第12話 ダンジョン調査に赴くようです。(withトラブル)



「……さて。鷲見すみさんに頼まれたこの調査依頼、鬼が出るか蛇が出るか。……一体起こってるのかな?」



 そう独りごちて久遠は歩を進めていく。


 鷲見すみさんが言うには、ダンジョンでの異常は日本全国で発生しているとの事。


 探索者協会支部ギルドで話していた際に聞いた事だけど、今回僕が調査する【零の迷宮底無しダンジョン】が一番最初に異常が確認されたダンジョンらしい。

 一番最初に異常が確認されたという事は、かなりの間放置されていたはず。いや、流石に監視はしていただろうけど、ダンジョン内の調査は行われていなかっただろう。

 という事はつまり、この【零の迷宮底無しダンジョン】が日本全国で発生している『ダンジョンの魔力異常』の中でもトップクラスに危険な魔境になっている可能性もある。

 

 気を引き締めていこう。


 ギギィッ、という音を鳴らして【迷宮への扉ダンジョンズゲート】が開かれていく。


 そして、久遠がダンジョン内に足を一歩踏み入れた瞬間。


 ブワァッ!!


 まるで暴風域の中に裸で投げ出されたような、暴力的なまでの濃密な魔力が彼を襲った。



「……っ!なるほど、どうやら僕の懸念は当たってたみたいだね」



 普段とは明らかに違う魔力量。体感からして、まだ一階層だと言うのに余裕でAランクオーバーのモンスターが出てくるだろう。


 ……一体、どれ程のものなのか。そう思って僕は最上位技能エクストラスキルの『情報開示』を発動させる。

 このスキルは、自分の中にある判断基準に基づいて対象の情報を開示してくれる技能スキルだ。この技能なら、ある程度の危険度を計ることは出来る……と思いたい。



─────────────────────



 名称:【零の迷宮】

 (神来社からいと 久遠の価値基準に基づき名称設定。)



 魔力量:S-。

 (神来社 久遠の所持する情報に基づき、Sランク迷宮相当と断定。)

 (神来社 久遠の所持する情報に基づき、日本国に存在するSランク迷宮の中でも

上位40〜45%に位置する迷宮と断定。)



 詳細:日本国に一番最初に発生した迷宮。

 発生当時から最下層を観測する事が出来ず、その他の情報から階層が増加し続ける性質があると判断された。

 その特徴から、民衆の間では【底無しダンジョン】と呼ばれている。

 (神来社 久遠の所持する情報に基づき詳細設定。)


─────────────────────



 ……この魔力量、Sランク迷宮ダンジョンに匹敵するレベルだ。

 それも下位レベルの魔力量ではなく、上位40%に位置するという事は、Sランク迷宮ダンジョンの中でも"中の上"くらいに配置するほどの魔力量だ。


 もし仮に今このダンジョンにSランク以下の探索者が潜ろうものなら、一瞬にして帰らぬ人となってしまう。

 それほどまでの魔力量。

 これは明らかに異常事態だ。もしかしなくとも、『迷宮災害ダンジョンカラミティ』の発生を疑った方がいいのかもしれない。


 一体、この迷宮ダンジョンで何が起こっているんだろう……?


 僕はこの異常事態に対する考察を頭の中で進めながら、ダンジョンの奥へと足を進める。


 万が一もあるので最大限に警戒しながら歩を進めていると、早速『𨷻入者イレギュラー』と遭遇した。


 今回の異常事態のせいでダンジョン全てに異常が発生していると考えられるため、これから出てくるであろうモンスター達は全て『𨷻入者イレギュラー』という判定になる。


 異常な魔力量のせいでかなりモンスターが強化されている為、普通の『𨷻入者イレギュラー』よりも強い個体となっている筈だ。

 それに加えて、今回のような事態で強化されたモンスター達は、普段は使わないような魔法や技能スキルを使い、戦闘スタイルも変化する。



「キシャァァァァァッッッ!!!」

 


