ダンジョン配信で人気のアイドルを助けましたが、そんなことよりダンジョンに潜りたい。 〜無自覚最強主人公は、面倒事が嫌いなようです。〜

元きょくちょー。

第一章

第1話 アイドル配信者を助けたようです。

 耳に響く叫声。煌めく炎。目の前1面を塞ぐ巨体。


 僕は今、俗に言う『豚人王オークキング』と戦っていた。


 目の前に斧が振り下ろされる。

 事前に察知していた僕はそれを避け、オークキングの首へと刀を振りかざす。

 その太い首がいとも容易く切断され、胴体と泣き別れになる。ズシン、そんな音を立てながら首を失ったオークキングは地面へと倒れる。



「ふう。刀1本だと少し苦戦したなぁ。もっと強くならないと。」



 既に屍となったオークを眺めながら1人つぶやく。


 そんな僕は今、新宿ダンジョンの最終階層にいた。


 ここら辺では難易度の高いダンジョンとして有名な新宿ダンジョンだけど、慣れると以外に楽勝だ。まぁそうは言いつつ、少し苦戦した訳だけれど。


 倒れたオークキングが光の粒子となって消えていく。後に残ったのはオークキングの牙と魔石。



「今日の分は集め終わったし、もう帰ろうかな。」



 あとは帰りにギルドに寄って、集めた素材を売るだけだ。


 オークキングは慣れると案外楽勝に倒せるけど、その魔石や牙はギルドでかなり高く買取ってくれる。


 簡単に倒せて稼げるなんてすごい楽。


 そんな事を考えながら帰り道を辿っていた時。



「───────!!!!!!!」



 何か大きな音が聞こえたような気がした。


 こういう事は時々ある。


 本来現れるはずのない魔物が現れたり、

 他の冒険者の魔法だったり。

 でもその殆どは、本来現れるはずのない魔物が現れる、『イレギュラー』によるものだ。

毎年、このイレギュラーによって何万人もの人が亡くなっている。


 もしかしたらと思い、音が聞こえた方へ向かうと、



「い、いや……こないで……」



 恐怖で腰が抜けているのか、地面に座ったまま呆然とする女の子と、その目の前に悠然と佇む『氷冰竜アイスドラゴン』。

 氷冰竜アイスドラゴンはゆっくりと口を開け、そこに禍々しい氷の魔力を溜め始めた。


 あの構えは……ブレスか!


 ドラゴンによって得意とする攻撃魔法は違うが、全てのドラゴンに共通して、ブレス攻撃は特段威力が高い。


 あの女の子に放とうものなら、彼女は一瞬にして凍るだろう。


 しかも、ドラゴンの纏っている魔力からして、奴が使う中で1番威力の高い魔法『氷冰之勁風コンジェラシオン』を放つつもりだ。

そんなもの放たれたら女の子どころか、このダンジョン全体が凍りつく。


 それほどまでにドラゴンの纏う魔力は凄まじかった。





 仕方ない。彼女を助けるか。


 面倒事は嫌いだけど、だからといって目の前で殺されかけている女の子を見捨てるほど僕は腐っていない。


 恐らく、あと10秒ほどで氷冰竜アイスドラゴンは魔法の準備が完了するだろう。

それまでに片をつける。


 僕の魔法は少し特殊だ。

 一般的な人が使う魔法は殆ど使わない。

 その代わり、僕のスキルによって生み出された創作魔法を使っている。

 これは、既存の魔法と比べてとてつもなく威力が高いが、魔力消費が激しい。


 まぁ、そのデメリットも魔力の量が多い僕にとってはあまり気にならない。

 だから僕は、手に持つ刀に魔力を纏わせ、創作した火炎系魔法を発動する。



烽火連天ほうかれんてん



 瞬間、爆発的な力が加わり加速した僕は、

 氷冰竜アイスドラゴンの頭部へ一瞬にして肉薄する。


 そしてそのまま氷冰竜アイスドラゴンの脳天へ刀を突き刺す。


ボシュゥゥゥゥ!


 そんな、水がとてつもない熱で蒸発するような音が辺りに響き渡った。


 氷冰竜アイスドラゴンの頭部はとてつもない熱で焼かれ、黒い灰となって燃え尽きた。


 そう、燃え尽きたのだ。


 僕の創作系魔法は総じて威力が高い。


 焦っていたのもあって、その中でも威力に特化した魔法を発動してしまった。

 その上、少し込めた魔力が多かったのか、氷冰竜アイスドラゴンは悲鳴を上げることすら叶わず燃え尽きてしまったよう。


 時間にして0.2秒ほどで燃え尽きた。



 氷冰竜アイスドラゴンの素材は主に頭部から取れる。

 牙、角、鱗、眼球。


 つまり僕は今、氷冰竜アイスドラゴンから取れる素材全てをダメにしたことになる。


 まぁ今回ばかりは仕方ない。


 女の子を助けることは出来たし、素材が必要になったら自分で取りに行けばいいことだ。



「ふぅ。何とか間に合ったか。」



 そこで僕は地面に座りこんでいた女の子のことを思い出し、彼女の無事を確認する。



「間に合って良かったです。お怪我などはありませんか?」



 そう言って振り返った僕の視界に映ったのは、呆然とする彼女とその周りに浮かぶ、ドローン型のカメラだった。



 あれ?まって?もしかしてこの子ダンジョンライバー?




