第21話 休み時間
なんだろう、なんかまぶしい……。
ゆっくりまぶたを開けると、木でできた見覚えのある天井が目に入った。
ここは宿か……?
外から、小さく鳥の鳴き声が聞こえる。
「あ、やべ」
オレの顔をのぞきこんでいたのはマコト。
目が合うとすぐに距離を取って、マシロの背中に隠れてしまった。
え、ちょっと? なんで離れるんだよ。
「こら、まっくん。ホマレに謝るんでしょ」
「待って待って。まだ心の準備が……」
マシロとマコトが何か話してるけど、頭がぼーっとしているせいで、何の話かわからない。
そもそも、オレはどうして寝てるんだっけ。
一番新しい記憶は、まるでもやがかかったみたいに思い出せない。
もう少し前から、順番に思い出してみるか。
老人の国に来たオレたちは、困りごとを探すことになった。
見つけたのは、働き手が少なくて大変だという農家のお爺さん。オレたちはマコトに言われるまま、農作業の手伝いを始めることに。
最近は雨が降らないらしくって……。
あっ、そうだった。
マコトにお願い――というより命令されて、魔法を使って水を降らせたんだ。
それから調子がおかしくなってしまった。
魔力の使いすぎは危険なのに……やっちゃった。何年ぶりだよ。
……でも、なんでベッドにいるんだっけ?
フラっとしたような記憶はあるんだけど……。
オレが首をかしげると、キョウヤがそばまでやってきた。
「ホマレくん、倒れたんだよ。マコトくんが大慌てで僕らを呼びに来た。お茶でも飲むかい?」
温かい緑茶が入ったコップを手渡してくれる。
受け取ると、手のひらからじんわりと熱が伝わってきた。
「ありがとう。そっか、オレ倒れたのか……」
それにしても、マコトが大慌てで……って、マジ?
マコトを見てみると、そっぽを向いて不満そうにしている。
「ねえねえ、ホマレ聞いて。わたし、勇者さまたちのところにいたの。働いている人の身体を癒していたんだけど、そこへまっくんが一生懸命走ってきたんだよ。飛行とかテレポートとかしたらいいのに。助けてマシロちゃん、ホマレが倒れちゃったー! って言うから、ギョッとしちゃった」
マシロが右手を頬にあてて、少し首をかたむけた。
へー、わざわざ自分の足で……。
「助けてとは言ってない」
「そうだっけ?」
マコトが頬を赤くして言うと、マシロはいたずらっぽく、テヘッと舌を出した。
すぐに真面目な顔に戻すと、オレとしっかり目を合わせる。
「でね、今から言うことはしっかり聞いて。ホマレが倒れたのは魔力を使いすぎたせい。あの広範囲に長時間魔法を使って倒れるのは当たり前よ。今回はまっくんの頼みだったからやめられなかったんだよね? すぐ近くに仲間がいたからいいけど、もし1人だったら危なかった。今後は、誰かからのお願いだとしても、自分の身を第一に考えてね。いい?」
「はい。ごめんなさい。気をつけます」
オレは謝りながら目をそらす。
胸がドキドキして苦しいような……。倒れたせいかな。
「ホマレ、ちゃんと聞いた?」
「聞いた!」
ひええ、マシロが少し怒ってる……。
「とにかく、目が覚めてよかった」
勇者さまが笑いかけてくれる。
そんなにホッとした顔をするくらい、ひどかったんですか?
「ああ。1日半くらい眠ってたんだぞ」
「……え?」
1日半……眠ってた?
待ってください。そんなこと言われたら、自分の耳か勇者さまの記憶を疑います……!
「ホマレはおとといの夕方から、今までずっと眠ってたんだ」
じょ、冗談はよしてくださいよ。
今はそんなに体調良くないんで……。
「冗談じゃないわ。勇者さまにひどく叱られたのよ。ねー、まっくん」
マシロが背中に隠れる幼馴染を見る。
にっこり笑顔を向けられたマコトは、オレの前まで出てくると、目線を右へ左へ動かしたあと、オレと目を合わせた。
ペコッと小さく頭を下げる。
「ごめん。……負担を考えてなかった」
「……ああ、魔力を使いすぎたこと? 別にいいよ」
勇者さまに叱られたらしいし、オレも怒っているわけじゃないから。
「魔法って、そんなに扱いづらいものなんだね。ホマレくんが倒れてしまうなんて」
キョウヤが首をかしげる。
知らないのか。オレは学校の教科書に書いてあったのを読んだけど、武闘家は学ばないのかな。
「魔力を使うには、体力が必要なんだ。無理して魔法を使い続けたら、体力がなくなって三角帽子みたいになる」
マコトがキョウヤの疑問に答えた。
「どうして?」
「それが、よくわかっていないらしい。今の科学力では、解明のしようがないものだからさ。でも、ボクは運動するのと同じだと思ってる。走ったり飛んだりするとき、体力を消耗するだろ? 魔法と体力の関係も、それと一緒なんじゃないかな」
マコトは学校に通っていたのだろうか。
学校で習ったと聞いても不思議ではないくらい、ちゃんとした知識を持っているらしい。
「魔王でも予想の域を出ないのか」
勇者さまが首をかしげる。
マコトは腰に手を当てると、大きなため息をついた。
「あのなぁ、魔王はそんなに凄いやつじゃねーから。魔物たちの頂点にいるだけ。さすがに色々と勉強はしたけどさ。てか、勇者こそ知らないのか?」
「魔法に関係することだけじゃない。俺は、この世界のことを何一つ知らない」
勇者さまは窓から外を見て、静かに言った。
「……」
マコトはすっかり黙ってしまって、オレたちも気まずい雰囲気の中発言するのには勇気が足りなかった。
少しの間だけ外の音がよく聞こえるようになった。
その雰囲気を壊したのは、勇者さまだ。
「そうだ、ホマレ。今日は座って俺たちの様子を見ていてくれ。何か気づいたことがあれば言ってほしい」
「なるほど。それはいいですね」
「三角帽子の役割、きーまりっ! お爺さんたちのところに行こうぜ」
勇者さまの提案に、さっきまでの雰囲気はどこへやら、キョウヤとマコトがうなずいた。
座る……って、働くなってことですよね。
本当は部屋でのんびりしていたいけど、勇者さまの言うことは聞こう。
オレがうなずきかけると、マシロがキッと目をつり上げた。
「ちょっとみんな! 病み上がりなんだから、この日差しの中で長時間外にいさせるのは良くないでしょ! ホマレはここで休んでてね。絶対、魔法は使わないで。いい?」
「え、うん。わかった……」
ということは、マシロの言うことを聞けばいいんだよな……。
勇者さまの言うことは? 無視していのか……?
オレは不安に思いながらも、マシロの言葉に従うことにした。
「そ、それじゃあ、勇者さまたち頑張ってください」
「ああ! 行ってくる!」
勇者さまは強く返事をすると、真っ先に部屋を飛び出した。
他のみんなが勇者さまの後を追うのを、オレは1人ポツンと見ていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます