第7話 初配信でトラブルに遭うようです。

 前書き


 少し前までは書いてあったんですが、『これもう要らなくね?』となりましてここの前書きは消しました。


 まぁそんな事はそこら辺にぶん投げておきまして。


 以上、作者からでした!



─────────────────────





 配信を見に来てくれた視聴者たちと会話をしながらダンジョンの更に下層へと向かっていく久遠。


 久遠のことをまだよく知らない視聴者達は、流石に下へと行き過ぎではないかと久遠を心配する。



"なぁ、そろそろ引き返したほうがいいんじゃないか?"

"てかここ、さっき久遠くんが言ってたけど『底無しダンジョン』なんだろ?"

"それにさっき、45階層にいるって言ってたよな?"

"ペース的にもう50層越えるぞ……"

"やっぱ危ねぇよ"

"悪いことは言わない、引き返せ久遠"

"スキルとかはまた今度でいいから"



 視聴者達がここまで心配するのにはれっきとした理由がある。


 ダンジョンというのはモンスターの強さが何段階か上昇する節目がある。


 その節目で、上層、中層、下層…etc.と区別している訳なのだが、この上昇率、下へ行けば行くほど高くなるのだ。


 事実、中層最奥のモンスターと下層序盤のモンスターでは数倍の差がある。

 そしてもちろん、下層序盤と下層最奥でも数倍の差がある。


 簡単に言えば、下へ行けば行くほど敵は強くなる。そういうことだ。


 故に、安易に深くへと進むと命の危機に晒される。


 そしてこの『底無しダンジョン』も、ランクごとに潜れる階層とは別に、上層、中層、下層…etc.と区別されている。


 今久遠がいる場所は、ちょうど下層へと差し掛かる場所なのだ。


 そんな訳もあって視聴者達は久遠を心配しているのだが、当の本人はと言うと。


 ふんふふーん、と呑気に鼻歌を歌いながら下層へと足を進めていた久遠は、視聴者からの注意喚起や心配そうなコメントへとなんでもないように答える。



「んぇ?ああ、大丈夫だよ。安心して。普段はもっと深いところに潜るか、もっと高ランクの所に挑んでるから。ここら辺は肩慣らしにもならないよ?」



 どうやら、僕の配信に来てくれた人たちは僕のことを心配してくれているらしい。コメント欄にもそのような言葉が多く見受けられる。


 でも僕は基本B~Aランクのダンジョンに潜っているし、底無しダンジョンでも100層よりもずっと下を探索しているので、ここら辺の階層では手こずるどころか呑気に歩いていても平気だ。



"ここよりも高ランクって……、まだCランクだけどほぼBランクみたいなもんだぞ?"

"じゃあ普段はAランクのとこに潜ってんのか"

"普通に探索者として上澄みやん"

"まだ人間と言える範囲のランクじゃん"

"今気付いたんだが、高校生でAランク行ったのって久遠が初めてじゃね?"

"前言撤回、やっぱおかしいわ"

"高校生初Aランク到達者か……"

"【朗報】今話題の探索者久遠くん、史上初の高校生の内にAランクへと到達したことが判明"

"やっぱ化け物"

"Aランク到達者の平均年齢何歳よ?"

"26"

"10歳も若いじゃねぇか"

"じゃあ久遠は普段Aランクダンジョンに潜ってるってこと?"



「そうだね、普段はBとかAランクのダンジョンに潜ってるかな」



 視聴者さんの一人に聞かれたのでそう答える。


 実を言えば、もっと高ランクのダンジョンにも余裕で潜れるんだけど、そこのモンスターの素材をギルドに持っていくと騒ぎになっちゃうからね。だから仕方なくB~Aランクのダンジョンで我慢してる。



"はぇ〜"

"Aランク…Aランクかぁ……"

"すげぇ"

"俺なんてまだCなのに"

"Cも充分強いだろ"

"まぁでも努力すれば届きそう くらいのランクだからな、そう思うのもしゃあない"

"それでも並大抵の努力じゃダメなのが探索者稼業"



 今度久しぶりにこの『底無しダンジョン』の深くまで潜ってみようかな、と僕が考えていたその時。



『ギャオオオォォッッ!!!』



 少し遠くからモンスターの叫び声が聞こえた。ちょうどいい。ここまでは特異技能ユニークスキルを使わずに来たし、折角だから今から来るモンスターには特異技能ユニークスキルの餌食になって貰おうかな。



「ねぇ皆。折角向こうからやって来てくれたみたいだし、ここら辺で特異技能ユニークスキルのお披露目と行こうか。」



"ん?"