 …………………
















 ハァ。















 絶対面倒事になるやつじゃん!!!!




───────────────────


 時は、彼が配信者の女の子を助ける少し前に遡る。


 高校2年生の白雫つくもしずくは、ダンジョンに潜っていた。


 場所は都内でも有名な新宿ダンジョン。


 高2でランクCの探索者である彼女は、上級探索者への登竜門として知られる、ランクBの新宿ダンジョンにてダンジョン配信を行っていた。



「みんな〜!今日は上級探索者への登竜門と呼ばれる、あの!新宿ダンジョンに来ていま〜す!」



 そう言って彼女──雫は、ぴょんぴょんと跳ねながら両手を振る。



"しずくちゃんついに新宿ダンジョンか!"

"しずくちゃん最近ランクCに上がったって言ってたけど、大丈夫?"

"まぁしずくちゃん強いし大丈夫でしょ!"

"俺は心配だなぁ……"

"あんまり深いところまで潜らなければ平気でしょ"

"俺はしずくちゃんを信じてる!"



 彼女を応援するコメント、心配するコメント、彼女に対する様々な反応が伺える。


 同接、約25万8000。

 この数字からもわかる通り、彼女がダンジョンライバーとして、成功していることが分かる。



「よぉ〜し!今日は頑張るぞ〜!」



 えいえいおー、と雫は片手を突き上げる。

 気合十分、意気揚々と彼女はダンジョンへ挑んで行った。






 彼女がダンジョン配信を初めてから2時間ほど、探索は順調に進んでいた。


 現在、新宿ダンジョンの中層、ランクC相当の場所まで進んでいた。



「ふっふ〜ん!今日はなんだか調子がいいみたい!」



 雫はここまで、全く苦戦することなく進んで来た。

 そのせいか、彼女は少しばかり調子づいていた。



"大丈夫?いつもよりペース早いけど気をつけてね"

"あんま調子乗らない方がいいよ、危ないから"

"周りとかちゃんと警戒してね?"

"しずくちゃん確かに今日は調子良さそうだけど……"

"ちゃんと休憩とってる?"

"てかそろそろ危なくない?もうランクCくらいの魔物が出てきてるし"



「大丈夫!ちゃんと警戒はしてるから!」



 コメントの心配にそう返した彼女は、そのままさらに奥へと歩を進める。


 途中、新たに魔物が数体現れたが、彼女はなんの苦もなく魔物を倒していく。



「よし!全員倒し終わったね!」



 ここまで順調に進んでいた為、注意が疎かになっていたのだろう。

 彼女の足元近くに浮かぶ、淡く輝いた魔法陣に彼女は気づかなかった。


 彼女の足がその魔法陣を踏みしめた瞬間。



「えっ!?きゃあ!」



 ダンジョンの道中にあるトラップ。

 その中でも彼女は最悪に近い、『下層へと飛ばされるトラップ』を引き当ててしまったのだ。

 転移先に氷冰竜アイスドラゴンがいるというおまけ付きで。







 数十秒後。


 転移が終わり、彼女の目先に拡がっていたのは。

 全身を淡い蒼の鱗で覆った氷冰竜アイスドラゴンが悠然と佇んでいた。



"氷冰竜アイスドラゴン!?なんでこんなとこにいんだよ!"

"いや……しずくちゃんが飛ばされたの転移トラップだよな……?なんでこんなとこに氷冰竜アイスドラゴンが……"

"いやいや!氷冰竜アイスドラゴンって、ランクSのモンスターだろ!?なんでランクBの新宿ダンジョンなんかにいんだよ!?"

"まさか、イレギュラーと転移トラップが同時に!?"

"嘘だろ!?そんなことあんのかよ!?"

"まずいまずい!しずくちゃん!今すぐ逃げて!超逃げて!"

"いや無理だろ!相手がドラゴンじゃ逃げれっこないって!"



 コメントの視聴者達も混乱している。


 無理もない。転移トラップで飛ばされたと思ったら目の前にドラゴンがいるのだ。

 正気を保っていられる人間の方が少ない。


 そう。それは彼女──雫も例外では無い。



「い、いや……こないで……」



 恐怖で足が竦む。腰が抜けて地面にへたり込むことしか出来ない。

 こんな状態では逃げることも叶わない。


 いや、仮に体が動いたとしても無理だろう。

 相手はあのドラゴンなのだ。



 ドラゴンを目にして彼女の頭に浮かんだのは、これまでの記憶。


 父と母に連れていってもらった遊園地。

 両親に応援され挑んだ小学校の運動会。


 初めて行った修学旅行。

 友達に勧められて始めてみたダンジョン配信。


 そんな、彼女にとっても思い出深い数々が次々と脳裏に浮かんでは消えてゆく。



 わたし、死んじゃうのかな……

 いやだよ……死にたくないよぉ……

 お父さん………お母さん………



 死にたくないと思いつつも、どこかそれを受け入れている自分がいて。

 彼女は、もうここから助かる道は無いと、無意識のうちに悟っていた。


 そんな、もう全てを諦めた気持ちの中。


ドォン!!!


 轟音と共に彼女の目に飛び込んできたのは、

氷冰竜アイスドラゴンの頭に高速で飛来し刀を突き刺す、

そしてその頭を焼き尽くさんとする炎を操る、

高校の入学式に一目惚れした相手───


 神来社久遠からいとくおん


 その人だった。


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