第27話 家族はローイン様が気に入った様です

「ローイン殿と言えば、マリン嬢の元婚約者で、彼女の悪事を暴露した人物だよな。俺からもお礼を言わないと」


急いで外に出ていくお兄様。私達もお兄様の後を付いていく。すると、確かにそこには、ローイン様の姿が。


「ローイン殿、よく来てくださいました。昨日は妹、マーガレットの無念を晴らしてくださったと聞いております。本当にありがとうございました。あなた様のお陰で、あの不貞男から解放されました。このままマーガレットが何も知らずに、あの不貞男と結婚していたらと思うと…」


クラクラと倒れそうなふりをするお兄様を、お義姉様が支えている。


「おっと、立ち話も何ですから、どうぞこちらに」


お兄様がすかさずローイン様を屋敷に迎え入れている。さっきとはうって変わって、物凄い笑顔だ。


「今日は急に押しかけてしまって、申し訳ございません。どうしてもマーガレット嬢の事が気になりまして。マーガレット嬢、俺が証拠を提示するのが遅れてしまったせいで、1ヶ月もの間、嫌な思いをさせてしまってすまなかった」


なぜかローイン様が頭を下げたのだ。


「ローイン様、頭をお上げください。あなた様のお陰で、全てが明らかになったのです。そのお陰で私は、ジェファーソン様と無事婚約破棄が出来ましたわ。それにマリンも、今後きちんと裁かれると思います。私を地獄から救い出していただき、ありがとうございました」


改めてローイン様にお礼を言った。彼は本当に、私を助けてくれた神様の様な人なのだ。


「父やマーガレットから話しは聞いております。うちの親は愚かにも娘の言う事を信じず、あの不貞男の言う事を信じてしまう様などうしようもない親です。そんな親の目を覚まさせてくださり、さらに妹の名誉まで回復してくださり本当にありがとうございました。私も偉そうなことを言っておりますが、妹が苦しんでいるのに、呑気に領地で生活していたのですから、人の事は言えませんがね。それにしても、ご自分の元婚約者に裏切られて辛いでしょうに、マーガレットの事を気にかけて下さるだなんて…」


なんてお優しい方なんだ!と言わんばかりの眼差しを向けているお兄様。さらにお義姉様も


「本当にお優しい方ですわ。マーガレットちゃんは本当にいい子なのです。それなのにあの鬼畜共にボロボロにされて。その上、あの不貞男は、まだマーガレットちゃんを諦めていない様で、先ほど乗り込んできたのですよ。あの…こんな事を言うのはおこがましいとは思いますが、どうか今後もマーガレットちゃんの事を気にかけてあげて下さいませんでしょうか」


そう言って頭を下げたのだ。


「アディナス伯爵令息夫人、どうか頭をお上げください。昨日マーガレット嬢やご両親にはお話ししましたが、俺はマーガレット嬢を心から愛しております。彼女は俺の人生を、180度いい方向に変えてくれた、かけがえのない令嬢なのです。お互い婚約破棄をした今、やっと自分の気持ちに正直になれたのです。それよりも、ジェファーソン殿が押しかけて来たとは、本当ですか?」


お兄様やお義姉様は、ローイン様が私の事を好意的に思って下さっているの事を知らないのよ。それなのに、急にそんな事を言うだなんて。お兄様もお義姉様も、口をポカンと開けて固まっているじゃない!


「あの、ローイン様。その件は…」


「ローイン殿、妹を愛していたとは、どういうことですか?わかる様に説明して頂きたいのですが…」


お兄様がポツリと呟いた。するとローイン様が、今までの出来事を話していた。どうやらローイン様は、ずっと瞳の色が左右違うという事で悩んでいたとの事。そんな中、私の言葉をきっかけで、自分の瞳を受け入れられた事。


私との婚約を考え、我が家に婚約を申し込もうと考えたタイミングで、私がジェファーソン様と婚約してしまった事。私への気持ちを封印し、マリンと婚約したがとんでもない女だとわかり、婚約破棄を目指していた事。


そして昨日、実現したことを丁寧に説明していた。


「昨日、マーガレット嬢が変わらず俺の瞳を美しいと言ってくれたのです。それが嬉しくて嬉しくて。俺は要領が悪いせいか、いつも大切な時に行動に移せず後悔します。だから今度こそ、マーガレット嬢の傍にいる権利を手に入れたいのです。ただ、あの不貞男のせいで、マーガレット嬢は深く傷ついているでしょう。その上、婚約破棄後半年は、婚約が結べない。ただ、俺はこの半年がチャンスだと思っているのです。この半年で、マーガレット嬢に振り向いてもらえる様に頑張るつもりでいます」


真っすぐ私たちの方を見て話すローイン様。


「ローイン殿がマーガレットを、そこまで大切に思っていて下さっていただなんて。よかったな、マーガレット。ローイン殿ならきっと、マーガレットを幸せにして下さる」


「辛い事もあったけれど、こうやってマーガレットちゃんの事を大切に思って下さっている殿方がいるだなんて。ローイン様、どうかマーガレットちゃんの事を、よろしくお願いいたします」


「ローイン様、マーガレットは本当に傷つき苦しんできました。そんなマーガレットを地獄から救い出してくださったローイン様には主人共々、本当に感謝しておりますわ。もしあなた様から正式に婚約のお話しがあれば、我が家は喜んで受けるつもりでおります。どうかマーガレットの事を、よろしくお願いいたします」


「皆様、ありがとうございます。ただ、俺は彼女の気持ちも大切にしたいのです。マーガレット嬢、今日は君の顔を見られてよかったよ。これ、王都で人気のお菓子だ。よかったら食べて欲しい。君はあいつらのせいで、随分やつれてしまったから。それでは俺はこれで」


私達に頭を下げ、ローイン様はそのまま去って行ったのだった。

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