第2話 アイドル配信者と帰ることにしたようです。
雫視点
目の前に居る自分の命を救ってくれた青年。
その青年こそ、同じ高校でクラスメイトの同級生───
"ファーwwwwwwwww"
"まじかああああああああああ!?"
"すげぇぇぇぇぇぇぇぇwwwwwwwww"
"こいつ本当に人間かよwwwww"
"マジかよww!?あの一瞬で
"ウッソだろwwwwどんだけ魔法の威力高いんだよwwww"
"いくらなんでも強すぎんだろwwwwww"
"一体どんな魔法使ったんだ!?"
コメント欄は先程の久遠の人外じみた動きや魔法に対しての驚愕の声で溢れている。
一般的に、火炎系魔法でも
しかし久遠はダメージ云々の話ではなく、その頭部を僅か0.2秒ほどで灰にしたのだ。
コメント欄が驚愕の声で埋まるのも当たり前だった。
「間に合って良かったです。お怪我などはありませんか?」
そう言って彼は私に問いかける。けど、私は今の光景が本当に目の前で起こった出来事なのかまだ信じることが出来ずにいた。
あの一瞬で
それでも何か言わなければ、と私はどうにかして言葉を発する。
「え、えと……その……く、久遠くん……だよね?」
どうにかして言葉を発した私は久遠くんにそう問いかける。
勿論答えなどわざわざ聞かなくても分かり切っているけど、そう聞いてしまうくらい、さっきの光景はにわかには信じ難いものだった。
「……!……………人違いでは?」
私に名前を呼ばれた久遠くんは、驚いたような表情で誤魔化そうとする。
久遠くんは誤魔化そうとしてるけど、私からしたらどこからどう見ても久遠くんだ。
2年間ずっと好きだった相手だし、今でも好きな男の子の顔なら尚更間違える気はしない。
「う、ううん!絶対久遠くんだよね!?」
「はぁ……。やっぱ誤魔化せないかぁ……。
そういう君は
「う、うん!同じ高校のクラスメイトの
久遠くんとは時々話す仲だったけど、私の名前を覚えてくれていたのが嬉しくて、思わず上擦った声で返事をしてしまう。
"こいつ全身から関わりたくないオーラ出してるぞwwwww"
"てか「誤魔化せないかぁ」って言っちゃってるしwwww"
"同じクラスだったんだ"
"しずくちゃんと同じクラスとか羨ましい"
"処すか?"
"やめとけ。俺たちじゃこいつには勝てん"
"しずくちゃんは男と一緒に居ないで欲しいなぁ"
"ばっかお前、仮にも俺らのしずくちゃんを助けてくれたんだぞ?"
"それよりもしずくちゃんがなんか乙女の顔をしている気がするのは俺だけか?"
"本人が嬉しそうだしいいんじゃね?"
"いいえ!気の所為なんかじゃないわ!これは恋する乙女の顔よ!"
"そうよ!そしてこれは相手の男の子は気づいてないパターンね!"
"お前らもしかしなくてもネカマだろ"
コメント欄では、視聴者が思い思いに自分の思ったことを言い合っている。
1部の視聴者に雫の思いがバレてしまっているが、然程コメント欄は荒れていない。そうは言っても多少の批難の声は上がるが、それも気にならないほどだった。
そもそも雫には熱狂的なファン──
彼女は昔から配信で、自分には意中の人がいることを直接では無いが明言していた。
だからこそ、彼女にはガチ恋勢が少なかった。
「で………、
確か探索者ランクはまだCだったよね?」
「えっ………と、それは………そのぉ……」
「……………」
久遠くんからそう問いかけられ、私は思わず言葉が詰まってしまう。
そんな私に久遠くんは咎めるような視線を向けてきていた。
その視線に耐えきれなくなった私は、渋々ここに至るまでの経緯を話し始めた。
「えっとぉ……モンスターを倒して、油断してて………トラップを踏んでしまいました……」
「……………何やってんの?」
「うっ……ご、ごめんなさい………」
「………今回は助かったからいいけど。
次また同じようなことになったら助かる保証なんてないんだからね?」
「はい……肝に銘じます……」
久遠くんから軽くお説教をされてしまった。
けど、久遠くんの言っている事は最もなので、今回の失態は私のせい。
少し調子に乗りすぎてしまった。
"言われてんぞwww"
"俺達ほんとに心配したんだからね!?"
"同級生くん、めちゃくちゃジト目だぞ"
"これは全面的にしずくちゃんが悪い"
"言ってることがぐぅ正論すぎるwwww"
"まぁ確かに次こんなことあったら助かる保証ないしなぁ"
"ほんとにしずくちゃんが助かってよかった!"
