第51話 絶対に彼女を失いたくない~ローイン視点~

村に着くと、医者が集められすぐに治療を行った。


ただ…


「申し訳ございませんが、この村ではこれ以上の医療は出来ません」


そう言われてしまったのだ。


「それじゃあ、すぐに王都に連れて帰ろう。悪いが君たちも王都まで来てくれないか?褒美ならいくらでも出す。頼む」


必死にバロン殿が医者たちに訴えている。


「王都に行くのは構いませんが、王都までは馬車で5時間かかります。それまでまずお命が持たないでしょう。持って1~2時間が限度かと…」


「そんな…それじゃあ、マーガレットは…」


真っ青な顔でバロン殿がその場に座り込んだ。


「お嬢様!!!」


マーガレット嬢の専属メイドが、彼女に抱き着き号泣している。


嫌だ…彼女を失うだなんて…絶対に嫌だ…


「頼む、金ならいくらでも払う。だから、どうかマーガレット嬢を助けてくれ。君は医者なのだろう?頼む…」


必死に医者に頼み込む。俺の命を使っても構わない。だからせめて、彼女だけは助けて欲しい。やっと彼女の気持ちを聞けたのに、このまま失うだなんて、絶対に嫌だ…


もし彼女を失ったら俺はもう…


「止めなさい、ローイン。とにかくこれからどうするか考えよう」


「考えている時間なんてありません。このままだとマーガレット嬢は…」


その時だった。俺のポケットに入っている通信機が、ずっとなっている事に気が付いたのだ。通信機を見ると…ノエルからだ。待てよ、ノエルならきっと…


急いで通信機をオンにする。


“やっと出たね、マーガレット嬢が居なくなったと聞いて、心配…”


「ノエル、頼む。助けてくれ。マーガレット嬢があの男から逃げるために、馬車から飛び降り大けがを負ったんだ。村では治療が出来ない。彼女は持ってあと1~2時間くらいらしい。ノエル、助けてくれ。ノエルの家の飛行船を使わせてくれ…」


王族だけが所有する飛行船を使えば、マーガレット嬢は助かるかもしれないのだ。


“分かったよ、すぐに飛行船で向かう。それで場所は…”


「頼む、ノエル、助けてくれ」


“だから場所はどこだい?て、今のローインじゃあ話にならない。誰か近くにいないのかい?”


「ノエル、頼む…」


「ノエル殿下ですか?場所はディーナス村です。飛行船が着陸しやすいよう、灯りをともしておきます。どうかよろしくお願いします」


泣きじゃくって話にならない俺から通信機を奪うと、父上がノエルに伝えていた。


“わかりました。すぐに向かいます。30分以内には向かうと、ローインに伝えて下さい。それではこれで”


「ローイン、落ち着け。ノエル殿下が30分以内には来てくれる様だ。きっと王宮医師団も来るだろう。持つべきものは友達だな」


俺の肩を抱き、父上が呟いた。


ただ…どんどん顔色が悪くなっていくマーガレット嬢。必死に応急処置を医師が施している。


「マーガレット嬢、今ノエルが迎えに来てくれる。だから、どうか頑張ってくれ!」


彼女の手を握り、必死に訴える。温かくて柔らかい手…


ふとマーガレット嬢の最後の言葉が脳裏によぎる。


“ローイン…様…愛しています…どうか…お幸せに…なって…”


「マーガレット嬢、いいや、マーガレット。俺も君を心から愛している。一緒に幸せになろう。だから、どうか俺を残して逝かないでくれ…」


必死にマーガレットに話しかける。やっと心が通じ合ったのに、このまま永遠の別れなんて考えられない。


「ノエルはまだ来ないのか?あいつ、一体何をやっているのだろう」


もう随分と時間が経ったような気がする。このままでは本当にマーガレットが…


「まだノエル殿下と通信を切ってから、10分もたっていない。それからさっき、ジェファーソン殿が見つかったらしい。ただ…」


ジェファーソン!名前を聞いただけで、虫唾が走る。あの男のせいで、マーガレットは…


マーガレットにもしものことがあったら、俺は絶対にあいつを許さない!八つ裂きにしてもたらないくらいだ!


ただ今は…


そっとマーガレットを見つめる。再び彼女の手を握り、何度も何度も声をかける。頼む、どうか持ってくれ!


その時だった。


爆音が響き渡る。この音は…


急いで外に出ると、飛行船がゆっくりと降りてくる。やっと来たか!飛行船が着陸するや否や、ノエルが下りて来た。


「ローイン、大丈夫…ではなさそうだね。それでマーガレット嬢は?」


「ノエル、やっと来てくれたか。こっちだ。頼む、早くマーガレットを!」


「分かっている。皆、すぐにマーガレット嬢の治療にあたってくれ」


続々と医師たちが機材を持って降りて来た。さらに


「ローイン、大丈夫か?かなりやつれている様だが。それで、マーガレット嬢は…」


「王太子殿下も来てくださったのですか?マーガレットは…」


血だらけのマーガレットの姿を思い出した瞬間、涙が込みあげてきた。

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