第26話 お兄様家族が帰ってきました

ローイン様のお誕生日パーティーの翌日、朝からお父様は王宮に呼ばれて出掛けて行った。どうやら昨日の件で、呼び出しがかかった様だ。


「マーガレットの件、しっかり皆に話して来るから、安心して待っていなさい!」


と、意気ごんで出掛けて行ったお父様。ちなみに今日は貴族学院もお休みなので、家でゆっくり過ごしている。お昼過ぎ、話しを聞きつけたお兄様夫婦が領地からやって来た。どうやら昨日の夜、すぐにお父様が使いを出した様だ。


「マーガレット、昨日は大変だったそうだな。それにしても、ジェファーソンの奴、まさか不貞を働いていただなんて」


「結婚前に、それも婚約者ではない異性と関係を持つだなんて。本当に信じられませんわ。その上、マリン嬢はあろう事か、マーガレットちゃんを悪者に仕立て上げたそうじゃない。自分の悪事を棚に上げて!本当に同じ令嬢として、許しがたい事実ですわ」


お兄様とお義姉様が怒りをあらわにしている。お兄様はともかく、いつも穏やかなお義姉様まで私の為にこんなに怒るだなんて…


「それよりも、父上や母上は何をしていたのです?どうしてマーガレットの言う事を聞かなかったのですか?マーガレットは嘘を付くような子ではないのに。それにマーガレットも、どうしてすぐに俺に連絡をしてこなかったのだい?こんなにも理不尽な目にあっていたと言うのに」


お兄様の怒りの矛先は、私やお母様にも向けられた。何も言い返せずに、悲しそうに俯くお母様。昨日散々自分たちを責めていたのだ。さすがにお母様が可哀そうだわ。


「お兄様、お父様もお母様も、その件で昨日から相当ご自分たちを責めていましたわ。どうかこれ以上お母様を責めないであげて。それから、お兄様に報告しなくてごめんなさい。あの時はもう誰も私の言う事を信じてくれないと、自暴自棄になっていて…」


あの時はもう、全てが敵だと思っていたのだ。


「それだけマーガレットちゃんは辛い思いをしたのね。とにかく、デスティーノ伯爵家とカスタヌーン伯爵家には、たっぷり慰謝料を請求しましょう」


「父上もそのつもりだよ。それよりも、あれほどまでにマーガレットを愛していると豪語していたくせに、他の令嬢にうつつを抜かすだなんて。やっぱり納得できない。今からジェファーソンに文句を言ってくる」


「お兄様、おやめください。もう私たちは婚約破棄をしましたし、それに私はもう彼には関わりたくはないのです」


今から乗り込みに行こうとしているお兄様を、必死に止める。私はもう、ジェファーソン様には関わりたくはないのだ。


その時だった。


1人のメイドが、お母様に何やら耳打ちをしたのだ。


「何ですって…ジェファーソン様がいらしているですって…」


ポツリとお母様が呟いたのだ。今ジェファーソン様がいらしたと言った?


「今ジェファーソン殿が来たといったよな!君、本当にジェファーソン殿が来ているのかい?」


「はい、今玄関に…」


「あの男、今更何しに来たのだ。俺が追い払ってくる。マーガレットはここにいてくれ」


凄い勢いで、お兄様が部屋から出て行った。お兄様、大丈夫かしら?


心配になって、私たちも玄関の方に向かうと…


「ジェファーソン殿、何をしにいらしたのですか?妹はあなたの顔なんて二度と見たくないと申しております。そもそも、よく不貞を働いた分際で、我が家に来られましたね。今すぐお帰り下さい。おい、お客様のお帰りだ。今すぐこの男をつまみ出してくれ」


貴族らしく紳士的に対応しようとしたお兄様だが、最後は感情が溢れ出してしまった様だ。


「待って下さい、バロン殿。僕は今でも、マーガレットを愛しています。マーガレットも僕の気持ちを話せば、きっと分かってくれると思います。どうか彼女に会わせて下さい」


「貴様、不貞という最低最悪な裏切りを行った分際で、まだマーガレットを愛していると寝言をほざいているのか!ふざけるのも大概にしろ。それから、もう婚約者でもない令嬢を、呼び捨てにするな!とにかくマーガレットは、貴様の顔なんて二度と見たくないと言っている。さっさと帰れ。何をしているのだ、今すぐこの男をつまみ出せ。今すぐだ」


お兄様の指示で、ジェファーソン様が護衛たちに連れて行かれる。


「待って下さい。どうかマーガレットに会わせてください。お願いします」


必死に訴えるジェファーソン様だが、そのまま退場して行った。


「今度からあの男が来たら、門を通さない様に門番に指示を出しておいてくれ!本当に、マーガレットの事を何だと思っているのだ。腹ただしいことこの上ない」


「お兄様、ジェファーソン様を追い出してくださり、ありがとうございました。とにかく、落ち着いて下さい。もうすぐお父様も帰って来るでしょうから」


怒り狂うお兄様を必死に宥める。と、その時だった。


「お嬢様、今度はグランディス侯爵令息様がいらっしゃいました」


「ローイン様が?」

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