第3話 やっぱりバズってしまったようです。

 つくもさんを家まで送り届けたあと、

僕も自分の家へと帰る為に歩を進めていた。


 ………正直言えば、今はあまり家に帰りたくない。別に虐待されている訳でもないし、僕の両親は至って普通だ。愛情を持って僕を育ててくれた。

 問題は妹なのだ。………その妹は、傍から見れば、所謂いわゆる『ブラコン』と言うやつなのだろう。


 ダンジョン探索が長引いてたまに僕の帰りが遅くなった時は、少々愛が重い彼女みたいなことを言ってくるのだ。

 嫌われるよりかは100倍マシだけど、その日は一日中妹に抱きつかれたまま過ごす羽目になる事もある。勿論、寝る時も食事中も。

 ……流石にお風呂の時は無理やりにでも引き剥がしている。


 そんな訳で今日も遅くなってしまったから、きっと妹はご機嫌斜めだろう。


 そんな誰に向けて説明しているのか分からないようなことを考えながら歩いていると、もう既に家に到着していた。……覚悟を決めて扉を開ける。



「ただい──」


「お兄ちゃん!?もうダンジョンから帰ってきたの!?」



 あれ?妹──真白の反応がいつもと違っていた。……おかしいな。いつもだったらもっと騒ぐはずなのに。



「真白?どうしてそんなに驚いてるの?」


「お兄ちゃんさっきまでしずくちゃんの配信に写ってたよね!?しずくちゃんがいたダンジョンからうちって結構遠いはずだよ!?」



 ああ、忘れていた。真白は生粋のダンジョン配信オタクなのだ。何でも「普段の生活じゃ味わえないスリルが味わえるんだよ!」との事で、真白はダンジョン配信を見る事が生き甲斐みたいな所がある。

 兄としては少々心配なんだけど、本人が楽しそうに配信のことを話して来るのであまりとやかく言いたくない。


 それはそれとして、登録者300万人越えのつくもさんの配信なら妹が見ていてもおかしくない。



「あー……、まぁ、探索者ならこの位は普通だよ。レベルが上がると身体能力も上がるから」


「へー、そうなんだぁ……ってそんな事よりお兄ちゃんが使ってた魔法!あれ何!?他の配信でも見たことない魔法だったよ!?」



 真白はダンジョン配信オタクなだけあって、ダンジョンのモンスターや、探索者が使う魔法や武器にとても興味を持っている。

 そんなに気になるなら真白も探索者になればいいと思うのだけど、本人曰く「それとこれとは話が別!」らしい。



「あれはまぁ、僕のスキルの一部みたいなものだよ」


「ふーん……」



 すごい疑わしそうな視線を向けられている。

 流石の真白にもあれの秘密は教えてあげられない。僕のスキルやら魔法やらは特殊なのだ。



「まぁいいや。あ、そうそうお兄ちゃん!」


「……なんでしょうか」


「……私のような可愛い妹を差し置いて他の女の子と仲良くするなんて酷いよ!」


「自分で可愛いとか言っちゃうんだね……お兄ちゃんに少しでもいいからその自信を分けて欲しいよ」



 実際、真白はかなり顔が整っているから、確かに可愛いと思う。それに、その笑顔を見た同年代の男子達からはきっとモテモテなんだろうなぁ、とかなんとか考えていたけど、そろそろ現実を見た方が良さそうだ。



「私だってお兄ちゃんといちゃらぶしたかったのに!」


「実の兄といちゃらぶしたいとか言うんじゃありません。あとつくもさんといちゃらぶしたことがあるかのような言い方しないで下さい」



 ……また始まってしまった。僕の帰りが遅くなると、こんな感じで真白は非常にめんどくさい。……この状態になった真白は、まともに話を聞いてくれないし、僕への詰問が終わっても、その日一日中離れてくれないのだ。

 


「だってぇ!しずくちゃん、お兄ちゃんと話してる時凄い楽しそうだったんだもん!あれは黒だね!真っ黒だよ!」


「僕のクラスメイトを事件の犯人みたいに言わないでよ……」


「とにかく!罰としてお兄ちゃんは私を甘やかさなければなりません!」


「それは果たして罰になるの……?」


「つべこべ言わずやる!」


「はいはい……」



 そんなこんなで、結局今日も妹に一日中引っ付かれたまま過ごす羽目になったのであった。



───────────


─────────


──────



 そんな事があった翌朝。窓から差し込む陽光で僕は目を覚ました。



「………?」



 昨晩、結局真白と一緒に寝ることになったのだけど、横を見てみても真白はいない。どうやら先に起きているようだ。

 そんなことを考えつつ、寝室を出てリビングへと向かう。



「真白、おはよう……ふぁ……」 


「あ、お兄ちゃんおはよう!あとコレ!見てみて!」


「朝から元気だねぇ……で、どうかしたの?」



 そう言いつつ、真白に差し出されたスマホを見てみると、



 『大人気配信者白雫つくもしずくを助けた探索者の正体は!?』



 という題目のネットニュースの記事が目に映った。

 ……うん。やっぱりバズるよねぇ……そりゃそうだよ。つくもさん、登録者300万人いるんだもん。バズらない方がおかしいよね。



「やっぱりバズっちゃったかぁ……」


「すごい反響だよ!?テレビでも特集されてるし!お兄ちゃん一躍有名人じゃん!」


「別に有名人にはなりたくないんだけどなぁ……って、テレビでも僕のことやってるの?」


「うん!私が起きた時から、ずっとお兄ちゃんのことについてやってるよ!」


「えぇ……」



 真白にそんなことを言われたため、テレビをつけてみれば。



 『はい。今日は東○大学ダンジョン専門研究科、特別教授の林さんにお越しいただいております。今日はよろしくお願いします。』


 『はい、よろしくお願いします。』


 『早速ですが、林さん。今回話題になっている、白雫つくもしずくさんの配信に映った探索者、というのは一体どういう人なのでしょうか?』


 『はい。今回話題になったのは彼女の配信でも言っていたように、つくもさんのクラスメイトの方ですね。何故話題になっているのかというと────』



 とまぁ、なんか凄そうな人が僕について解説していた。……正確には、僕が使っていた魔法、についてだけど。

 そんなことより、テレビでも特集されているということは、学校に行ったら絶対注目される。なんなら、少なくとも1ヶ月位は何をするにしても目立つだろう。


 目立つのは嫌いなんだけどなぁ……



「真白、僕どうしたらいいと思う?」


「んぇ?どうしたらって……普通に過ごせばいいじゃない?」


「いやまぁそうなんだけど……普通に過ごすとしても目立つよね、っていう話」


「まぁそればっかりは仕方ないんじゃないのかなぁ……」


「だよねぇ……」



 どうしよう。非常に学校に行きたくない。なんなら家から出たくない。僕は静かに暮らしたいのに。

 だからといって、学校を休む訳にも行かないんだけど……。



「はぁ……。なんかもう考えるのもめんどくさくなってきた……学校行こ………」


「……お兄ちゃん、がんば!」


「うん……頑張ってくる……」



 というわけで、不満に思いながらも学校に行く準備は進め、そろそろ登校する時間となった。



「お兄ちゃん行ってきます!」


「行ってらっしゃい……」



 そう言って真白のことを見送る。いつもは一緒に登校しているんだけど、流石に今日ばっかりは僕と一緒だと目立つため別々に登校することにした。



「僕もそろそろ行かないと……」



 そう独り言ちながら、扉を開けて学校へと向かう。

 登校中に僕だとバレませんように、と祈りながら歩いていたんだけどどうやら無意味だったみたいだ。



 「ねぇ、あれ……」


 「しずくちゃんの配信に映った人じゃない?」


 「うわ、ほんとだ……」



 ……何を喋っているかまでは分からないが、こちらをチラチラと見ながらヒソヒソ話している人が沢山いる。


 今すぐにでもこの場から逃げ出したい。


 ………という事で、探索者の身体能力を活かして学校まで逃げることにした僕であった。



─────────────


──────────


───────



「はぁ〜。やっと着いた……」



 あの後。学校まで走っている最中も奇異の視線に晒され、僕の精神は幾分かすり減っていた。


 それに今は、何とか下駄箱を通り抜け、教室の前まで来ているのだけど。……周囲の視線がすごい。めちゃくちゃこっちを見てくる。


 教室に入る前からこんな感じだと、入ったらどうなっちゃうんだろうなぁ、とか考えて中々教室に入れないでいる。

 とはいえ、学生である以上教室には入らないといけないので、覚悟を決めて教室の扉を開ける。



「………」



 無言で自分の席へと向かい、着席。

 そのまま、いつものように鞄からミステリー小説を取りだし、読み始め──────



「……はっ!?おい!みんな!久遠が登校してきたぞ!」


神来社からいと!お前昨日のあれなんだよ!?なんかすっげぇ魔法使ってなかったか!?」


「一体どんなスキルなんだ!?頼むから教えてくれ!」


「久遠!今度俺と一緒にダンジョン行かねぇか!?」



 ──────られなかった。

 ……うん。分かってた。僕のクラスメイト達はやかましい───じゃなくて、元気な人達が多いから、こんな風に僕の魔法について聞いてくることも。



「よお!なんだか大変そうだな?親友!」


「……海斗」



 そう言って挨拶してきたのは、僕のひとつ前の席に座り、こちらに振り向いている沢渡海斗さわたりかいとという爽やかイケメン。

 小学校からの幼馴染であり、僕の事を親友と呼んでくれる良い奴だ。……たまにうるさい時はあるけれど。



「いや、俺も見たぜ?昨日の配信。なんだよあの魔法!俺たち親友の仲だろ!教えてくれたって良かったじゃねぇかよ〜!」


「……いや、海斗。僕が使っていた魔法をもし教えた場合、海斗は絶対周りに言いふらすじゃん……」


「それもそうだな!俺の親友はこんなに凄いんだぞ!って自慢するわw」


「そうなることが分かってたから教えたくなかったんだよ。……つくもさんの配信に映ったのはミスだったなぁ………」


「まあまあ良いじゃねぇか!細けぇことは気にすんな!」


「全然細かくないんだけどなぁ……」



 僕としては一大事だ。あまり目立つことが好きじゃない僕にとって、現状はまさに最悪。

 海斗は目立つのが好きなタイプの人間だから今回は役に立たないし、そもそも今の状況を面白がっているはずだ。


 ……腹いせに今度なにかしてやろうかな。



「なぁ久遠!教えてくれよぉ!」


「お願い、久遠くん!」


「久遠君、是非とも僕にも教えて欲しい。」



 そんなことを考えていると、クラスメイト達がまた僕にそう聞いてきた。


 非常にめんどくさい。このまま黙ってたとしても、この騒ぎは収まりそうにない。

 だとしたら、僕がハッキリ言っておく必要がある。



「……みんな。悪いけど、僕のスキルについて教えるつもりは無いし、一緒にダンジョンにも行かない。」


「「「「えぇ〜!」」」」



 と、僕がそう言うと周囲から不満の声が上がった。

 僕のスキルは本当に教えられない。スキル所持者である僕ですら、よく分かっていないのだ。



「まっ、しゃあねぇか!」


「ちぇ〜。まぁダメ元で言ってみただけだしなぁ、やっぱ無理か。」


「探索者のスキル情報は命だからなぁ。そう簡単には教えてくれんわな。」


「わりぃな久遠!」



 以外にもあっさりと引いてくれた。


 彼らも普段からダンジョンに潜っているらしいし、スキルを教えたくないという僕の気持ちはわかるらしい。それに、自身のスキルについてとかはダンジョン配信者ですら、秘密にしている人が多い。


 とにかく、わかってくれたようで何よりだ。



「あっ、そうだ久遠!」


「どうしたの海斗?」


「コレ見てみろよ!」



 そう言って海斗が見せてきたのはとあるネット掲示板。そこには、



─────────────────────


【あの魔法は】しずくちゃんの配信に映った謎の探索者について語るスレpart35【一体】


123:名無しの探索者

にしても、一体あの探索者はなんなんだ?

見たことない魔法使ってたし。


124:名無しの探索者

分からん。俺、結構長いことダンジョン配信見てるんだが、今まで見てきた配信のどれにもあんな魔法使うやついなかった。多分だけど、俺らが知ってる魔法とは別のやつ。


125:名無しの探索者

今現状分かってんのがその探索者の名前くらいなんだよな。しずくちゃんが「久遠くん!?」って言ってたし、久遠って名前の探索者なんだと思う。


126:名無しの探索者

しずくちゃんがクラスメイトって言ってたし、高校生なのは確かなのか。………いや、高校生でアイスドラゴン瞬殺するって何?最近の高校生強すぎん?


127:名無しの探索者

話の腰を折るようで悪いが、お前ら!

その久遠くんとやらのアイスドラゴン秒殺シーンがめっちゃバズってるぞ!


128:名無しの探索者

>>>127

うおっ!?まじだ!?

めちゃくちゃ切り抜き動画上がってるし、しずくちゃんの元の配信に至っては再生数2億とかいってるぞ!?


129:名無しの探索者

>>>127

マジだ!?この再生数はバグだろ!?てかめちゃくちゃバズってんじゃねぇかwww


130:名無しの探索者

その久遠くんって奴は配信で見てた感じ目立ちたくなさそうだったが……こりゃ無理だな。

ご愁傷さまです。



─────────────────────



 その掲示板では様々な書き込みがされていて、その書き込みによれば僕はどうやら、僕が思っている以上にバズりにバズっているらしかった。

 その事を理解すると同時に、僕の頭はどうやら情報の波に耐えられなかったみたいだ。



「あばばばばば」


「おい久遠!?どうした!?」


「あー終わった………さようなら僕の平和な日常……」


「お、おい久遠……?お前目が死んだ魚みたいになってるぞ……?」


「……………海斗。今日ってどんな授業だったっけ。」



 という訳で僕は現実逃避をすることにした。


 今日の夜ご飯何にしよう、なんて考えながら、朝のHRが始まるのを待つことにしたのだった。

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