第11話 何やら事件が起きてるようです。
すみません。今回の話、かなり長くなってしまいました。
─────────────────────
僕が初配信を終えてから1週間と少し後。僕が通う高校の教室にて、読書をしていた時。
突然、海斗が話しかけて来た。
「なぁ久遠、お前これ知ってるか?」
「……海斗、どうかしたの?」
海斗がそう言って見せてきたスマホの画面を覗き込めば、とあるネットニュースが映っていた。
『ここ数週間、ダンジョンでの行方不明者が続出!ダンジョン省と
……なるほど。確かに最近、テレビ等でも「ダンジョンに関するニュースが多いな〜」なんて思っていたら。どうやら本当にダンジョンで何かが起きているみたいだ。
「ダンジョンでの行方不明者続出……、確かに最近テレビでもよく聞く内容だけど、それがどうかしたの?」
「ふっ、甘いぜ親友。確かに、ただの行方不明者ならそう思うだろう。だがしかし!今回の肝心なところはそこでは無いのだ!」
「というと?」
「どうやら高ランクの探索者、それこそAランクとかな。そういった人達も行方不明になっているらしい。加えて、ダンジョンでの異常な魔力量を数十秒の短い時間、観測する事が多くなってんだ。」
そういう事か。
Aランクなどの一般的に高ランク探索者と呼ばれる人達も行方不明になっているのは確かに些か違和感がある。
Aランクなどの高いランクまで上り詰めた人達が、ダンジョンから帰って来ないというのは滅多にない。
それに、ダンジョンでの異常な魔力量の観測。それはつまり、『
ダンジョンの魔力量が高まると、内部のモンスターが凶暴化したり、下の階層に居るはずのモンスターが上へと登ってくる『
でも、通常ダンジョンの魔力量が高まっているなら1ヶ月ほどその状態が続くと聞いた事がある。それが数十秒しか続かないというのはおかしい。
頭の中で情報を整理してみれば。なるほど、どうやら ただダンジョンが危険な状態にある という訳でもないらしい。
「数十秒しか現れない魔力の異常……、何かは起きてるだろうね。」
「やっぱ久遠もそう思うか。そんで、現日本最強探索者様である久遠はなんか分かったりするか?」
「変な事言わないでよ。そこら辺の探索者よりもダンジョンについて詳しい自信はあるけど、だからと言って今回みたいなのは聞いたことがないよ」
確かに、僕はダンジョンについて誰よりも詳しい自信はある。だからと言って、今回起きている事件のような事についてはさっぱりだ。
そもそも、僕はそう言う職業でもない。ただの高校生だ。それなのに、憶測で物事を言うのは違うだろう。
変に勘繰っても余計に事態をややこしくするだけだ。こういう事は、専門の人達に任せておけばいい。
「ちぇっ、久遠ならなんか知ってるかと思ったんだが……まぁいいや!」
「知ってる訳ないでしょ……?それよりも、そろそろ授業始まるよ」
「お、ほんとだ。しゃーねぇ、また後で話すか!」
そんな会話をしながら、僕と海斗は次の授業の準備を始めるのだった。
────────
──────
────
学校が終わり、放課後。
僕は
一週間程前、僕が家に帰ってきて真白と話していた時にギルドから電話がかかってきたことがあった。
その時は、面倒くさくて切っちゃったけど。
流石に電話で呼ばれたんだし顔は出しておかないと不味いだろうと思って訪れた次第。
「……君が久遠くんかい?」
「そうですね、今ネットで話題になっている久遠のことなら僕ですね」
そんな訳で、ギルドに寄って受付の人に探索者カードを見せたら
これはきっとあれだろう。なるべく僕以外には聞かせたくない話、みたいな。
ちなみに、ギルドマスターは高身長イケメン女性だ。名前は
それでいて結構よく笑う、なかなかに気さくな人だ。
ここのギルドの女性職員の何人かは
あれだ。女子校の王子様みたいな見た目。
僕からしたら、女性的な魅力を感じるよりも先にかっこいいという感情が来る。
めちゃくちゃ仕事ができる人、って感じがするのだ。というか実際仕事では超有能。
僕もこんな大人になりたいな〜と憧れた事は結構ある。
……とまぁここまで色々話したけれど、実際に
「えっと……まずはこの間の電話拒否しちゃってすみません」
「あぁ……あんまり気にしないで欲しい。
君に電話を切られた後、流石に花の高校生にあの時間に電話をかけるのは非常識かと後悔していたからね。
その歳だと友達と遊んだりすることも多いだろうしね?」
そもそもの話として、彼女の人柄がかなりの善人なので、このように僕みたいに電話を切った失礼な奴にも気を遣ってくれる。