「……それじゃあ。このまま一人で帰すのも心配だし、入口まで送っていくよ。」
「だ、大丈夫!これ以上久遠くんに迷惑掛けられないし!」
「………油断してトラップ踏んだのに?」
「はぅっ……それは、そのぉ…………」
久遠くんに最もなことを言われて私は言葉に詰まる。確かに油断してトラップを踏んでしまった私が1人で帰れると言ってもなんの説得力もないだろう。
「いいから僕に送らせてよ。ここで送らなかったら
「い、色々とごめんね……?」
「気にしなくていいよ」
そう言って彼は小さく微笑む。
彼の言った通り、本当に気にしてない様子だった。
そうして私たち2人は地上を目指して来た道を引き返していった。
─────────────────────
久遠視点
「間に合って良かったです。お怪我などはありませんか?」
僕は今、新宿ダンジョン45階層にいた。
そこで先程の女の子──よく見たらクラスメイトの
まぁドラゴンはもう跡形もなくこの世から消滅したのだが───
問題はその後だ。
だがしかし、彼女はダンジョンライバーの中でもかなり人気があるのだ。
登録者数300万越えの人気女子高生配信者。
それが
要は何が言いたいのかと言うと──────
僕は恐らく、これからネットで少なからずバズるということだ。
普段潜っているダンジョンには、もっと強いモンスターもいるため、僕はそこまで強くないと思うのだが、とにかくSSSランクらしい。
そのSSSランクモンスターを文字通り瞬殺してしまった僕は否が応でもバズるだろう。
「え、えと……その……く、久遠くん……だよね?」
言われてしまった。
何とか誤魔化さなければ。
「……………人違いでは?」
無理だ。こんな誤魔化し方じゃ絶対バレる。
ていうかもうバレてる。そもそも
「う、ううん!絶対久遠くんだよね!?」
断言されてしまった。これはもう認めない訳にも行かないだろう。ここで逆に認めなかったらそれはそれで面倒なことになる。
「はぁ……。やっぱ誤魔化せないかぁ……。
そういう君は
思わず本音が出てしまったけど気にしない。
確認の意味も込めて、改めて
「う、うん!同じ高校のクラスメイトの
何故か
それにちょっと声も上擦っている。
さっきのドラゴンがまだ怖かったりするのかもしれない。
「で………、
確か探索者ランクはまだCだったよね?」
今現在僕たちがいる階層は45階層。ランク的にもBに匹敵する。ランクCの
「えっ………と、それは………そのぉ……」
露骨に僕から目線を逸らした
「……………」
思わず無言になってしまう程彼女は言い淀んでいる。時折こちらを横目でちらりと確認しては、また正面を向く。何度かそんなことを繰り返し、ようやく彼女はここにいる訳を話し始めた。
「えっとぉ……モンスターを倒して、油断してて………トラップを踏んでしまいました……」
「……………何やってんの?」
「うっ……ご、ごめんなさい………」
どうやら彼女も自身の行動は反省しているようだ。ダンジョンでは油断は禁物。次からは油断しないようにしてもらいたい。
「………今回は助かったからいいけど。
次また同じようなことになったら助かる保証なんてないんだからね?」
「はい……肝に銘じます……」
一応そう言って彼女には釘を刺しとく。次また同じ失敗を繰り返さないとも限らないからだ。
でも、説教は僕自身好きじゃないし、彼女も反省しているから良しとしよう。
それはそれとして、一人で返すのも心配なので送っていくことにする。
「……それじゃあ。このまま一人で帰すのも心配だし、入口まで送っていくよ。」
「だ、大丈夫!これ以上久遠くんに迷惑掛けられないし!」
そう言って彼女は僕の提案(?)を断るが、油断してここまで落ちてきた人に言われてもなんの説得力もない。それに、そんなことを言われても じゃあ大丈夫か となる人はいないと思う。
「………油断してトラップ踏んだのに?」
「はぅっ……それは、そのぉ…………」
僕がそう言うと、彼女はバツが悪そうな顔をする。なんだか、叱られている時の子犬みたいで面白い。
とにかく、このまま彼女をひとりで返す訳には行かない。それに、彼女を送っていかなかったらそれはそれで
「いいから僕に送らせてよ。ここで送らなかったら
「い、色々とごめんね……?」
そう言って彼女は申し訳なさそうにする。が、全然気にしなくてもいいのにとも思う。
探索者という職業は助け合いでもある。常日頃から命の危険に晒される探索者達は、お互いがお互いを助け合うことで成り立っている。だから彼女が気にする事はないのだ。
「気にしなくていいよ」
そういう意味も込めて、彼女にはそう言っておく。
そうして、僕たち2人は地上へと引き返して行った。
────────────
────────
────
「………やっと着いたぁ」
そう言って彼女はその場に座り込む。僕はほとんど疲れていないのだけど、彼女にはどうやら堪えたらしい。
「……大丈夫?」
このまま座り込む訳にも行かないので彼女に手を差し出す。
「う、うん。少し疲れただけだから……」
僕の手を取り、立ち上がりながら彼女はそう言う。ここに辿り着くまでの道中で襲ってきたモンスターは全て僕が相手していたけど、やっぱりトラップによって落ちたことで精神的に疲れていたらしい。
「そっか。……良かったら送ってくけど、
「い、家まで送ってくれるの?」
「もちろん。もう大分暗いし、こんな夜道を女の子ひとりで返す訳にも行かないよ」
そう。何だかんだで地上に戻ってくるまで結構時間がかかり、あたりはもう真っ暗なのだ。
そんな中で彼女をひとりで返す訳にも行かないだろう。女の子一人だと夜道は危ないしね。
ちなみに、地上に辿り着いた時に
「何から何までありがとう……今日は久遠くんに助けられてばかりだね………」
あはは、と彼女は少し物憂げな表情で笑っていた。ダンジョンで助けられた挙句、ここまでしてもらうのは申し訳ない みたいに考えているのかもしれない。
「それじゃあ行こっか」
「そうだね。もう暗いし行こっか………後、このお礼は絶対するから!」
フンス、と彼女は意気込んでそう言った。お礼とか別にいいんだけどなぁ と思いながら彼女を家まで送り届ける。
しばらく歩いたあと、
「それじゃあ僕はここら辺で」
「うん……今日はほんとにありがとう!」
「どういたしまして。それより、
「あ、忘れてた!ごめんね久遠くん!もっと話していたかったけどそれじゃあばいばい!」
そう言って慌てたように家へと戻って行く
「……そろそろ僕も帰ろ」
そんなことを考えつつ、僕も自分の家へと帰ることにしたのだった。
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