第52話 ノエル、ありがとう~ローイン視点~
「兄上、とにかく僕たちも行きましょう。ローインも」
ノエルと王太子殿下に連れられ、部屋へと入る。既に医師たちが治療を行っていた。
「これはかなり出血していますね。確かにここでは治療は厳しい。すぐに王都に運びましょう」
「あれがマーガレット嬢かい?酷いな…」
ポツリとノエルが呟いた。王太子殿下も目を丸くして固まっている。そんな彼らを他所に、医者たちが手際よくマーガレットを飛行船へと連れて行く。俺もマーガレットと一緒に飛行船に乗り込んだ。
すぐに出発する飛行船。医師たちが今できる施術を必死に行っている。ただ…やはり状況は良くないみたいだ。
「これは時間との勝負です。このままいくと、マーガレット嬢の命が持たない。とにかく出来る事をやります」
医師たちの険しい表情から、非常に危険な状態なのが分かる。
「ローイン、大丈夫かい?震えているじゃないか。今君の父上から今回の件、聞いて来たよ。まさか盗聴器や居場所を特定する機械の存在に気づかれていただけでなく、伯爵家の馬車を乗っ取り、まんまとマーガレット嬢を誘拐するだなんて…本当に恐ろしい男だね。それにしてもマーガレット嬢、思い切った事をしたね。馬車を飛び降りるだなんて」
いつの間にか俺の傍に来ていたノエルが、話し掛けて来た。
「ノエル、俺はあれだけジェファーソン殿を警戒していたのに、結局マーガレットを守れなかった。俺がマーガレットを見つけた時、彼女は既に…覚悟を決めていた様で…意識を飛ばす寸前、俺に愛していると言ったんだ…幸せになって欲しいとも…」
「そうか、マーガレット嬢もローインの事が好きだったのだね。サラの口ぶりから、何となくそんな気がしていたのだよ。せっかく両想いになれたのだから、何が何でも彼女を助けないとね」
珍しくノエルが真剣な表情をしている。なぜだろう、ノエルが傍にいてくれるだけで、心が落ち着く。
「ローイン、王都が見えて来たよ。貴族病院にこのまま着陸する予定だ。既に兄上が、貴族病院に連絡を入れてくれているから、すぐに治療に入れるだろう」
ノエルが言った通り、着陸と同時にマーガレットは医師たちによって、すぐに病院内へと運ばれて行った。俺も一緒に付いていこうとするが
「これ以上先は立ち入り禁止です。どうか部屋の外で待っていてください」
そう言って部屋には入れてもらえなかった。仕方なく外で待つ。ここでも俺は、ただ祈る事しかできないのか…頼む、マーガレット、どうか助かってくれ。
「ローイン、マーガレット嬢の治療には時間がかかるそうだ。隣の部屋で休めるスペースを確保いたしたから、少し休みなさい。バロン殿も、どうか休んでください。あちらの部屋を確保いたしましたで」
父上が俺たちに休む様に声をかけて来た。でも…
「今のローインに休めと言っても無駄ですよ、侯爵。ローインは僕が付いていますから、どうか侯爵やバロン殿は休んできてください」
「ノエル殿下、それにグランディス侯爵もお心遣い感謝いたします。でも、妹が今まさに生死の境をさまよっている時に、ゆっくり休んでなどいられません。それからノエル殿下、妹の為に飛行船を出していただき、ありがとうございました。本当になんとお礼を申し上げたらいいか…」
「バロン殿、気にしないで下さい。僕は王族として当たり前の事をしたまでですから」
笑顔でバロン殿に対応するノエル。結局父上もノエルもバロン殿も、マーガレットの家の使用人たちも、誰1人として施術室の前を動く事はなかった。
どれくらい待っただろう。いつの間にか世は明け、太陽が高く昇っている。
その時だった。施術室の扉が開いたのだ。
「マーガレット!!」
急いでマーガレットの傍に駆け寄った。あちこち包帯でグルグルに巻かれていて、とても痛々しい。それに意識もない様で、目も閉じたままだ。
「先生、マーガレットはどうなのですか?」
バロン殿が必死に医師に問いかけている。
「マーガレット嬢は、一命を取り留めましたよ。もう大丈夫です。怪我も全身打撲しておりましたが、そこまで酷くはありませんでした。ただ、出血が酷く、あと少し遅れていたら、助からなかったかもしれません」
マーガレットはやはり、かなり危険な状態だったのだな。でも、助かってよかった。安堵から、その場に座り込んでしまった。
「ローイン、大丈夫かい?よかったね。マーガレット嬢は、もう大丈夫だよ」
ノエルがにっこり微笑んだ。
「ノエル、本当にありがとう。あの時君が、飛行船を手配してくれたから…君は最高の親友だよ」
「ローインからお礼を言われると、なんだか照れ臭いな。それに親友なのだから、これくらい当然だろう?これからもずっと、僕の友人でいてくれるかい?」
「当たり前だろう。ずっとずっと、ノエルは俺のかけがえのない親友だ」
すっと手を伸ばすノエルの手をギュッと握った。持つべきものはやはり親友だ。彼が居なかったら、マーガレットはきっと…
まだ意識のないマーガレットをそっと見つめた。マーガレット、君の為に沢山の人が動いてくれたよ。俺の愛しい人、早く目を覚ましておくれ。
※次回、マーガレット視点に戻ります。
よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます