第6話 初めての配信をするようです。
「ん……」
朝。
窓から差し込む暖かい陽光と、小鳥の
昨日の夜、今日の配信への不安やらなんやらで結局あまりよく眠ることは出来なかった。
「ふぁ……、もう朝かぁ……」
思わずあくびが出てしまう。
中々寝れなかったこともあって、やっぱりまだ眠い。
二度寝したいのはやまやまだけど、今日のお昼から配信があるのでする訳には行かない。
お昼からの配信で必要なものや段取り等を頭の中で確認しながら、朝の身支度を終え、1階へと降りる。
「あ、お兄ちゃん。おはよ!」
「おはよう。それよりも、まだ朝食食べてないよね?」
「うん!何も食べてない!」
「そっか、じゃあ今から作るから待ってて」
うちの両親は仕事が忙しく海外を飛び回っているため、いつも大体こんな感じで僕が料理をしている。ちなみに真白は掃除なんかをやっている。分担制なのだ。
あ、でも別に育児放棄って訳じゃないよ?
普通に毎日連絡は取り合ってるし、それに加えて毎日電話をかけてくる。少しは子離れして欲しい。
まぁそれは置いといて。
料理をしながら考える。
配信をするとしても、どこまで僕についての情報を出すか。これが重要だ。
流石に全部教える訳にはいかないし、かと言って何も教えません、では折角見に来てくれた人たちも納得してくれないだろう。
となると、今1番ネットで騒がれている僕の魔法について話すのがいいのかな?
でもあんまり話しすぎてもあれだし、最初はほんとに少しのことだけ話して、後は見に来てくれた人たちの反応を見ながら僕の魔法について話す。
うん。これで行こう。
これならあんまり反感も買わないだろうし、世間が気になっている事への答え合わせという事にもなる。
そしたら、少しは僕についての話題も落ち着くだろう。
「真白~、出来たから運んで〜」
「はーい!」
そんなことを考えているうちに、今朝の朝食が出来た。
朝食と言ってもシンプルなもので、
鮭の塩焼きと玉子焼き、ご飯に味噌汁。
いつもよりも起きるのが遅くなってしまったので、今日はこんな感じだけど。普段はもっとちゃんとしたやつを作る。
僕が料理好きなのもあって、結構手の込んだ料理を作ることが多い。
たまに真白に、「お兄ちゃん男の子なのになんで私より女子力高いの?ズルくない?」とか言われるけど、そんな事言われても趣味が料理と読書しかないから仕方ない。
普段から料理していたらこれくらいはできるようになる。
まぁ関係ない話はこのくらいにしておいて、できた料理を運んで席に着く。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます!」
玉子焼きを一つ箸で掴み、口へと放り込む。
口に広がる優しい甘味。
うん。我ながら今日もいい出来だ。
そんな事を考えながら朝食を食べ終え、使った食器を洗って片付ける。
それから、お昼からの配信で必要な物や段取りを改めて真白と確認したあと、普段よりも少しランクが高いダンジョンへと向かった僕であった。
──────────
───────
────
底無しダンジョン。別名『零の迷宮』。
日本、いや世界で初めてダンジョンが出現した場所。その為に、『始まり』を意味する零の名がつけられた。
名前からも分かる通り、このダンジョンは最下層が確認されていない。
ほかのダンジョンは踏破は出来なくとも、どのくらいの深さなのか測定するくらいはできる。
だけどこのダンジョンは、深さを測ろうとしても、できない。測りたくても、測れない。
測定器がエラーを起こすのだ。
『最下層:150層』と表示されたと思ったら
『最下層:45層』という風に、数値が定まらないのだ。
ただ、一つだけ分かっていることがある。
このダンジョンは階層が増え続けている。
その為、このダンジョンは特例でランクが指定されていない。
他のダンジョンは、測定できた最下層やらそのダンジョンが持つ魔力量、先見隊からの情報等でダンジョン自体にランクが定められる。
だがこの『底無しダンジョン』は、そういったことが不可能である為、仕方なくランク
と、ここまで長々と説明していたけど、なぜ僕がそんなことをしたのかと言えば。
僕は今、そんな『零の迷宮』へと来ていた。
「深呼吸……深呼吸……」
上述の通り、そんなダンジョンへと配信しに来た僕だけど、以外にもこのダンジョンで配信する人は多い。
ランクが低かったとしてもある程度の深さまでは潜れるのに加え、出てくるモンスターのランクがほぼ固定な為ランク上げもやりやすい。
それに加え、出てくるモンスターのほとんどがシンプルに"パワーとスピードで仕掛けてくる"タイプというのがある。
ランクが上がり、以前のランクよりも強い敵を倒せるようになったことでそのままより深い階層へと進めるのに加え、他のダンジョンのようにモンスターの特殊攻撃を考えなくていいため、配信するしない問わず探索者に人気のダンジョンなのだ。
そんな僕が居る今の階層は45階層。
Cランク以上の探索者しか入れないこともあって、僕以外の人はあまり居ない。配信するのにはうってつけなのだ。
「すぅ〜……はぁ〜……」
やっぱり配信前ということもあって緊張していたから深呼吸してみたけど、普通に無駄だったので、諦めて配信を始めることにした。
カメラドローンに着いているボタンを押す。
「えと、これで映ってるのかな?」
"マジで配信始まったよ!!"
