園に脅迫電話を入れる」
場所は……居住区のほうがリアリティが高いか、とぶつぶつ計画を立てていくリーダーに目を輝かせながら作戦立案を待つ二人。
そして――
「これなら大丈夫だろう……いいかお前ら。作戦を伝える」
「おおっ、流石俺らのリーダー!」
「ひひっ! 魔女、魔女おおお!」
水面下で、事態は動き出す。
―――――――――――――――――――
【後書き】
いつもお読みいただきありがとうございます。
誠に勝手ながら、明日からの土日の二日間を更新のストック作りに専念したいのでお休みさせていただいてもよろしいでしょうか!?
次の更新は来週の月曜の7時です。もし許していただけるのなら、平日は二話ずつ更新しつつ土日はストック作りというサイクルをしたいのですが……良いよと言う方はコメントいただけると幸いです。
では、失礼します。
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