第13話 女王さまの案内
女王さまは、オレたちに街を案内してくれると言った。
断って失礼になるのもいけないと、勇者さまを先頭に、女王さまについていく。
街を歩きながら、キョウヤが「男性の国も男性しかいないが、この国は本当に女性しかいないんだな」なんて言っている。
「あ、女王さまだぁ!」
幼い女の子が、女王さまを見ると嬉しそうに飛び跳ねた。
そんな女の子に、女王さまは天女のようなほほ笑みを向けて、優雅に手を振る。
すると、女の子はすっかりおとなしくなってしまった。
どうやら、女王さまのあまりの美しさに、見惚れてしまっているようだ。
「……女王さま、相変わらずですね」
マシロが、女王さまの背中に言う。
どうしてか、彼女を冷たく睨みながら。
「マシロ? どうした?」
「ううん。なんでもないよ」
オレが首を傾げると、マシロは笑顔になる。
「キュ……」
ウィングの鳴き声がして、つられるようにウィングを見た。
ウィングはマシロと同じように、女王さまを睨んでいた。
もしかして、2人と女王さまは知り合いか……?
女王さまは、そんな素振り、まったく見せなかったけど……。
この様子だと、知り合いだと考えるのが自然だな。
2人と女王さまの間に何があったのかはわからないけど、良くないことがあったことには違いなさそうだ。
「さあ、みなさん。こちらが宿です」
女王さまは、古そうな建物の前で立ち止まる。
手で示した建物は、どうみても宿になんて見えない。
「ここで、少しお話しましょう」
女王さまはそう言うと、宿に入っていく。
後に続けて宿に入った。
宿の中は、外見と比べるとかなり綺麗だ。
最近建てられたと教えられても、違和感はない。
宿の主人に、空き部屋まで案内される。
空き部屋には、いくつものソファーが置いてあった。
女王さまは、そのうちの1つに腰を下ろす。
「どうぞ、お座りください」
すすめられるがまま、オレたちも座った。
フカッと柔らかくて、背もたれに身体を預けてしまいそうになる。
だけど女王さまの手前、そんなことはできない。
「まずは、みなさんのお名前を教えていただきたいです」
自己紹介か。
こういうときは、たいてい勇者さまから話すんだよな。
グループの代表みたいなものだから。
「勇者のユーセイです」
勇者さまは、ゆったりした動作で頭を下げる。
オレもあんなふうにしなきゃ……!
「魔法使いのホマレといいます」
ぎこちない動きで、勇者さまのように頭を下げた。
「武闘家のキョウヤです」
キョウヤも、自己紹介を済ませる。
あとは、マシロだけだ。
「わたしは……」
「ああ、貴女は大丈夫。僧侶のマシロでしょう? もちろん、覚えているわよ。その竜も、たしかウィングだったかしら?」
「……」
やっぱり、女王さまと2人は知り合いらしい。
ウィングという名前は、てっきり男性の国にてマシロが考えてつけたものだと思っていたけど、そうじゃなかったのか。
「いいことを思いついたわ。みなさん、戦闘経験は豊富ですか? もし良ければ、特訓施設で訓練をしませんこと?」
女王さまは提案をした。
オレたちは、顔を見合わせる。
「それは、どういった訓練ですか?」
「ロボットを敵に見立てて戦うのです」
キョウヤの質問に、女王さまは答えた。
ロボット……って、機械でできているあれか。
実は、見たことないんだよな。
『ロボットの国』というのがあって、そこでロボットが作られているらしいんだけど、詳しい素性はわからない。
魔物の国へ行く途中、避けては通れない国だそうだ。
「百聞は一見にしかず。実際に見てみましょう。ついてきてくださいな」
女王さまはそう言うと、ソファーから立ち上がって、空き部屋を出ていった。
☆
女王さまが向かったのは、山の奥深くにある開けた場所だった。
使い古された、人に似た人じゃないものがたくさんいる。
「気持ち悪……」
オレがつぶやくと、女王さまがほほ笑んだ。
「ホマレさんは、ロボットを見たことがないのですか?」
「えっ? あ、はい……」
……まさか、みんな見たことあるの?
みんなの顔を見る。
勇者さまとマシロは、それほど驚いてはいないようだった。
「大丈夫だよ、ホマレくん。僕も初めて見たから」
キョロキョロするオレが何を考えているのかわかったのか、キョウヤがオレに笑いかけた。
キョウヤも初めてなのか。ちょっと安心した。
「さあ、みなさん。さっそく訓練を始めてみてください。ロボットは、背中のスイッチのオンオフを切り替えて使ってくださいね。それでは、私はこれで」
女王さまは優雅に礼をすると、テレポートしたのか消えてしまった。
様子を見なくて、良かったのかな。
初対面の旅人を、信用なんてしてないだろうに。
「使ってみるか……?」
キョウヤが、ロボットに近づいた。
背中のスイッチを探そうと、ロボットを動かしたときだ。
「――勇者?」
オレたちの背後から、少年のものと思われる声がした。
振り返ると、2本のツノに、肩くらいまで伸ばした緑色の髪を持つ、黒マントの男の子がいた。
髪の間からのぞく耳は、少しだけとがっている。
赤と桃色が混ざったような色をした瞳は、勇者さまをにらんでいた。
ここは女性の国だから、いくら子どもといえども、男が住んでいるわけがない。
ということは、この子も旅人か……?
「チッ。しょうがない。自己紹介しとくか」
少年は、大きなため息をつく。
――次の瞬間、その少年から発せられた言葉は、オレたちを凍りつかせた。
「初めまして。魔王でーす☆」
ありえないほど爽やかに言いのけた少年――魔王に、全員が言葉を失ったのだった。
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