"てことは今話題のあの魔法見れんのか!?"
"ガチで配信すんのかよ!?"
"まじか!?"
"きちゃあああああ!!"
"映ってるよ〜"
"ふつくしい……"
"顔面偏差値高ぇ……"
"え、女の子?"
"確かに顔立ちが中性的だな……、女子にしか見えん"
"【速報】今話題の探索者久遠くん、めちゃくちゃ顔整ってることが発覚"
"俺なんて女の子に顔見られたら悲鳴あげられるのに……(´;ω;`)"
"悲鳴ニキ元気出せよ……"
どうやら見に来てくれた人たちの反応は上々らしい。良かった。最初から暴言吐かれたりしたらどうしようって結構不安だった。
「あ、どうやら良いみたいだね。それじゃあ改めて。今話題になってる探索者の、
"丁寧だ"
"丁寧だわ"
"これは好感度高い"
"聞いたこともない苗字なんだが?"
"神来社、ってこう書くのか……かっこよ"
"名前までかっこいいのかよ"
"俺なんて苗字田中だぞ!!"
"安心しろ、俺もだ"
"あんな派手な魔法使うからてっきりぶっ飛んでる人かと"
"偏見草"
"神の名が付いてるんだからぶっ飛んでるわけないだろいい加減にしろ!"
"なんか既に信仰者生まれてないか?"
"てか俺らはお前のことなんて呼べばいいん?"
なんかコメントで酷いことを言われたような気もするけど、真白が気にしたら負け!って言ってたし、気にしない気にしない。
…………ほんとに気にしてないからね?
それはそれとして、コメントになんて呼べばいいか聞いてる人がいたので答える。
「僕のことをなんて呼べばいいか、ね……別に好きに呼んでもらっていいよ?」
"じゃあ久遠?"
"久遠か?"
"久遠だな"
"久遠だろ"
"いや神来社だろ"
"何言ってんだお前"
"寝言は寝て言え"
"いてこますぞワレェ!"
"(´;ω;`)"
"神来社ニキ味方一人もいなくて草"
「あ、あんまりコメントで喧嘩しないでね……?」
ネットのノリってこんな感じなのかな。
だとしたら、結構ネットって怖いところなのかもしれない。良く知らないけど。
でも仮にそうだとしても、色々な人が僕の配信を見に来るだろうから、あまり視聴者さん達の間で喧嘩はしないで欲しい。誰もが気持ちよく見れる配信の方がいいよね。
"りょ"
"了解した"
"おっけ"
"このくらいにしとくか"
"今日はこの辺で許してやる"
"久遠に感謝するんだな"
"何様やねん"
"俺様だが?"
"草"
"さっきから草しか言わないニキおって草"
"お前も草言うてるやん"
「まぁ折角配信に来てくれたんだし、何か質問したいこととかあるかな?」
挨拶も程々にしておいて、今日の目的である"僕についての説明"的なことを始める。
でも何話したらいいか分からないから、コメント欄で僕に聞きたいこととかないのか募集する。そっちの方が色々効率がいいと思うし。
"質問タイムきちゃ!"
"よっしゃあ!!"
"しずくちゃんを助ける時に使っていたあの魔法ってなんなんですか!?"
"久遠のあの火炎系魔法なんなん!?"
"やっぱあの魔法がいちばん気になる!"
"やっぱ気になる!"
"禿同"
うん………、やっぱりこうなるよねぇ。
僕があの魔法を
そもそも、僕が使う魔法は全てオリジナル。
そして一般的に、火炎系魔法を使いたいなら、スキル【火炎魔法】が必要になる。
そして、レベルアップしていくことによって『レベルアップにより、スキル【火炎魔法】から、『
という風に使える火炎系魔法が増えていくのだ。
つまり僕が言いたいのは、人によって使える魔法の種類や数は違えど、使うことの出来る魔法自体は全部同じなのだ。
Aさんは『
そして、Bさんもレベルアップすれば勿論
『
僕が言っているのはそういうこと。
そして、僕の使う魔法は【火炎魔法】により使える魔法のどれとも違う。
それに、僕が使う魔法は正確に言うと魔法では無いしね。
そんな訳で、この質問にどう答えたものかなぁ。これに回答するなら、あれへの言及は避けられないし……
仕方ない。こればっかりは隠せそうにもないから、言っちゃうかぁ……
「あの魔法のことね………結論から言うと、あの魔法は僕のスキルによるものなんだ。それに、正確に言えばあれは魔法じゃないしね。」
"スキル?"
"そんなスキルあったか?"
"ギルドのホームページではそれらしきものは無いが……"
"じゃあまだ取得条件がわかってないスキルってことなのか?"
"やっぱ炎系のスキルは多いのか"
"でもギルドのホームページ、かなりの数の炎系のスキルが載ってるぞ?そのどれでもないなんてことありえるか?"
"それに魔法じゃないってどういうことなの?"
「そう。僕のスキル。もっと言えば、僕のユニークスキルによるもの。これ以上はさすがに言えないかな……ごめんね。」
そしてもっと正確に言えば、ユニークスキルでも無い。
でもさすがにそれを言っちゃうと、ギルドから色々聞かれたりなんなりでめんどくさい事になっちゃいそうだから言わないでおく。
"は?"
"え、がち?"
"嘘だろ?"
"いやいやいや流石に……"
"でももしユニークスキルなら見たことない魔法だってのもうなずける……"
"じゃあがちなん!?"
"やばいやばいやばい!!!"
"もしかして俺ら、超重要な場面に立ち会ってるんじゃないか!?"
"【速報】今話題の探索者久遠くん、まさかのユニークスキル持ちだと判明"
"まじかぁぁぁぁ!?"
"やべぇぇぇ!?"
僕がそう言うと、一気にコメント欄が加速する。目で追えない程だ。
それに、気づけば視聴数が15万を越えている。
まぁそれも当然の結果とも言える。前にも言ったと思うけど、ユニークスキルは1億人に1人の確率でしか発現しない。現在の地球上にもユニークスキル保持者はたった数十人。
それに加え、ダンジョンが現れてからの20年、日本からユニークスキル保持者はたった1人しか生まれていない。つまり、僕は日本で2人目のユニークスキル保持者という事になる。
そう。要はこれからもっと僕は世間から注目されることになる。
はぁ………………、嫌だなぁ。注目されるのは好きじゃないんだけど。
でもこうして配信でも言ってしまった以上、そこら辺は割り切って生活するしかない。
"まじかぁ……、ユニークスキル持ちかぁ……"
"それに、日本でユニークスキル保持者ってまだ一人しかいなかったよな?"
"じゃあ日本で2人目のユニークスキル保持者ってことか……"
"すっげぇ(語彙力喪失)"
"こーれは神回確定です"
"まぁそれ以上は言えないよな"
"しゃーなし"
まぁいつまでも落ち込んでいる訳にはいかないから、真白から言われた通り、ここからは視聴者さんの質問に答えつつダンジョンを探索していくことになる。
それにこれもまた真白が言っていたことだけど、やっぱり視聴者さんはユニークスキルってことだけじゃなくて実際に使用している場面を見たいとのこと。
それに加え、ユニークスキルと他の普通のスキルでは見た目の派手さやらも違くて、ユニークスキルの方が配信映えするらしいね。
「じゃあここからは視聴者さん達の質問に答えつつ、ダンジョンを探索していこうと思うよ。答えられないこともあるけど、遠慮せずに聞いて欲しいな。」
"うおおおお!!"
"ついに探索が始まるのか……"
"久遠くんやさしい"
"きちゃ!!"
"ユニークスキル使ってるとこ見られるのか!"
"よっしゃあ!!!"
"他にもいろいろ聞けるってことか!!"
"久遠太っ腹ぁ!!"
そんな感じで、視聴者達と軽く会話しながらダンジョンの奥へと足を進めていく久遠なのであった。
─────────────────────
はい、どうも作者です!
1ヶ月もの間、投稿をサボってしまい申し訳ありませんでした……m(_ _)m
リアルが結構忙しく、中々書く時間を取れませんでした。
まぁ言い訳になってしまうのでここら辺にしておいて。
本編中で、スキルに関する説明があったと思いますが、分かりづらくなかったでしょうか?
私的には分かりやすく書いたつもりですが、何かありましたらご指摘頂けると幸いです!
それに加え久遠くんが言うユニークスキルについてですが、そのスキルがだいぶ自由度の高いスキルなので彼はその様に発言しています。
後々の展開でいつか説明する機会はありますので、それまではお楽しみに。と、言えばいいんですかね?
長々と語ってしまいましたが、改めて。
1ヶ月もの間、投稿をサボってしまい申し訳ありませんでした。
このような拙作を読んでくださる読者の皆様の為にも、これからも頑張っていきたいと思いますので応援していただけると嬉しいです!
以上、作者でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます