第14話 vs魔王

「初めまして。魔王でーす☆」

 少年――魔王は、驚くほど爽やかに言った。

 両手ピースで存在をアピールする。

 オレは杖を構えて、仲間たちに目を向ける。

 勇者さまは、光の剣を手に持ったところだった。

 マシロは、魔王を静かに見つめる。

 マシロに抱えられているウィングは、魔王に両手を伸ばして、「キュウッ、キュウ!」と嬉しそうに鳴いた。

 キョウヤはロボットをもとに戻して、魔王を厳しい目で見た。

 勇者さまとキョウヤは、戦う気があるようだ。

「……」

 魔王は、ただ1匹鳴き続けるウィングを見て、目を細めた。

「うるさいな、コイツ」

「キュッ!? キュッ、キュウキュウ!」

「ムダだよ、ウィング」

 魔王に冷たく見られて泣きわめくウィングに、マシロが寂しそうに言った。

「さてさて、勇者は目の前にいる魔王を、どうするおつもりかな?」

 魔王は、ウィングとマシロを気にしていないらしい。

 光の剣を手に魔王をじっと見つめる勇者さまに話しかけた。

「俺の選択肢は、お前を倒すことのみだ」

「だろうな。んじゃ、やってみるか?」

 魔王は、右手に炎、左手に風を作り出した。

 次の瞬間、それらを同時に放った。

 馬が走るくらいの速さで、攻撃が飛んでくる。

 呪文を唱える暇はない。

 オレは、無口頭呪文に慣れている水魔法で壁を作った。

「ムダだよ」

 ――水が弾けとんだ。

 やっぱり、防御魔法じゃないとダメか……!

 熱風が吹き荒れる。

「熱っ!」

 悲鳴を上げるオレたちを見ながら、魔王が楽しそうに笑う。

「経験不足なんだよ、お前ら。――ぶっ飛べ!」

 風の威力が強くなる。

 砂が舞い上がり、顔や服にあたってバチバチ音を立てた。

 身体が浮いて、ロボットのたまり場に打ち付けられる。

「くぅ……」

 みんな、熱風と身体へのダメージで動けない。

「アハハッ! 弱すぎ!」

 魔王が高笑いした。

 余裕たっぷりな足取りで、勇者さまに近づく。

魔王に手も足も出ないなんて、勇者失格じゃねーの?」

 倒れる勇者さまを、あざ笑うように見下ろした。

「っ……」

 勇者さまが、悔しそうに歯を噛みしめる。

「キュウキュウ!」

 ウィングが、マシロの腕から抜け出した。

「ダメ、ウィング……!」

 マシロが手を伸ばすも、力が抜けてしまう。

 ウィングは、魔王に近づいた。

「キュッ」

「何?」

「キュウキュウ! キュウ!」

「ハァ……。おれ、翻訳魔法使ってないから、何言ってるかわかんねーよ」

「キュ……」

「ごめんな。……お菓子食べる?」

 魔王は、魔物に対しては優しいらしい。

 マントからクッキーを出すと、それをウィングに与えた。

「キュッ!」

 ウィングは嬉しそうに受け取ると、おいしそうに食べ始めた。

「おいしい? 良かったな」

 そう言ってほほ笑む彼は、魔王には見えない。

 魔物とたわむれる、どこにでもいそうな少年だ。

「……ねえ」

 マシロが、魔王に話しかけた。

「マシロ、危ないぞ」

 勇者さまが止めるけど、聞かずに話し続ける。

「どうして、ウィングのこと忘れてるの?」

「は? 誰だ、あんた」

「ひどいよ、まっくん……」

 マシロの目に、大粒の涙が浮かぶ。

「わたし、マシロだよ。小さい頃、ウィングと3人でたくさん遊んだでしょ? ウィングに名前をつけたのは君だよ。君はわたしのこと、〝マシロちゃん〟って、呼んでくれたんだよ」

「マシロちゃん……?」

 魔王は首を傾げる。

 それから、苦しそうに頭をおさえた。

 その間にマシロは小声で「癒やして――コンコルディア」と、みんなに治癒魔法をかける。

「ねえ、あのネックレス、まだつけてるの? 外さなきゃダメだよ。昔のまっくんに戻ってよ」

「っ……! う、うるさい!」

「ねえ、まっくん」

「黙れ!!」

 魔王はマシロに向かって、右手をかざす。

「マシロ、そこを離れろ!」

 マシロの治癒魔法で傷が治った勇者さまが、マシロに声をかけながら魔王との距離を詰めた。

 魔王の注意が勇者さまに向く。

「はぁっ!」

 勇者さまが光の剣を振り下ろすと、魔王に当たる前に剣が止まった。

 おそらく、防御壁だ。

 透明だから、人の目には見えない。

「……仲間のピンチに駆けつけるってやつか」

 魔王は勇者さまの攻撃を突き返した。

 自分のマントに手をかけると、空へ投げる。

 マントの下は、〝良家の坊っちゃん〟が着ていそうな服だった。

 首から、ネックレスが下がっている。

 そのネックレスから、禍々しい魔力を感じた。

「そういうの、あんま好きじゃないんだ。『俺は仲間を大切にできるスゴイやつだ』って主張してるように感じられてさ」

「事実だろ」

「あっそ。じゃあ、そんなお前のために、ちょっとだけ本気出してやるよ」

 魔王は悪い考えを思いついたときの顔をする。

 そして、勇者さまとぶつかりあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る