女性の国

第12話 女性の国

 キョウヤが仲間入りした翌朝、オレたちは勇者さまを先頭に、男性の国を出た。

 それから3日。まだ女性の国は遠い。

 道中で考えてみたことだけれど、勇者さまの旅はあまりお金がかからないから、財布には優しいかもしれない。

 ただ、目的地に着いて、たった1日しか休みがないのはかなりキツイ。

 例えば、子どもの国と大人の国は、歩いておよそ20日。ここはめちゃくちゃ遠い。

 大人の国と男性の国は、だいたい10日。

 男性の国と女性の国は、7日ほどで着く。

 こんなに歩いているのに、休みが1日しかないって、正直どういうことだと叫びたくなる。

 勇者さまは、本当に人間なんだろうか……。


 マシロとキョウヤを見ると、2人も辛そうにしていた。

 うん、オレもキツイ。

 マシロはチビ竜のウィングを抱えているから、相当疲れているだろう。

「……勇者さま」

 この長距離移動に耐えかねて、オレは勇者さまに提案することにした。

「どうした?」

「テレポートしません?」

「……あ、瞬間移動か」

「はい。この人数なら余裕ですよ」

 オレが話すと、マシロとキョウヤが、キラキラ輝く目を向けてきた。

 そうだよな。疲れてんだよな。

 勇者さまってば、全然止まらないもん。

「そうだな。ホマレが平気なら、そうしよう」

 勇者さまは、快く受け入れてくれた。

 ということで、オレは杖を空にかざす。

 そして、女性の国を目的地にテレポートした。

 視界は一瞬で切り替わり、目の前に現れたのは大きな門だ。正しくは、オレたちが門の前に現れたんだけど。

 ここが、女性の国の入口らしい。

「わぁ……あっという間だ」

 マシロは、ウィングを抱えたまま、あ然としている。

 ていうか、それ重くないの?

「キュッ!!」

 ウィングの口から、炎の玉が吐き出される。

 ふよふよと飛んできたそれは、オレの鼻先で弾け飛んだ。

「あっつ! お前なぁ!」

「キュ」

 フイッと、顔を背けられる。

 なんなんだよ、この竜……。

「ホマレくんが良くなかったね」

 キョウヤが笑いながら言った。

 オレが悪いのか……。でも、まさか竜が体重を気にするなんて思わないじゃん。

「ウィングだって、そういうのは気になるの。ね、ウィング」

「キュウ?」

 マシロが目を合わせると、ウィングは首を傾げた。

 やっぱり、コイツ気にしてないだろ。

 さっきのは、たまたまなんじゃないの?

「キュッ!」

 また1つ、炎の玉を吐き出す。

「うわっ」

 今度は、上手く避けて当たらなかった。

「さすがに、一度受けたら二度とは引っかからないぞ――って、わー!?」

 オレが話している最中に、ウィングがつむじ風を起こしたので、帽子が飛んでいってしまった。

「そんなことしちゃ、ダメだろ!」

 風魔法で帽子を取り戻しながら、ウィングに言う。

「キュッキュッキュ」

 このチビ竜め……!

 さては、人を馬鹿にすることを覚えてるな。

「「……」」

 睨みあうオレとウィングを見て、勇者さまが笑った。

「楽しそうで何よりだ」

「勇者さま……」

 なんで楽しそうに見えるんですか……。

 これは仲が悪い部類に入るでしょ。

「――あら、旅人さん?」

 とつぜん響いた、おしとやかそうな声に、オレたちは会話をやめた。

 門の向こうから出てきたのは、1人の女性だった。

 薄桃色のふわふわした髪に、優しそうなタレ目の人だ。

 身にまとっているのは、ドレスだろうか。

「こんにちは。私は、女王のアイリスです。ようこそお越しくださいました」

 女王さまはそう言うと、上品にほほ笑んだ。



 ――勇者一行が到着する約1時間前――

「お母さん、久しぶり!」

「あら、久しぶりね」

 女性の国の女王のところに、魔王がやってきた。

「見て、これ。世にも珍しいツノドリル」

 魔王は、手土産につれてきた魔物を見せる。

 ツノドリルというのは、大人の国に向かうホマレに襲いかかった、あの魔物だ。

 魔王がなんとなくそう呼んでいるだけで、魔物自体の種族名ではない。

 世にも珍しい、と魔王が言ったわけは、ツノドリルなのにツノが無いからだ。

 ツノが無いツノドリルは、しょも〜ん……と落ち込んでいる。

「飼ってあげて。仲間にも見放されてるやつだから」

「あら、飼っていいの? ありがとう。とっても可愛いわ」

 女王はツノが無いツノドリルを抱っこすると、さっそく可愛がる。

「さてと。おれはこの国をまわってこようかな」

「ちょっと待って。ネックレスは、ちゃんとつけてる?」

 女王は、心配そうに魔王に聞いた。

「つけてるよ。お母さんがくれたものだし、外しちゃダメって言われたから」

「そう。それならいいの」

「ふーん……? いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 魔王は、女王に見送られながら、姿を消した。

 ――この数時間後、魔王は勇者たちと鉢合わせすることになるのだった。

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