《声劇台本》朝寝坊は計画的に。

和泉 ルイ

朝寝坊は計画的に。

表記:女子高生(女)男子高校生①(男①)男子高校生②(男②) ひと台詞のみ教師(女兼用、別の人でも可)

*眩い 読み方:まばゆい


女:生まれたばかりの小鹿みたいに足が震えるのに、あの眩い世界に吸い寄せられてしまう。滴る汗に鼓膜が破れるくらいの歓声。いつだって全力だった、ぶつかり合って喧嘩してわけもなく泣いた日々も今日のこの時間のため!このステージのスポットライトは私たちだけのもの!あの眩い世界でやっと、やっと…

SE:アラーム音

女:瞼を開けた先は見慣れたいつもの自分の部屋だった。時計は午後一時二十分を指している。

(元気よく思い切り叫んでください)

女「ね、寝坊したあー?!!」


男②「なあ、あいつまだ来ねえの?」

男①「まだだねぇ…ラインに既読すらつかないもん」

男②「もうこれ以上順番変えてもらえねーべ。元々、後半組だったわけだし」

女(別キャラ教師兼用)「おーい、遅刻魔三人組。そろそろ出番な訳だけど…遅刻数トップの彼女はまだ?」

男②「まだなんすよーそれが、なんと!連絡すらつかないんです!終わった!」

男①「勝手に終わらすな馬鹿!俺もう一回…あ」

男②「お、連絡来たんじゃね?!」

SE:通知音

女「ごめ!いま、自転車!マッハで向かってるから繋いどいて!」

男①「繋ぐってお前…」(次の台詞を被せる様に)

男②「もう待てねえから秒で来い!」

SE:通話終了音

男①:やっと来た(女の名前)からの電話は(男②の名前)の手によって勝手に切られた。

男①「お前何勝手に…」

男②「あのまま通話してても意味ないじゃん。(女の名前)はこっちに向かってる。俺たちは出番が来たらステージ温めておく。それ以上にできることはない」

男①「いや、でも」

男②「あのまま通話してたらお前説教始めるだろ。そんなものは後回し!」

男①「それは…まあ、否定できないけど」

男②「だろ?あのスポットライトをどれだけ待ち望んだか!やっとここまで来たんだぞ、ボーカルの遅刻くらいなんともない!今までの方がずっとずっと大変だっただろう?」

男①:そういわれると何も言えなくなるくらいには今日までの道のりが大変すぎて。他のグループが立っている憧れのステージを見てはしゃぐチームメイト。あそこに立てるなら、その他は些細なことだと言い切ってしまえる彼が眩しくて思わず目を細めた。

男②「な?俺らなら何とかなると思わない?」

男①「確かにチーム解散の危機の時よりは今の方が幾らかマシか…」

男②「あと、地域の夏祭りな!あの日はホント終わったと思った!あの鬼教師め、ちょっとくらい大目に見てくれたっていいのによ〜!」

男①「あれはお前と(女の名前)のせいだろうが。大体、普段から真面目に勉強に取り組んでおけば補習になんて事にはならないんだよ」

男②「それが出来てりゃ2人揃って赤点の補習祭りにはならなかったんだわー」

男①:あの時もあの時も、と酷かった思い出を引っ張り出していれば、出番です、と声が掛った。我がチームリーダーはまだ来ない。

男①「ったく、しょうがない馬鹿ばっかりだ」

男②「そんなチームに属してるお前も割とお馬鹿だと思うぜ?」


女「こんな大寝坊はいつ以来だっけ」

女:自転車置き場、下駄箱、普段だって走るの禁止の廊下を全速力で駆ける。息が上がって苦しい。口の中は鉄の味、やってしまった焦りで何も考えられない。ただあの憧れのステージを逃したくなくて、ひたすらこの長い廊下を走る。こんな、私の大遅刻なんかで今までの努力苦悩を白紙になんてしたくない!できない!

SE:ドアを開ける音

女:暗闇の中、体育館の端を歩いてステージ裏側へ。チームメイトたちはステージの上で待っててくれている。曲はもうすぐサビにさしかかる。もしかしたら雑談も尽きてしまっていたのかもしれない。…(男①の名前)の刺すような視線が痛いから。

男①「このあと憶えてろよ!」(囁きで)


※場面変更 ステージへ


女:サビから飛び入り参加すれば、そこは夢にまで見た眩い世界。いやほんとに夢に見たんだけど、しかもそのせいでがっつり遅刻して、多分この後、(男①名前)からお説教も食らうんだけど!

女:それでもやっぱり憧れた私たちのステージは綺麗で。鼓膜が破れそうなくらいの歓声も熱気も、一度味わったら抜け出せそうにない高揚感も。この場所でこの瞬間でしか味わえない特別製。

女・男①・男②(三人同時)「やっぱこの瞬間が好きだ(わ)!!」


※場面変更 ステージ裏


男①「で?」

女:私は今、ステージ裏で正座させられている。ステージ撤収班の邪魔にならないように隅っこで。夢のひと時の余韻を味わう間もなくお説教コースに突入した。

男①「で。俺らに何か言うことは?まさかないなんて言わないよな」

男②「まあまあ、何とかなったんだし…」

男①「なんとかなったんじゃない、午後からのステージ発表の人たちと運営と!俺とお前でなんとか“した”んだ。おい、(女の名前)。お前昨日は明日寝坊しないように早く寝るって言ってたよな」

女「言いました。し、早めに夜九時には寝ました」

男①・男②「なんでそれで寝坊するんだ!!」

女「それがわからないから遅刻数トップなんだろうね…」

男②「お寝坊さんは計画的に、だね。ちゃんちゃん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

《声劇台本》朝寝坊は計画的に。 和泉 ルイ @rui0401

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