婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

第53話 皆に心配をかけました

ゆっくり瞼を上げると、見覚えのない天井が。ここはどこかしら？それに体中が痛いわ。

「マーガレット、目が覚めたのだね。よかった」

誰かに抱きしめられる感覚が。ただ…痛いわ…

「ローイン、マーガレット嬢は怪我をしているのだから、嬉しいからといって抱き着くのは良くないよ」

「そうだった、嬉しくてつい…すまない、マーガレット」

ゆっくりと私から離れるのは…

「ローイン様？ここは天国かしら？でも、体中が痛い。天国って痛みを感じるのかしら？それになんだか、病院の様だし…」

一体何が起こったのだろう。確か私は、ジェファーソン様から逃げるために、馬車から飛び降りた。そして死を覚悟した時、ローイン様の幻を見たのよね。そこで意識を失って…

「マーガレット、ここは天国ではないよ。病院だ。それにしても、馬車から飛び降りるだなんて。血だらけの君を見つけた時、本当に生きた心地をしなかったよ。その上、あのような場所で、その…なんというか…」

なぜかローイン様がもごもごしている。血だらけの私を見つけた？もしかして幻だと思っていたローイン様は、本物だったの？という事は…急に恥ずかしくなって、俯いてしまう…て、恥ずかしがっている場合ではない。

「私が意識を失う時に見たローイン様は、本物だったのですね。ローイン様、あの時の言葉に、嘘偽りはありませんわ。また生きてローイン様に会えるだなんて、夢みたい」

もう二度とローイン様に会えないと思っていた。でも、まさかまた会えるだなんて。もう私は、自分の気持ちを隠したりなんてしない。これからはきちんと気持ちを伝えていこうと思っているのだ。

「マーガレット、俺も君を愛している。これからはずっと一緒だよ」

再びローイン様が抱きしめてくれる。今度は優しく抱きしめてくれている様で、痛くはない。

「ローイン、よかったね。マーガレット嬢も目覚めた事だし、僕はそろそろ帰るよ。きっとサラも心配しているだろうし」

ふと入口の方を見ると、何とノエル殿下の姿が。もしかしてノエル殿下まで、心配して来てくださったのかしら？

「ノエル殿下、本当に妹の為にありがとうございました」

お兄様が深々と頭を下げている。

「バロン殿、本当に気にしないでくれ。それじゃあ、僕はこれで」

笑顔で去っているノエル殿下。

「マーガレット嬢の意識も戻ったし、私たちも一度屋敷に戻ろう。ローインも、着替えた方がいい」

ローイン様をよく見ると、服にかなり血が付いている。それに、髪もボサボサだ。

「正直今、マーガレットと離れるのは辛いが、やらなければいけない事もあるし、一度帰るよ。マーガレット、すぐに戻って来るから、待っていて欲しい。それから、今日から泊まり込みで看病するから。もう二度と、君から離れるつもりはないから」

えっ？泊まり込み？

「それではこれで失礼します。マーガレット、すぐに戻ってくるからね」

急ぎ足で部屋から出て行ったローイン様と侯爵様。

「マーガレット、俺も一旦家に帰るよ。父上や母上、ミリアムも心配しているだろうし。それから今回マーガレットが生きていられるのも、ローイン様はもちろん、グランディス侯爵やノエル殿下、さらに沢山の人の協力があったからだ。その事を覚えておいて欲しい。それじゃあ、また来るから」

お兄様も部屋から出て行った。どうやら私は、沢山の人に助けられて今、生きている様だ。とにかくローイン様が戻ってきたら、まずはお礼を言わないと。

「お嬢様…命が助かって本当によかったですわ。お嬢様にもしものことがあったら、私は…」

ポロポロと涙を流すのは、リリアンだ。よく見ると目は赤く腫れあがり、疲れた顔をしている。きっとずっと泣いていたのだろう。

「リリアン、心配をかけてごめんね。こんな私だけれど、これからも支えてくれるかしら？」

「もちろんですわ。私はずっとお嬢様の傍におります。居させてください！」

「ありがとう。リリアン、あなた、酷い顔よ。ここは病院だし、何かあったら看護師さんが対応してくれるだろうから、一度休んで」

「いいえ、私は大丈夫ですわ。お嬢様の傍におります」

「でも、あなたが倒れてしまったら、誰が私の面倒を見るの？お願い、今日はゆっくり休んで。あなたも夜通し、私の無事を祈り続けてくれたのでしょう？しっかり休んだら、また私のお世話をして頂戴」

「しかし…」

私の問いかけに、リリアンは尚も難色を示している。

「お嬢様は私達が見ているから、どうかリリアンは休んで。お嬢様もああ言って下さっているのだし、あなたが倒れたら困るのはお嬢様よ」

近くにいた別のメイドたちにも促されたリリアン。

「分かりました、すぐに戻って参りますので、待っていてください」

そう言い残し、病室を後にした。リリアンにまで心配をかけてしまったのね。

沢山の人が私を心配し動いてくれた。彼らの為にも、早く元気にならないと。