「『吸血蟷螂ブラッディマンティス』か、戦うのはかなり久しぶりだ、なっ!」



 言葉を言い終わると同時に、目の前に居る 吸血蟷螂ブラッディマンティス へと切りかかる。

 ダンジョンに存在するカマキリだからなのか、その体長は3メートル近くもある。その上、両手の鎌は恐ろしく鋭く、鋼鉄すらも容易く切り裂く。それが『吸血蟷螂ブラッディマンティス』という危険極まりないモンスターの特徴だ。


 普段はA-ランク相当の『吸血蟷螂ブラッディマンティス』だけど、このダンジョンの魔力量から考えてA+相当になっていてもおかしくない。


 ……改めて考えても、今回の異常事態がどれだけ危険なのかが分かる。

 僕が今いる階層は、普段はG〜Eランクのモンスターが出てくる階層だ。それがいきなりA+なんて危険にも程がある。


 僕が考え事をしている間にも、吸血蟷螂ブラッディマンティス はとてつもない速度で斬撃を浴びせてくる。



「キシャァッ!!!」


「おっ……と。危ないなぁ、ちょっとは加減して欲しいよ。」



 吸血蟷螂 が斬り掛かってくるのに合わせて僕も太刀で迎え討つ。

 そうして攻撃を防ぐ度に、辺りには鋼鉄と鋼鉄を打ち合わせたような甲高い金属音が連続で響き渡る。


 ……うん。強化された 吸血蟷螂 がどれぐらいなのかはある程度把握出来たし、このまま斬り合っていても意味が無いのでさっさと終わらせることにしようかな。


 吸血蟷螂 は、カマキリという明らかな昆虫類だ。故に、地上の昆虫達と同じものが弱点であると判明している。

 昆虫の弱点、それは温度だ。昆虫類はほとんどが変温動物であるために急激な温度の変化に耐えられない。



「まぁそういう訳で、先に行かせて貰うよ。

燐火蒼焔ヴァトラ』」



 僕が技能スキルを発動すれば、瞬く間に蒼白い焔が身体から立ち上る。髪も蒼炎へと変化して、轟々と燃え盛っている。


 配信の時にも使った、僕が持つ炎熱系技能スキルの中でもTOP3には入る程の威力を持つ『燐火蒼焔ヴァトラ』。

 

 正直、恐らくはA+ランクになっている 吸血蟷螂ブラッディマンティス 相手だと、普通の炎熱系技能はほとんど効かないだろう。

 その点『燐火蒼焔』は、僕が普段潜っている階層の"下の下の更に下"位までのモンスター相手なら致命傷を与えられるくらいの威力があるので、確実に 吸血蟷螂 は死に至るだろう。


 ……過剰火力と言われたら反論はできない。


 無駄な事を考えるのはここまでにして、さっさと目の前の敵を倒すために構えを取る。


 愛用の太刀『コガラシ』を、左手を前に突き出し親指の付け根付近に刀身を乗せ、腰を深く落として右手で構える。

 身体に立ち上る蒼焔を刀身へと這わせ、圧縮させる。

 蒼白い焔を纏って燃え盛っていた刀身が、圧縮されたことによって蒼白く光るだけとなる。

 そこに炎は一切存在しない。全てが刀身の中へと込められている。


 『吸血蟷螂ブラッディマンティス』が僕に斬り掛かろうと鎌を振り上げた。



「『灰神樂ハイカグラ』」



 そう呟いた瞬間、ほむらの爆発的な加速力を利用して 吸血蟷螂 に突撃し、構えた右手を亜音速で振るって切り刻む。

 まるで神楽を踊っているかのように 吸血蟷螂 の周りを飛び回りながら、その身体に次々と死への近道となる斬撃を浴びせ続ける。



「ギァァァァァッッッッ!!!!」



 数秒後には、僕に粉微塵に切り裂かれ灰となった 吸血蟷螂ブラッディマンティスが砂のようになって地面に落ちていた。

 そして少し経てば、奥から吹いてきた風によってその灰は何処かへと運ばれて行った。

 

