第15話 魔王のネックレス
前回のあらすじ。
勇者さまと魔王がぶつかった。
「ハッ!」
勇者さまが剣を振り下ろす。
しかし、どうやっても魔王に届かない。
「無駄だっつーの。壁があるんだから」
魔王は自分が攻撃する時にだけ、壁を消す。
呪文を唱えずに、風魔法で勇者さまを吹き飛ばした。
勇者さまは空高く飛ばされ、地面に身体を強く打ちつけた。
さっきから、風魔法ばかりだ。
風以外に使った魔法といえば、炎だけ。
「勇者さーん? とーっても、よわよわですねぇ」
魔王はニヤニヤ笑いながら、勇者さまを挑発する。心底楽しそうだ。
「……そうだな。俺には、まだまだ伸びしろがあるらしい」
「そのとおり。だから、殺さないでやる」
魔王は瞬間移動して、勇者さまとの距離を縮める。
立てない勇者さまの髪を掴んで引っ張り上げると、右手を顔の前にかざした。
手が赤く光る。
勇者さまの顔との間に、炎の玉ができあがった。
「ただし、お前に死の淵をたーっぷり味わわせてから、治癒魔法で助けてやるよ。『殺さない』ってのは、そういう意味だ」
魔王が、炎の玉を放ちかけたときだ。
勇者さまは光の剣を、魔王の首――ではなく、下げられているネックレスに向けて振るった。
「!」
魔王は勇者さまから手を離すと、距離を取るためにテレポートしようとした。
だけど、それより先に勇者さまの剣が到達する。
――ネックレスが、粉々に砕け散った。
「な……」
魔王は、呆然とその場に立ち尽くす。
しっかり立っていたはずが、身体が大きく右に揺れた。
倒れる魔王を、勇者さまが支える。
「遠くから攻撃しておけば良かったな」
気を失っているため、魔王にその言葉は届かない。
「……」
オレは、キョウヤと目を合わせた。
勇者さまが、どうして魔王のネックレスを壊したのか……それが、まったくわからない。
ネックレスについてわかることといえば、禍々しいオーラを放っていることだけ。
それに、ネックレスが壊れた途端、魔王が倒れた理由は、一体なんだろうか。
「まっくん……」
マシロが、小さな声でつぶやいた。
それから、魔王に向かって走り出す。
「ちょっ、マシロ!?」
「マシロくん!」
マシロは魔王のそばまで行くと、頬に手を触れた。
「……大丈夫そう」
ホッと息をつく。
オレとキョウヤも、3人のところへ近づいた。
気を失っている魔王は、どう見たって「少年」だ。
「――あ、あなたたち……」
聞いたことのある声――女王さまのものだ。
女王さまは、木の陰から姿を現した。
いつからそこにいたのだろうか。
「その……魔王は……」
何やら、動揺しているようだ。
それに、この少年が魔王だと知っているらしい。
会ったことがあるのか?
「この子は、わたしたちがなんとかします。女王さまは、安心してください」
マシロがそう言った。
なぜか、勝ち誇ったようなほほ笑みだ。
女王さまは、オレにもわかるほど無理やりな笑顔を作った。
「そう……よろしくお願いしますね」
地面に散らばったネックレスの破片を、チラチラと気にかけている。
「みんな、行こう。勇者さまは、魔王を抱えていてください。ホマレ、『老人の国』にテレポート」
マシロが、珍しく指揮を取る。
「え? う、うん……」
オレはうなずくと、言われた通りにテレポートした。
☆
老人の国の門の前に、テレポートした。
勇者さまを見ると、魔王をしっかり抱えている。
あれがいわゆる「お姫様だっこ」ってやつだな。
お姫さまじゃなくて魔王だけど。
お姫さまみたいに可愛いところなんて、一切なかったけど。
「おや? そちらは、怪我人ですか?」
門番をしていた、長いひげをたくわえたお爺さんが、勇者さまに聞いた。
「はい。……魔王ですが、平気ですか?」
勇者さま、それは絶対に聞かないほうがいいって……!
けれど、お爺さんの反応は、思っていたものとは違った。
「魔王様ですか! なんと、可哀想に……。少々お待ちください。――おおい、爺さんや」
柔らかい笑顔を浮かべると、門の奥に声をかけた。
「どうした、爺さん」
現れたのは(老人の国だから当たり前だが)お爺さんだ。
この人は、髪の毛が少ない。
「爺さんや、こちらの方々に、宿を用意してやっとくれ」
「おやおや。爺さんよ、これは待たせちゃいかん」
お爺さんがお爺さん同士で、お互いを「爺さん」と呼び合う、頭がこんがらがる状況になっているが、高齢の方しかいらっしゃらない国だから、気にしないでおこう。
「ささ、こちらへどうぞ」
門番のお爺さんに呼ばれたお爺さん……というのは長いから、お爺さん2と呼ぶことにしよう。
お爺さん2は、オレたちを宿まで連れて行ってくれた。
「この部屋で、ごゆっくりどうぞ」
お爺さん2は、実家のような安心感をかもし出しながら、仕事へと戻っていった。
改めて、部屋を見てみる。
5人で過ごすには、もったいないほど広い。
それに、なんだかホッとする場所だ。
「魔王を、ベッドに寝かせようか」
勇者さまは、日当たりの良い位置にあるベッドに、魔王を寝かせた。
……と思ったら、
「ん……」
魔王が目を覚ましてしまった。
まさか、今目を覚ますとは……!
「……? あれ……?」
魔王は起き上がると、周りをキョロキョロ見回す。
「平気か?」
勇者さまが、魔王の顔をのぞき込んだ。
魔王と勇者さまの目が、パチっと合う。
「…………………………うわっ!?」
魔王はのけぞった。
さっきまでの威圧感は、まったく感じられない。
「これ、どういうことだよ」
こっちのセリフだよ、魔王さま。
「まっくん、久しぶり」
「あっ、えっ!? マシロちゃん!!」
魔王はマシロを見ると、驚いて目を丸くした。
さっきマシロを見た時は、「誰?」とか言ってたのに。
マシロが抱えているウィングにも気がついたらしい。
「わ、ウィングだ。へえー、久しぶりだな」
ウィングをかかえると、ぎゅう〜っと抱きしめる。
「キュウ〜!」
ウィングも嬉しそうだ。
魔王に一体全体、何があったんだ。
「まっくん、ちゃんと自己紹介しなさい」
「えー……マシロちゃん、お母さんみたいだな」
魔王は苦笑すると、気を取り直すように咳払いした。
「ボクは魔王のマコトだ」
なんで一人称が変わってるんだよ……?
しかも、やけに子供っぽくなったじゃないか。
魔王――マコトが放った次の言葉は、オレの頭をさらに混乱させた。
「……で、誰? マシロちゃんとウィングしかわかんないや」
呆気にとられるオレたちとは対照的に、マコトはカラカラと笑い声を上げたのだった。
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