第33話 少しずつ前に進んでいます
ローイン様のお誕生日パーティーという名の暴露イベントが終わってから、早2ヶ月。
すぐに処分が決まった令息たちとは違い、中々処分が決まらなかったマリンも、ついに私への名誉棄損罪と侮辱罪で有罪が確定し、この国の最北端にある収容所に収容された。
収容所事態非常に過酷な場所なのに、最北端にある収容所はさらに過酷と聞く。正直少し可哀そうな気もしたが、あの時私に浴びせた暴言や、彼女の嘘のせいで生きる事すら辛かった日々を思い出すと、自業自得だと感じる自分もいるのだ。
そして先日、貴族たちから罵声を浴びせられながら、収容所に連れて行かれたとの事。私は実際にその様子を見ていないが、見に行った令息たちの話では、相当ひどい扱いを受けていたらしい。
“もう令嬢の面影なんて微塵もなかったよ”
そう教えてくれた。マリンの両親も慰謝料を支払い切れず、爵位をはく奪、一生強制労働施設で過ごすことも決まっている。マリンは自分の人生はもちろん、家族の人生も滅茶苦茶にしたのだ。少しは自分の浅はかな行動を反省してくれることを願っている。
そして私はというと、毎日クラスメイト達と楽しい時間を過ごしている。ショックで寝込んでいた令嬢たちも、学院に通い始めた。そして彼女たちからも、改めて謝罪を受けた。
また、前代未聞の集団婚約破棄があった事を受け、何の落ち度もない被害令嬢たちを救うべく、貴族学院を始め貴族たちが色々と手を尽くしてくれている。
我が国では、学院を卒院と同時に、結婚する貴族も多い。この国の結婚適齢年齢は、17~20歳と言われている。その為、急に婚約者を失った被害令嬢たちの為に、頻繁に夜会が行われているのだ。
中には王宮主催の夜会もあり、国を挙げて被害者の令嬢たちの支援を行ってくれている。そのお陰か、婚約者の不貞にショックを受けていた令嬢たちも、少しずつ前を向き始めている。
「マーガレット様、またボーっとしてどうされたのですか?」
おっといけない、ついまた色々と考えてしまった。ちなみに今は、貴族学院のお昼休み。令嬢たちと一緒に昼食をとっているのだ。
「いえ、何でもありませんわ。それよりも、来月の夜会のドレス、どうされますか?」
来月も私達令嬢の為に、ノエル殿下が王宮で夜会を開いてくれることになっているのだ。
「私は自分の瞳の色のドレスを着ようと思っております」
「私はその…」
少し恥ずかしそうに言葉を詰まらせているのは、ユア様だ。副騎士団長をしていらっしゃる侯爵令息様の猛アプローチを受けているのだ。彼は熱心にユア様の家に通い、両親とも仲良しだとの事。
ユア様もそんな彼に惹かれている様だ。彼女の様に、他の令息から猛アプローチを受けている被害令嬢は意外に多い。中には既に、親同士が話し合い、婚約できる時期に来たら婚約をするという約束を交わしている令嬢もいるのだ。
私達被害令嬢たちを全力で支えて下さる貴族の皆様には、本当に感謝しかない。
「マーガレット様は今回もローイン様にエスコートして頂けるのでしょう?」
「ええ」
実はローイン様から気持ちを伝えられたあの日から、ローイン様から猛アプローチを受けている。最初は戸惑っていたが、今では随分と慣れた。
それに彼は、いつも私の気持ちを優先してくれる。それがなんだかとても新鮮なのだ。
ジェファーソン様も私を愛してくれていたけれど、今思えばいつも監視されていて少し息苦しかったのだ。
ジェファーソン様…
彼と婚約して7年、ジェファーソン様は少し私を縛り付ける事もあったけれど、それでも私は幸せだった。でも、もう二度とあの日には戻れないのだ。何より私が、彼を許すことなど出来ないのだから。
つい3ヶ月前までは、まさかこんな事になるだなんて夢にも思わなかった。よく考えてみると、まだあの悪夢の光景を見てから、3ヶ月しか経っていないのね。なんだかもう何年も前の様な気がするわ。
それくらい私にとって、この3ヶ月は色々とあったのだ。でも、それももうおしまい。私も他の令嬢を見習って、少しずつ前に進んでいきたい。
幸いこんな私を愛してくれる殿方もいるのだ。正直まだ、ローイン様が本当に私の事を愛してくれているだなんて信じられない。それでも私に寄り添ってくれる彼と歩む未来も考えていきたいと思っている。
「またマーガレット様はボーっとして。でも、色々と考える事がありますわよね。私もこの2ヶ月、本当にたくさん涙を流しました」
「私もですわ。まさか愛していた婚約者が、あんな不貞を行っていただなんて…思い出しただけでも吐き気がします」
「私もです。でもこうやって、私と同じように傷つき苦しんだ同志たちがいると思うと、なんだか心強いのですわ。私達、苦しんだ分絶対に幸せになりましょうね」
そう言って令嬢たちが笑っている。そうよね、いつまでもくよくよ考えても仕方がない、私もこれからは、前を向いて生きていこう。
「マーガレット様、見て下さい。木の陰からローイン様がこちらの見ていらっしゃいますわ。きっとマーガレット様と一緒にいられないか、様子を見に来たのですね」
そう言って令嬢たちがくすくすと笑っている。もう、ローイン様ったら。彼はいつも、ああやって私の様子を伺っているのだ。
「ローイン様、またそんなところから隠れて見て。お声をかけて下さればいいのに」
「すまない、君が万が一令嬢たちに虐められていたらと思うと、気が気ではなくてね」
どうやらまだローイン様は、私が令嬢たちに無視されていた時の事を心配してくれている様だ。本当にこの人は…
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