"なんか遠くから聞こえた気が"

"モンスターの叫び声じゃね?"

"まじか!"

"ついにユニークお披露目ですか!?"

"よっしゃあああ!"

"めっちゃワクワクする!"

"一体どんなスキルなんだ?"



 視聴者の皆の期待に応える為にも、僕は刀を抜きこれから来るであろう敵を待ち構える。


 そして待つこと数秒。敵の足音が段々と大きく、はっきりと聞こえるようになってきた。

 そう思ったと同時に、



「グギャァァァァォォォッッ!!!」



 モンスター───鬼人オーガが高速でこちらに向かって来ているのを視界の端に捉えた。


 その姿を見た僕は技能スキルを発動する。

 普段は態々わざわざ技能スキル名を唱えたりしないけど、今日は視聴者の皆がいるからね。技名だって知りたいだろうし。



特異技能ユニークスキル燐火蒼焔ヴァトラ】」


ゴォッ!!


 僕がそう唱えた瞬間、全身から蒼白い炎が立ち上る。炎はゆらゆらと揺れ動き、陽炎の様に輪郭がぼんやりとしている。


 僕の髪が次第に蒼炎へと変化していき、薄青い炎が舐めるように刀身を這い、次第に実体を持たない焔の刀へと変化する。


 これが僕の特異技能ユニークスキル


 蒼炎を生み出し、同化し、操ることが出来る。勿論、蒼炎なので温度は優に一万度を越えているが、その温度すらも操ることが出来るのがこの技能スキルの強みだと思う。

 そして、炎と同化する為相手に触れるだけでも燃え移り、かなりのダメージを与えることが出来る。



 地面を蹴り、鬼人オーガへと肉薄する。

 瞬く間に相手の懐へと入り込んだ僕は、その勢いのまま一閃。


ボフゥッ!!


 瞬間、鬼人オーガに斬撃を喰らわせた箇所に爆発したかのように蒼炎が立ち上り、たちまち鬼人を飲み込んでしまう。



「グがァァァぁぁ……」



 咆哮の様な叫び声を上げながらその鬼人オーガは1秒も経たずに燃え尽きた。

 後に残ったのは、ただの灰のみ。その灰も数秒もすれば光の粒子となって消えていく。


 僕からすればオーガは本来、ユニークを使うまでもない相手だけど、Bランクのモンスターの中では結構上位の方なので視聴者の皆は満足してくれると思う。


 とはいえ、それでも呆気ない結果となってしまったので視聴者の皆の期待に応えられなかった可能性も無きにしも非ず。そこが少し心配で僕は皆に聞いてみた。



「え~っと……、凄く呆気ない感じになっちゃったけど、皆に僕の特異技能ユニークスキル伝わったかな?」



"……"

"………"

"………………"

"………"

"……………"



 あれ?おかしいな。


 皆からの返事がない。まさかカメラの故障?もしくは配信サイト側の不具合?

 これはまずい。僕はカメラや配信サイトの治し方なんて知らないぞ。どうしよう。


 皆からの返事が来ないことに僕が不安を抱いていると、



"うおおおおお!!!"

"すげええええええ!!!"

"かっっっっこよ"

"てか何!?髪とか刀とか炎に変化してない!?かっこよスギィ!!"

"男が一度は憧れる戦い方じゃねぇかよおい!"

"こーれは神 回 確 定です"

"いやまじでなんなんそのスキル?強すぎんか?"

"仮にもBランク最強と名高いオーガを一瞬で灰にするって火力どうなってんの?"



 おお。動き出した。よかった。やっぱり配信サイト側の不具合だったのかもしれない。


 それに、今見て見たらいつの間にか同接数も35万人越えだし。きっと見ている人が多くて処理が大変だったのかな?


 何はともあれ、カメラの故障じゃなくて良かった。買ったばかりだからね。


 コメント欄では、何個か僕の特異技能ユニークスキルについて聞いているものがある。

 周囲にモンスターの気配もしないし、何個か質問に答えていこうかな。



「この技能スキル、【燐火蒼焔ヴァトラ】って言うんだけど……蒼炎を生み出して、同化して、操る事ができるんだ。

あ、皆は蒼炎が何度が知ってる?ちなみに答えは一万度ね。それでこのスキル、その温度すらも操れるから燃やせないものは無い、かな?」



"確かに炎が青色だったけど、蒼炎だったのね"

"一万度て、大体のモンスター瞬殺やん!?"

"同化も出来んのかよ……物理無効やんけェ!"

"更に操る事も可能、と……"

"ぶっ壊れでは!?"

"しかも温度すら操れるのか……強すぎん!?"

"ユニークの中では断トツでぶっ壊れ能力なのでは?"

"攻撃特化すぎる……"



 まぁぶっちゃけ僕もこのスキルは視聴者さんの1人が言っている通りかなりのぶっ壊れだと思う。


 実際、僕の持っているスキルの中でもTOP3には入るくらい攻撃性能が高い。ぶっちゃけ他二つのスキルは、深層とかに潜らない限りは使う機会は殆どない。


 そんな訳で、僕はこのスキルがかなり重宝している。



「まぁユニークスキルも見せた事だし、ここからは少し進むペースを上げていこうかな」



 そう言って僕は軽くジョギングするくらいの速度で走り出す。今までは普通に歩いていたけど、もう少し深い所にいるモンスター相手の方が、スキルの見栄えも良いだろうし。



 ………それに、このダンジョンに入ってから何か少し嫌な予感がしている。

 首の裏あたりがずっとピリピリしているし、どことなくダンジョン内の空気が重い気がする。


 ………何も起きないといいけどね。



 そうして久遠は、さらに深い階層へとくだって行くのであった。



──────────


───────


────



 久遠がさらに深い階層へと降り始めてから一時間後。六十階層付近。

 探索は順調に進んでいたが、久遠が感じる違和感、嫌な予感といったものは進めば進むほど大きくなるばかりだった。



 ………不味い気がする。僕が一時間前にいた場所が五十二階層。そこから下へ行くにつれ、どんどんと周りの魔素が濃くなっている。前にここまで来た時は、これ程までの魔素を感じることは無かった。


 ということは、本来現れないモンスター──『𨷻入者イレギュラー』が発生している可能性が高い。


 ………おかしい。イレギュラーは本来、年に一回有るか無いかぐらいの確率だ。

 この前、つくもさんをイレギュラーから助けたのが六日前。つまり、一週間に二回もイレギュラーが発生した事になる。


 こんな事今まで無かった筈だ。ダンジョンが発生してから20年経つけど、ギルドの記録には週に二回もイレギュラーが発生したという事例は無い。


 何かが起きていることは確定だ。

 

 と、彼がそんな事を考えていると。



『─────!!』



 何かの轟音と共に、とてつもない量の魔力の波動が放たれたのを久遠は感じ取った。

 魔力の波動というのはつまり、魔法を発動する合図という事だ。そして、放たれた魔力量からある程度威力を推測することは出来るが…、どうやら今回はかなり運が悪かったらしい。


 むわん、とサウナの様な熱気が漂ってきたかと思った次の瞬間、


ゴォォォッッ!


 爆発的な熱風が久遠を襲った。


 そして彼は魔力の波動を感知した瞬間、周囲に防御結界を展開していたので傷一つない。もっとも、結界を展開しなくても問題ないが、カメラが壊れてしまう可能性があるため、そこを配慮して彼は結界を展開したのである。



 なんだろう、この熱風。鑑定して見た感じ、少なくとも数千度はある。少なくともこの階層に現れるモンスターでここまでの熱を扱う奴はいない。

 僕が今いる階層は、ランクで言えばB相当。

 一体何が、と僕が考えていたら。


 ドシン、という巨大な質量を伴った足音が響いてきた。



「……なるほどね、君か」



 思わずそう呟いてしまった僕の目の前に現れたのは。


 ランクA+相当、Aランク探索者四人以上で対処に臨めと探索者協会ギルドの規則で定められているモンスター、


 数千度の炎を扱い探索者を燃やし尽くす凶悪な怪物、『炎獄狗ヘルハウンド』がまるで獲物の品定めをするような目で、こちらを睨みつけていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る