第32話 大変な事になってしまった~ジェファーソン視点~

「朝だ、起きろ!いつまで寝ているのだ」


乱暴に叩き起こされた僕は、急いで着替えを済ませ、今日も作業場へと向かう。この生活も早1ヶ月だが、まだ慣れない。ここでの生活は、貴族として生活していた僕たちにとっては、非常に過酷で辛いものだ。


今まで着替えや湯あみを使用人たちが行ってくれていたが、全て自分で行わないといけない。さらに朝から晩まで、作業をさせられるのだ。毎日クタクタになりながら作業を行っている。さらに食事も質素で、固いパンにスープ、少しのサラダが出るくらいだ。もちろん、足りる訳がない。


重労働なうえ質素な食事、慣れない自分の世話に随分やつれてしまった。それもこれも、あの女の口車に乗せられ、最愛のマーガレットを裏切った罰なのだろう。


マーガレット…


僕にとって、誰よりも大切なマーガレットを傷つけ、そして失ったのだ。毎日布団の中で涙を流す日々。


今日も重労働を終え、質素な食事を済ませ部屋に戻ってきた。


「皆、聞いてくれ。今家から手紙が届いたのだが、俺を勘当すると書いてある。あんな女の誘惑に負けて一時の快楽におぼれたばかりに…学院に戻ったら、ココアに必死に謝って、一生をかけて彼女に尽くそうと思っていたのに…」


泣きじゃくる友人。既に3人の令息が家から勘当され、この施設を去って行った。貴族でなくなった彼らは、罰も免除されるのだ。ただ…貴族で無くなると言う事は、ある意味施設で生活するよりも過酷なのだ。


毎日勘当されるかもしれないという不安を抱えつつ、地獄の様な生活を送る日々。それでも僕たちは、同じ境遇にある令息たちと支え合い、生きている。


「俺、家に帰れたら改めてアリアに謝罪しようと思っている。アリアは俺の事、大好きなはずだから、絶対に許してくれると思っているんだ。それに俺のこんなやつれた姿を見たら、きっと心配してくれるはずだ」


「僕も家に帰ったら、すぐにでも謝って婚約を結び直すつもりだ。婚約さえ結びなおせば、きっと僕の名誉も回復すると思う。とにかく、何としてでも再び婚約を結び直さないと」


「そうだな、俺もそうするつもりだ。大体俺たちは、あの性悪女に騙された、ある意味被害者だと思わないか?」


「俺もそう思っていた。大体あの女が誘惑してこなければ、俺たちはこんな目に合わなくて済んだんだ。それにローイン殿、あんな風に暴露しなくてもいいと思わないか?」


皆が口々に文句を言っている。彼らの言う通り、僕たちにも落ち度はあったが、ある意味被害者でもある。


「ジェファーソン、お前は途中で帰ったから知らないかもしれないが、どうやらローイン殿はずっとマーガレット嬢を好きだったみたいだぞ。お前が退場した後、皆の前で愛の告白をしていたからな。もしかして、ジェファーソンからマーガレット嬢を奪う為に、あんな演出をしたのかもしれないな」


「何だって!マーガレットの事を、ローイン殿が?一体どういうことだ?マーガレットとローイン殿には、一切関係がなかったはずだぞ。それなのに、どうして」


「ローイン殿の瞳って、特殊だろ?その事で昔はからかわれていたりしていた様なんだ。そんな中、マーガレット嬢が、ローイン殿の瞳を褒めたとかどうとか言っていた様な…」


マーガレットがローイン殿の瞳を褒めただって。昔のマーガレットは、人懐っこい子だったから、きっとその時に見初められたのだろう。まさかローイン殿が、マーガレットを好きだっただなんて…


ん?という事は…


「それじゃあ、どうしてローイン殿は罪に問われないんだ?だって、一応あの女と婚約していただろう?それなのにマーガレットを愛していただなんて、立派な不貞だろう!」


そうだ、あの男だって不貞をしていたのに、どうして僕たちだけこんな目に合わないといけないんだ。


「それが、婚約破棄をした後に気持ちを伝えたのだから、問題ないみたいな空気になっていたぞ。ローイン殿は英雄みたいな扱いを受けていたからな…」


「お前、あの状況でよく周りの事を見ていたな。俺はそれどころではなかったのに…」


確かにこいつ、よく見ていたな。て、今はそんな事どうでもいい。侯爵令息でもあるローイン殿に婚約を申し込まれたら、きっとマーガレットの家は断る事は出来ないだろう。それに、辛いときに助けてくれたあの男に、もしかしたらマーガレットも…


嫌だ、マーガレットは僕の大切な人なんだ。あんな男なんかに奪われたくはない。


大丈夫だ、確か婚約を結び直すためには、破棄後半年経たないと無理なはずだ。ローイン殿がマーガレットの家に婚約を申し込む前に、マーガレットを丸め込めばいいだけだ。


元々マーガレットは、素直で僕に従順なタイプだ。誠心誠意謝って、マーガレットに尽くせばきっとうまくいく。それに僕たちは、7年というかけがえのない思い出があるのだから。




※次回、マーガレット視点です。

よろしくお願いいたします。

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