第11話 仲間入り

「本当にありがとうございました!」

 キョウヤさんが、思い切り頭を下げた。

 勇者さま、マシロ、オレの3人は、驚いて何も言えない。

 ただ1匹、マシロの腕に抱えられている小さくなった竜――マシロいわく〝ウィング〟だけが、「キュウ」と可愛らしい声を上げた。

 キョウヤさんは、頭を下げたまま話を続ける。

「今回の反省を踏まえて、大武闘会の内容は変えるそうです。今日もし、みなさんがいらっしゃらなかったら、どうなっていたか……」

 その言葉を聞いて、オレたちは顔を見合わせた。

 オレが代表して、キョウヤさんに聞いた。

「あの……男性の国の人たちは、基本的に強い人ばかりですよね? それは大げさすぎるんじゃ……」

 オレが話している最中、キョウヤさんは勢いよく頭を上げると、突如として熱弁を始めた。

「何を言っているんだい、ホマレくん。たしかに君の言う通り、男性の国の人々は強い。だが、魔物に対する実践経験がないんだ。訓練するのは、おもに対人戦闘だからな」

 めちゃくちゃ早口で聞き取りにくかったけど、とりあえず言いたいことはわかった。

「それなら、どうしてキョウヤさんは、あんなに戦えたんですか?」

 魔物への実践経験がないというのなら、それはキョウヤさんにも当てはまりそうなものだ。

「僕は毎年、大武闘会に出場しているからね。魔物との戦い方なら、心得ている」

 それを聞いて、勇者さまは目を輝かせた。

「仲間に最適ではないか!」

 オレとマシロは、視線を交わす。

 マシロの目は、「いいね」と言っている。

 オレも勇者さまに賛成だ。

 勇者さまの目的は、魔王を討伐すること。

 それを果たすには、あと1人以上は仲間を増やす必要があると思うから。

 さすがに、勇者さま・僧侶・魔法使いの3人だけだと、魔王という最恐の存在には勝てないだろう。

 でも、ここに武闘家が入れば、勝てる可能性はグンと高くなるはず。

「もともと男性の国に来たのも、新しい仲間を見つけるためだ」

 勇者さまは、1人でウンウンうなずいている。

 それから、キョウヤさんに向き合った。

 姿勢を正して、真剣な顔つきになる。

「俺は勇者だ。魔王を討伐する天命がある」

 キョウヤさんに、手を差し出した。

「キョウヤ、俺はお前と旅をしたい。俺たちと一緒に来ないか?」

「……僕も、そう思っていたところです」

 キョウヤさんはほほ笑んで、勇者さまに差し出された手を、ガシッとつかんだ。

「よろしくお願いします」

 勧誘は成功したようだ。

 オレはマシロと同時に、ホッと息をついた。

「決まりだな」

 勇者さまは、嬉しそうに笑う。

「そうだ。せっかく仲間になるんだ。敬語はやめて、好きな呼び方をしてほしい」

 キョウヤさんは、思いついたように言う。

 マシロと同じことを言ってるな、この人。

「……じゃあ、キョウヤ。よろしく」

「よろしくね、キョウヤ!」

「ああ、よろしく。ホマレくん、マシロくん」

 話し方や呼び方を変えるだけで、親しくなった気がした。

「それでは、明日の朝に『女性の国』へ向かうぞ」

 勇者さまが、あさっての方向を指差して言った。

 ホントこの人、どんどん先へ進みたがるな。

「えー、まだ来たばっかりなのに〜」

「もうちょっと、観光しても良いのでは?」

 マシロとキョウヤが、何やら大人の国で聞いたようなことを、勇者さまに言っている。

 ただ、今回は2人に反対だ。

 なぜって、オレは魔法使いだからだ。

 変な目を向けられるよりは、さっさとここを出たい。

「そうですね、勇者さま! そうしましょう!」

 オレがそう言うと、マシロが非難の目を向けてきた。

 顔が整ってる人の冷たい目は、なかなか恐ろしいな。

「……まあ、しょうがないか。勇者さまは、早く魔王を倒さなきゃいけないもんね」

 マシロは、小さくため息をつく。

 彼女の言葉を聞いて、キョウヤはうなずいた。

「なるほど。そういうことなら、僕は勇者さまについていこう」

 良かった……。

 2人とも、勇者さまを止めることはしなさそうだ。

 オレは1人、ホッと胸をなでおろした。


 ☆


「……」

 魔物の国にて、魔王は放心状態でいた。

 しばらく思考停止状態で、カーペットの上であお向けに寝っ転がる。

 その後、思考再開すると、足をバタバタさせた。

「クソ勇者ぁぁぁ……! なんで魔物みんな倒しちゃうんだよ! 逃がしてやれよ! お前は逃げ出した拉致被害者をぶっ殺すのかー! サイテーだぁぁぁ!!」

 思う存分叫んだあと、また死んだように動かなくなる。

「…………女性の国か……。そういや、最近行ってないな……顔出そっかなぁ」

 首から下げているネックレスに手を触れる。

「よし、行こう」

 魔王は、このとき気づかなかった。

 今から女性の国へ向かうと、勇者たちと鉢合わせすることに。

「何か手土産でも持っていこ。何がいいかなー」

 ……などと、呑気なことを言いながら、女性の国へ行く準備を始めてしまったのだった。

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