 ……よし。

 『燐火蒼焔ヴァトラ』を使って 吸血蟷螂 と戦った時のタイムとほとんど差は無い。

 つまり、たとえ 『𨷻入者イレギュラー』となって強化された 吸血蟷螂 でも、普段と同じように倒せるという事だ。


 他のモンスターがどうなっているかは分からないけど、少なくとも 吸血蟷螂ブラッディマンティス と戦う時はあまり警戒しなくても良さそうだ。普段と同じ感じで行こう。

 警戒し過ぎると疲れちゃうしね。


 そうして僕が戦闘後の分析をしていると、なんと鷲見すみさんから電話がかかって来た。



「……えーっと。もしもし?鷲見さん、どうかしたんですか?」


『ああっ!出てくれた!すまない久遠くん!ちょっとシャレにならない事態が発生してね!』


「シャレにならない事態?」


『一時間ほど前に私達もダンジョンの調査を始めようとしたんだが、ちょうどその時一般人や配信者の者達に見られてしまってね……!立ち入り禁止にはしておいたんだが……

様々な憶測がSNSで拡散されているんだけど、それを見た民衆からの批判が殺到しているんだ!』


「えぇ……、何やってるんですか……?」


『本当にすまない!ミスしたこちらから頼むのは失礼だとわかっているが、民衆を鎮めるためにも実際に解決する所を見せた方が早くてね……、君にはダンジョン配信をしながら調査して欲しいんだ……!本当にすまない!』


「マジですかぁ…………」



 そうは言ったものの、おそらく今回は鷲見すみさんは被害者だろう。あの人は万全を期して事を進めるタイプの人だから失敗するとは考えづらい。

 大方、探索者協会支部長ギルドマスターが出張ってまでダンジョンに来た事が珍しくて、一般の人達が無理にでも敷地内に押し入ったんだろう。


 そうなると……、これは鷲見さんの言う通り配信した方が良さそう。


 うーん、でも今配信用のドローン持ってないしなぁ………………、いや、ドローンを僕の手元に転移させればいけるかな?


 そう考えた僕はとある魔法を行使する。


『……座標確認。

転移対象と転移元の接続完了。

空間魔法『転移』』


 ……よし。いけた。

 無事に僕の手元に家に置いてあったカメラドローンを転移させる事が出来た。

 座標がちゃんと合っているか心配だったけど、何とか合っていたようで一安心。


 という訳で、鷲見すみさんの為にも手早く配信の準備を終わらせて配信を開始し、見に来てくれた視聴者の皆へ挨拶する。



「え〜、どうもこんにちは。ダンジョン探索者の 神来社からいと 久遠 です。今回の配信は、今日本を騒がせている迷宮ダンジョンの異常事態を調査する依頼の様子を配信していこうかと思います」



:うおおおおお!!!

:ゲリラ配信きちゃ!!!!

:久遠のゲリラライブktkrキタコレ!!!!

:きたぁぁぁぁ!!

:え、ダンジョンの調査依頼なんてあんの?

:あるにはあるらしい。滅多にないみたいだけど。

:やはり、俺の久遠が最強すぎたからか……。ふっ、罪深き物よ……

:おめぇのじゃないから定期。とっと目を覚ませ厨二病



 僕が配信を開始すれば瞬く間に人が集まっていく。配信開始から一分ほどしか経っていないのに、もう既に同接は十万を越えている。

 

 この【零の迷宮底無しダンジョン】に入ったのが大体朝の十時。それから四十五分程しか経っていないから、まだまだお昼と言うには微妙な時間帯だ。

 にも関わらずここまで人が集まるということは結構驚いた。


 配信者の人達はこれぐらいが普通なのかな……?


 やはり僕はまだまだ配信関係に疎い。

 せめて他の配信者の人達と同じくらいの知識を付けないと。今度真白に教えてもらった方が良さそうかな。



「それじゃあ無駄話もここまでにして。探索者協会支部長ギルドマスターから依頼された身だし、もっと奥まで行かないと………『Ggyaaaaaa!!!』……っ!どうやら、お喋りしてる暇は無さそうだね」



 僕が配信を見てくれている視聴者の人達と会話していると、ダンジョンの奥、感覚からして200メートル程離れたところからモンスターのものと思われる咆哮が聞こえてきた。

 それも、何体かの咆哮が重なったような音だから複数体の群れだろう。



:なんかめっちゃ叫び声聞こえるけど

:凄い大きい声だなぁ……(震え声)

:まだ姿見えてないのにこんな大きいのか……

:久遠が今いるダンジョンって【底無しダンジョン零の迷宮】なんだよな?そんな大きい叫び声出す奴居たか?

:どんだけやばくなってんだ?



 僕がその場で『コガラシ』を構えて待ち構えていると、奥の方から ズシン、ズシン と巨大な質量を伴った足音が聞こえてきた。


 そうして奥から現れたのは『単眼巨人サイクロプス』の群れ。その数は約十体。大きな一つ目と棍棒を持ち、その巨体から繰り出される攻撃は破壊力抜群だ。

 ランクはA+ランクに指定されていて、このダンジョンの魔力量から考えるに、S-ランクくらいの強さになっているだろう。


 普段ならば『単眼巨人サイクロプス』が群れで現れるというのは滅多に無い。仮に群れで現れたとしても二〜三体程だ。

 それが十体程の群れで現れるのは、やはり今回の"ダンジョン異常事態"が関係しているんだろう。



『Gyaaaaaaaaa!!!』


「そんなに叫ばなくても聞こえるよ。それよりも、先に進まないといけないからさっさと退いてもらう、よっ!」



 待ち構えた体勢のまま 単眼巨人サイクロプス に突撃し、再び『燐火蒼焔ヴァトラ』を発動させる。


 そのまま 単眼巨人 達の群れの中心まで来ると、先程と同じように『灰神樂ハイカグラ』を繰り出す。

 と言っても、吸血蟷螂ブラッディマンティス とは違って相手が大きいから技の様子は少し異なるけれど。



「『灰神樂ハイカグラ、演舞』」



 単眼巨人サイクロプス の群れの中心から跳び上がり、壁を天井を 単眼巨人 すらも足場にし、三次元的に移動しながら舞を踊るように斬撃を浴びせる。

 斬られた箇所からは激しく燃え盛る蒼炎が吹き出し、その身を焼き焦がしていく。炎に焼かれた部分は瞬時に灰と化し、使い物にならなくなる。



『Guoooooo!!!』


「───シッ!」



 『灰神樂』の利点は、辺りに余計な炎を撒き散らさず、切った部位だけ燃えるため周りのことを気にしなくて良い所だ。

 刀身には超高熱のエネルギーが込められているけど、刀部で触れなければ燃えることもない。切った瞬間には死が確定するので、敵を素早く無力化出来る。


 十数秒もすれば、辺りには燃え尽きて灰となった 単眼巨人サイクロプス と、彼らが手にしていた棍棒だけが散乱していた。



「……ふぅ。結局、十五体くらい居たのかな?やっぱり、なるべく早めに原因を突き止めないと駄目そうだね」



:???????

:あれ、俺の目がおかしいのか?サイクロプスが秒殺されたように見えるんだが……?

:俺はサイクロプスが灰にされたように見えるぞ……?

:な に こ れ

:久遠、お前人間やめてるな?

:これが高校生とか流石にワロエナイ

:【悲報】Cランク探索者ワイ(25)もうまともな職に就いたほうが良いかと思案する

:探索者ニキには同情を禁じえない



「まぁこれくらいのレベルなら片手間で行けるね。第一階層からこのレベルが出て来るのはどうかと思うけど」



 『単眼巨人サイクロプス』も倒したことだし、早くこの異常事態を止める為にも更に奥へと進まないと。

 鷲見すみさんが怒れる民衆を宥めている間に、僕はなるべく早めに世間へと"異常事態"が解決した事を示さなければいけないし。


 ……でもなぁ、このダンジョンに入った時から、どうにも僕の第六感が警鐘を鳴らし続けている。

 第一階層でA〜S-ランク相当のモンスターが出てくるという事は……覚悟しておいた方がいいのかもしれない。

 もしかしたら今回の異常事態、かもしれない。


 こうしている間にも、感じる魔力の質はどんどんと殺気じみたものになっていっているし……


 急ごう。取り返しのつかなくなる前に。



─────────────────────



 はい、どうも作者です!


 前回に引き続き、またまた今話も長くなってしまいました。

 『別に気にしない』、『面白かった』と思われた方は引き続き応援してくださると嬉しいです!加えて、今話も楽しんでいただけたなら幸いです!


 ではまた、次の更新で。


 以上、作者からでした!




 

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