第23話 勇者さまとマコトの喧嘩?

 1週間後、オレは完全復活した。

「三角帽子が元気になった!」

 意外にも、一番喜んだのはマコト。

 マシロとキョウヤが自分に笑顔を向けているのを見ると、ツンと唇をとがらせてしまった。

「なんだよ」

「ごめんなさい。すごく喜んでるから、ほほ笑ましく思っちゃって」

「すまないね。次から気をつけるよ」

「ったく、子供扱いして……」

 2人が謝ると、マコトは不機嫌そうに頬を膨らませた。

 そういうところが子どもだから、さっきみたいに笑われるんだよ。

「はぁっ!? 1つしか変わらないのに、子どもって言うな! ボクが子どもなら、三角帽子も子どもだ!」

「13歳と14歳は同じじゃないよ」

 マコトと一緒にしないでほしい。

 背だってオレの方が高いし、マコトみたいに子どもっぽくない。

 つまりオレは子どもじゃない。

「えー、同じでしょ。2人とも成人年齢じゃないもん。ていうか、そんなくだらない言い争いをしている時点で2人とも子どもだよ」

「だよねっ、マシロちゃんも同じだと思うよね!」

「僕から見れば、君たち3人は子どもだよ。と言っても、僕も17歳だから年上から見ればそこまで変わらないんだろうね」

 ふーん、キョウヤは17歳なんだ。知らなかった。

 お兄さん的存在だなーとは思っていたよ。

 ということは、年齢が判明していないのは勇者さまだけか。

 この間、マコトは「勇者に子ども時代なんてない。はじめから大人」って言ってたけど、そんなことありえるのかなぁ。

 そういえば勇者さま自身も、生まれてからの年数なら自分はまだ2歳だって言ってたよな。

 2人が口裏を合わせている……とか。

 んなわけないな。あのときは出会ったばかりだったし、そんなことをするほど信頼関係を築けていない。

 まさか、本当のことだったりして……。

 いやいやいや、そうだとしたら勇者さまっていうのは――。

「みんな、ずいぶんと仲が良いな。5人で旅を始めて、まだ1週間と少ししか経っていないのに」

 勇者さまの笑い声で、オレは考えることをやめた。

 考えるだけ無駄だ。時間をかけて考えても、真実はわかりゃしないんだから。

「これだけ毎日一緒に過ごしていれば、多少は仲良くなりますよ」

 オレが言うと勇者さまは「それもそうだな」とほほ笑んだ。

「はあ?」

 呆れたような声を出したのはマコト。

 ふん、とそっぽを向いた。

「ボクは絶対に仲良くならないよ。勇者と手を組んだのは自分のため。終わったら魔物の国に帰る」

「まっくん、そんな冷たいこと言わないで仲良くしよう?」

「いいや。たとえマシロちゃんの言うことでも嫌だね。馴れ合いは嫌いだ」

 マシロの言葉をはねのけるマコトは、なんだかめずらしいような。

 強制するつもりはないけど、こうしてハッキリ言われると、なんというか……。

「そんなことより、今日もお爺さんを手伝うんだろ? もちろん三角帽子も。元気になったもんな」

 当たり前だろ。まったく手伝えてなかったことが申し訳ないくらいだ。

「そんじゃあ、今日も今日とて、仕事だ仕事!」

 マコトは一番に部屋のドアへ向かう。

 途中でピタリと足を止めて、こちらを振り返った。

「目的、忘れんなよ」

 パタン、とドアが閉められる。

 勇者さまは、マコトの後を追いかけて「俺も先に行っているぞ!」と走っていった。

「目的って……」

 マシロが首をかしげた。

「アレだろ。体力と魔力を増やして、連携プレーの精度を高めるってやつ」

「よく覚えてるね、ホマレ。わたし、すっかり忘れてた。どうしたらそんなに覚えていられるの?」

 逆に聞くけど、なんで覚えてないの? 話聞いてない?

「ホマレくん、その言い方は嫌われるよ。気をつけないとね」

 う、キョウヤに怒られた。

 でもそっか、言い方に棘があったか……。

「……ごめん、マシロ」

「ううん! 謝れて偉い! よしよししてあげる!」

「うわぁっ、やめろ!」

 オレを撫でてもいいことないぞ!

 手を払いのけると、マシロはクスリと笑い声をもらした。

「僕も無でようかな」

 嫌だ!

「冗談だよ」

 キョウヤはいつも通りの表情で言うから、冗談に聞こえないよ。

「さあ、僕らも行こうか。2人を待たせているからね」

「そうだね。まっくんに怒られちゃうよ。何やってたんだーって」

「ああ。勇者さまも、マコトと2人じゃ大変だろうし」

 オレたちはうなずきあうと、部屋を出た。



 宿のロビーに近づくと、青年と少年の言い争う声が聞こえてきた。

 聞き覚えがある声――というか、ついさっき聞いたばかりの声だ。

 オレたちは顔を見合わせると、小走りでロビーへ向かう。

 見えてきたのは、頭1つ分くらい身長差がある2人組。

「だーかーらー! そんなのボクの勝手だろーが!」

「いいや、良くない。絶対に良くない」

 やっぱり、勇者さまとマコト!

 でも、なんで2人が口喧嘩してんの!?

 隣のマシロも、ギョッと目を見張っている。

 幸い、ロビーには他のお客さんはいなかった。

 いるのは受付のお婆さんだけ。

 お婆さんはしわくちゃのおでこをさらにしわくちゃにして、2人を心配そうに見ている。

「待った待った。2人とも落ち着いて」

 見つけた瞬間、キョウヤが2人の間に割って入った。

「何があったんだい」

「「勇者が/マコトが」」

 2人は息ぴったりにお互いを指さすと、睨み合った。

「ボクのせいにするな」

「マコトこそ」

 キョウヤの言う通り、何があったんだか。

「勇者が、ボクの呼び方を指摘してくるの! あんなの自由だろ!」

「自由にも限度があるじゃないか。ホマレを三角帽子と呼んだり、キョウヤをハチマキと呼んだり……どうしてあんな呼び方をする?」

 あー……、なるほどね。

 だから「ボクの勝手だろ」なんて言っていたのか。

「さっきから言ってる! 名前なんか呼ばなくても、伝わればいいんだ!」

「本当にそうか? そういえば、マシロのことは名前で呼ぶよな」

「癖だよ、癖!」

「この間ホマレが倒れたとき、ホマレって呼んだな」

「それはたまたま」

 え、ホマレって呼ばれたの?

 聞きたかった……。

「わたし、ホマレが起きたときに言わなかったっけ」

 ごめんマシロ。

 あのときは目覚めたばっかりだったから、よく覚えてない。

「名前を覚えてないわけじゃないんだろう」

「……」

 マコトは黙りこくってしまう。

 勇者さまから目を逸らして、キュッと唇を結んでいる。

 あのう、勇者さま。

 もうよしてあげてください。

「オレは三角帽子って呼ばれるの、別に気にしてないんで」

 本当は、名前で呼んでほしいけど。

 この場をおさめるために、そういうことにしておく。

「ホマレくん」

 キョウヤがオレを見た。

 驚いているみたいだ。

「大丈夫だって。な、キョウヤもそうだろ?」

「ああ。僕も平気だよ」

 キョウヤは何度かまばたきして、笑顔でうなずいた。

「そういうことなので、勇者さま」

「……わかった。2人がいいなら、俺も気にしないでおこう」

 勇者さまはマコトに一言「すまなかった」と謝って、俺たちに笑いかけた。

「キュウキュウ、キュー?」

「はぁ? ……立場ってもんがあるだろ」

 ウィングとマコトが何やら話しているけれど、翻訳魔法を使っていないから、ウィングの言葉がわからない。

 でもなんとなく、マコトが名前を呼ばないのは、今言った〝立場〟ってやつが関係しているのだろうと、そんな気がした。



 その日から、オレたちは農作業にいそしんだ。

 毎日大変だけど、作物が少しずつ育っていくのを見るのは楽しい。

 そして老人の国に来てから数カ月。

 緑が色とりどりの暖色に変わったころ、作物を収穫する時期がやってきた。

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