「まぁ……はい。そうですね。電話の時は妹と居たんですけどね」
「むっ、そうなのかい。それは済まない。兄妹水入らずの時間を邪魔してしまったかな?」
「いえ、お気になさらず。」
「……そっか。君がいいなら私も気にしないことにするよ。
それで早速なんだけど、君を呼んだ理由を話してもいいかな?」
挨拶もそこそこに、
どんな話なんだろう。ギルドマスターである
僕が視線で続きを促すと、鷲見さんは話し始めた。
「久遠くんは、ここ最近で起きているダンジョンでの異常について知っているかな?」
「聞いたことあります。ダンジョンの魔力量計測の際、数十秒しか魔力の異常が確認出来ない。というやつですよね?」
「そう、それ。何故か最近、そのような事態が多発しているんだ。」
どうやら、鷲見さんの話もダンジョンでの魔力異常についての事のようだ。
ギルドマスターもこの話をするという事は、本格的に何か良くない事が起きているらしい。
仮にそうではなかったとしても、ギルドマスターがこのような話をする時点である程度大きい問題の
「数十秒しか観測されない魔力異常。私は、今回の事態をかなり重く見ている。
一つだけなら見過ごせたかもしれないけど、東京にあるほぼ全てのダンジョンで異常が確認されているから、流石に何か起きていると見るべきと思ってね。」
「えっ……と、東京にあるほぼ全てのダンジョンで、ですか?ニュースだと一つのダンジョンしか取り上げられてなかった気が……?」
「流石に
マスコミも、ダンジョンでの異常は一つの所でしか起きてないと思ってる。
ほぼ全てのダンジョンで異常が起きていると知ってるのは、各ギルドのギルドマスターくらいかな。」
「そうなんですね……」
どうやら、僕が思っていたよりもかなり事態は大きかったらしい。
実際はどうなのかまだ分からないけど、これは"最悪の事態"を想定していた方がいい。
僕がそうやって頭を巡らせていたら、
「そして……ああ、これは久遠くんなどの高ランク探索者にしか言ってないんだけど、ここ一ヶ月間ダンジョン行方不明者が急増しているんだ。
それに加えて、本来なら一年に一回ほどのペースである
「え……!?イレギュラーがそんなに発生しているんですか?」
「そうなんだ。原因は未だ突き止められていない上に、日に日にイレギュラーによって死亡する探索者や怪我をする探索者が増えているんだ。」
これは僕も予想していなかった。
普通なら、そんな事態になる前にダンジョンが魔力を放出し、イレギュラーを生み出せるような魔力は残らないはずだ。これはちゃんと日本、海外共に研究した結果だから間違いない。
そうなると、短期間───それこそ二日や三日───で魔力が異常なまでに高まり、それが『
それが果たして人為的なものなのか、そうでないのか。
深層やその更に下の階層よりも深い場所に居るモンスターが今回の事態を引き起こしている?
他にも色々と原因は考えられる。だけど、まだ不確定要素が多すぎる現状、勝手な憶測で行動するのはあまりにも危険だ。
もし深層やそれ以上のレベルのモンスターが原因なら、即座に排除しないと多くの被害が出る。それは避けたい。
だからこそ、今は慎重に動くべきだ。
そう考えた僕は、
「それで……君にはあることを頼みたい。」
「あること?」
「私も先日の君の配信を見た事があるんだ。配信で見ることが出来る部分でも、君はSランク探索者の中で上位の力を持っている。
だから君に頼みたい、ダンジョンの調査に協力してはくれないだろうか!」
なるほど、今日僕が
確かに僕は配信で見せた力だけでも十分にSランクの人達と渡り合う自信はあるし、仮にどれだけ危険な事態になっても僕以上に生き残る可能性が高い人はいないだろう。
ダンジョン内の調査、そして可能な限りの情報を持って帰る。他にもいろいろとあるけど、主な目的はこのふたつ。その点で言えば、誰よりも死亡する可能性が低い僕が、ダンジョンへの調査に
現状、僕より強い探索者は存在しないだろうし、僕にはお
何より、これで僕がめんどくさがって海斗や真白、
「分かりました。……その依頼、引き受けましょう」
「本当かい!?ありがとう!恩に着るよ!」
「……ただし、調査に赴くのは僕のみです。他の探索者の方達と合同、という事なら引き受ける事は出来ません」
「……君の要望は分かった。ただ、ギルドとしても何もしないという訳には行かない。
……君がダンジョンを調査している間、私たちは別のダンジョンの調査を行う。……これでどうかな?」
「それで構いません。ありがとうございます」
……よし。これで僕が懸念していた事は無くなった。
僕の戦闘スタイルや
それに加えて、配信で見せたものは僕が持つ力のごくごく一部だ。もしも他の探索者の目の前で使おうものなら、瞬く間にネット上で拡散されて面倒事になる。それは避けたい。
……まぁ、あとこれはただの予感でしかないけど。
…………何か、何か大きな事態が起こる。そんな気がするんだ。
恐らくだけど、僕以外に対応することが出来ない。
……警戒は、しておくべきだろうね。
「…………」
「……?久遠くん、どうかしたのかい?」
「ああ、いえ。なんでもありません。……それよりも、依頼の細かい内容について決めてしまいましょう」
「それもそうだね。さっさと決めてしまおう」
僕と
色々と他にも決めておきたい事はあったし、かなり早く済んだので、早速家に帰ることになった僕であった。
───────────
────────
─────
ギルドからの帰り道。結構遅い時間になってしまったので、近道のために路地裏を通っていたんだけど……何やら面倒事が近づいてきたようだ。
「……さっきから僕をつけてるのは誰かな?出来れば姿を見せて欲しいなぁ……」
と、先程から僕を尾けてきている七人組に向かって言ったつもりなのだが、あちらは僕に応える気は無いようだ。
……仕方ない。
そう考えた僕はとある魔術を行使するため、
「──理へ、叛逆を。『
僕がその魔術を唱えれば、瞬く間に周囲に数々の人が現れる。
その上、彼ら彼女らが持っている武具やスキルは、僕がこの魔術を発動している間は無効になっている。
まぁそれはあまり関係ない。問題は、ギルドを出た後から"正体不明の七人組"が僕の後を尾けてきているという事実。一体何が目的なんだろうか。
これでもそれなりには頭が回る方ではあるので、僕の配信を見て警戒する人達が多くいることくらいわかる。そう考えると、今回の七人組はそういう目的で送られたものなのかもしれない。
僕がそんなことを考えていると、七人組の内の一人が話しかけてきた。
「"OK、悪かった。こちらに敵意はないんだ。何せ上からの命令でね。君のことを探ってこ来いとね。"」
……一瞬、何を話してるか分からなかったけどちゃんと聞けば話す言語は英語だということが分かる。それに、発音の感じからイギリス英語では無さそうだし、そうなるとこの人達はアメリカの人達かな?
「"そこは気にしてないよ。でも、ひと声掛けた時点で出てきて欲しかったな。
それと、発音の感じからして君たちは『アメリカの探索者、もしくはFBI的な立ち位置の人達』という認識で合ってる?"」
「"よく分かったな。そうさ、俺たちは
所で、君は日本人だろう?随分と流暢なんだな?"」
「"ああ、これ?レベルが上がった影響で記憶力が強化されてるからね。さらに身体強化を掛けて記憶力高めれば大体の言語は覚えられるよ。どうやら、言語理解力も高まるらしいしね。"」
やっぱりこの謎の人達はアメリカさんからの差し金らしい。
まぁ分からなくもない。僕が配信で見せた力はほんの一部だけど、その一部の力でも大半の探索者は蹴散らせる。国の上層部の人間からしたら、国家間のパワーバランスを崩す存在。警戒して当然だろうとは思う。
「"……それで、良ければ君たちの目的を是非お聞かせ願いたい所だね。"」
「"………大方予想は着いてるだろうが、今回の目的はあくまで視察。君が、
……が、俺たちの
そう言って謎の人達は、途端に
……うん。判断から行動までが早い。少なくともAランク探索者の実力を持つ、もしくはそれと同等の力があることが分かる。
だからこそ、日本国民として、それ以前に高ランク探索者としてこのまま返す訳にも行かないね。せめて名前だけでも知りたいところ。
「"なんだ、もう帰るの?そっちだけ一方的に僕の名前を知ってるのは不公平じゃないかな?"」
「"……それもそうか。俺はジョン、
これからも関わる機会はあるだろうぜ。じゃあな
そう言って彼らは手早く準備を済ませると、まるで最初から何事も無かったかのように音もなくこの裏路地から消えた。
分かってはいたけど、恐らく国のお偉いさんも動くよね……。はぁ……めんどくさいなぁ……。
────────────
────────
─────
アメリカの探索者達と遭遇した二日後、週末に当たる日。
僕は
「……さて。
そう独りごちて久遠は歩を進めていく。
……ここから先に待ち受ける、異常事態が在るとも知らずに。
誰も知らないところで人知れず悪意は育つ。その"悪意"が人々に牙を剥くのは……案外もうすぐなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます