第54話 やっと退院できました

「マーガレット、アーンして」


「こうですか?」


大きく開けた口に食べ物を入れてくれるローイン様。あの事件から、早1ヶ月。あの日以降、すっかりラブラブになった私達。そして意識が戻ってから1週間後、病院で私たちは婚約を結んだ。


正式に婚約者になったローイン様は言葉通り、ずっと私の傍にいてくれるのだ。そのお陰でこの1ヶ月、病院生活も苦痛ではなかった。ちなみにまだ入院中だが、思ったよりも怪我の治りが早く、明日退院できることになっている。


あの時は本当に死を覚悟したが、皆の協力のお陰で、今も生きていられるのだ。ちなみに私を誘拐したジェファーソン様だが、家の護衛たちが彼を発見し捕まえようとしたところ、自ら命を絶ったとの事。


護衛たちの話では


“君たちに捕まるくらいなら、この場で消えるまでだ!待っていてね、マーガレット。僕も今からそっちに行くから”


そう言って自ら命を絶ったらしい。どうやら彼の中で、私はもう命を落としているという設定になっていた様だ。正直、彼が一体何をしたかったのか、よくわからない。出来れば生きて罪を償ってほしかった、というのが正直な感想だ。


こうして私の誘拐事件は、何とも後味の悪い形で幕を閉じたのだった。


「マーガレット、急に難しい顔をしてどうしたのだい?」


「いえ、何でもありませんわ。明日にはやっと退院できると思うと嬉しくて」


「やっと入院生活も終わるね。そうだ、マーガレット。何かしたい事はあるかい?君が望む事なら、何でも叶えてあげるよ。入院生活を頑張ったご褒美だ」


「それでしたらローイン様の領地の、海に行きたいですわ。美しいエメラルドグリーンの海に、真っ青な空が見たいです」


「マーガレットは、そうやってすぐに俺を喜ばせて!わかったよ、近いうちに連れて行ってあげるね。ただ、結婚式の準備の打ち合わせなどもあるから、落ち着いてからでいいかな?」


「もちろんですわ。退院したら、早速ウエディングドレスのデザインも決めないと。私、ずっと病院で寝かされていたでしょう。だから、早く色々とやりたくてたまらないのです」


「いくら退院できるからって、無理は良くないよ。分かっているかい?」


「ええ、分かっていますわ」


分かってはいるが、これからの事が楽しみなのだ。

早く明日にならないかしら。



翌日

「やっぱり我が家がいいわ」


無事退院した私は、1ヶ月ぶりに自分の部屋へとやって来た。ふと机の上に置いてあるものに目が留まる。


「これは、私がデザインしたネクタイピンだわ。あの日、完成したのだった。とてもいい感じに出来ているじゃない。ちょうどいいわ、今日ローイン様に渡しましょう」


ローイン様の為に作った、ネクタイピン。エメラルドグリーンとブルーを基調にしたもので、予想以上の出来栄えだ。きっとローイン様も喜んでくれるわよね。


「さあ、お嬢様、お着替えをしましょう」


なぜか制服を持ってきたリリアン。


「なぜ制服なの?リリアン、もしかしてショックでボケてしまったの?」


「私はボケてなんていません!ローイン様が、お嬢様は突然学院に行けなくなってしまったから、心残りだろう。最後に学院ときちんとお別れをさせてあげたいとおっしゃられたのです。今は貴族学院はお休みですので、学院内を見るだけならと、許可が下りたとの事ですわ」


そうだったのね。ローイン様ったら、どこまでもお優しいのだから。


「分かったわ、すぐに着替えましょう」


制服に着替え、部屋から出ると


「マーガレットの制服姿、とてもよく似合っているよ。さあ、行こうか」


ローイン様が待っていてくれたのだ。2人で手を繋いで馬車に乗り込み、貴族学院を目指す。


「君にとって貴族学院は、あまりいい思い出ではないかもしれない。それでも、最後にきちんとお別れをして欲しくてね」


「ええ、リリアンから聞いておりますわ。ローイン様、いつも私の事を考えて下さって、ありがとうございます。あの日から学院には一度も行けていないので、今日は楽しみですわ」


話をしている間に、学院が見えて来た。2人で手を繋いで、1つ1つ見て歩く。3年間通った貴族学院。辛い事、楽しい事、色々な事があった。ジェファーソン様とマリンに裏切られ、クラスメイトからも無視され絶望した日々。


そんな中、目の前に現れたローイン様は、まるで絵本に出てくる王子様の様だった。彼のお陰で再び学院に通える様になったのだ。その後はたくさんの友達に囲まれ、とても楽しかった。色々とあったけれど、貴族学院は私にとって、大切な場所だ。


最後に2人でホールへと向かう。


すると…


「「「「マーガレット様(嬢)退院おめでとう(ございます)」」」」


「嘘…皆様…」


そこにはクラスメイトはもちろん、ノエル殿下やサラ様、先生や学院長先生まで待っていてくれたのだ。


「これは一体…」



※次回最終話です。

よろしくお願いします。

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